第2話・始まりも突然に
やがて、弥吉に手を引かれながら貴之が行き着いたのは、大きな屋敷だった。テレビ以外では見たこともない様な豪邸に、目を真ん丸にして固まる。先を歩いていた弥吉は、それを知らずに進もうとして、クンッと強制停止させられることになった。不思議そうに振り返り、少し首を傾げると、弥吉は
「俺たち船頭が暮らしてる屋敷だよ、船頭は大所帯だからな。あと、向こう岸には死神の屋敷がある……全く、ヘマしやがって…新人の世話で
大きな川の向こう側を睨みながら、弥吉は深いため息を吐く。そして再び止まっていた足を動かし、歩みを進めた。和を感じさせる巨大な門を
「すまんな、間違えとは言え、我等がお前を殺したも同然だ……」
「いえ…特に思い残した事もありませんし…それで僕はどうなるんでしょうか……?」
ここまでの流れを振り返って貴之が思ったのは、どうやら手違いで死んだらしいこと、恐らく生き返れないだろうこと、そして
「…これは?」
「船に乗せた人間の名前を書く仕事をして欲しい、人手不足でな…お前の記憶を見たところ、真面目で几帳面、仕事も手を抜くことなくコツコツ取り組んでいたようだからな…生き返れはしない、かと言って死ぬ予定ではなかったイレギュラーだ、あの川も渡れない。そこでだ、我等の一員になってはくれないか?」
この突然の申し出を断る理由が、貴之には無かった。家族は既に存在せず、生きていた頃は仕事に仲間という認識は持っていなかった、それが、いま目の前にいる人物からは、〝我等の一員に〟と望まれている。
「正式に
「宜しくお願いします」
深々と頭を下げる貴之の様子を見て、流石の船頭長も驚いたらしい。死ぬ筈ではなく、それどころか行きも帰りも出来ず、ひたすらこの場所で帳面に死者の名前を記入するだけの仕事を、
「驚くほど素直な者だな、弥吉」
「ですねぇ……あ、そうそう、お前もう人間じゃないからな?その帳面と契約した時点で……妖怪みたいなモンになったと思っとけばいい。生者の世界に行くのは、百鬼夜行の時くらいだ」
「あ………はい」
こうして、罪を犯すことなく真面目に生きてきた青年、小鳥遊 貴之は、生者の世界と死者の世界の
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Welcome to the Dead 江戸端 禧丞 @lojiurabbit
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