ブリング

コウセイ

第1話侵入者

 夕暮ゆうぐれにしたあめ日付ひづけわるころには雨足あまあしはげしくなっていた。



  ザーーーーッ



 路面ろめん水浸みずびたしにするあめひととおりをなくしてしまう。そんなあめなか路地裏ろじうら小走こばしりにいそ少年しょうねん



  パシャッ パシャッ・・・



 目的もくてき場所ばしょくと木戸きどけ──



  キィ



 ──はなれにある二階建にかいだての物置ものお小屋ごやはいる。

 は、ルビン・アレグレッド、十七さい

 くらでもわかるのか、二階にかいつうじる階段かいだんがり──



   トン トン トン



 ──ドアをはいるとれたふくぎ──



   バサッ バサッ バサア  



 ──パンツ一枚いちまいになり、ルビンはベッドにもぐむ。



   ノソッ  



 ふとづく、生暖なまあたたかくやわらかなモノがあることに。それをたしかめるように、ルビンはんでみる。



  モミモミモミ・・・



「ううん・・・」

おんな!?」



   パチクリ・・・



 こえけ、うカルビンとおんな



   ・・・!



「いやああああ!!」

 悲鳴ひめいげ──



  ドッゴン



「はうっ・・・!」



 ──おんなばすと──



  ドサン



「ぬおおおお・・・」 

 ──ベッドからころち、ルビンは悶絶寸前もんぜつすんぜん

 おんなあし的確てきかくに、ルビンの大事だいじところ直撃ちょくげきするのだった。



  ・・・トン トン トン



 そこへせま足音あしおと



  ギィィ



「こんな夜中よなか何事なにごとだい?」

 ドアをけ、いたのは、この小屋こやをルビンにしているケイラだった。

 ってあかりで、ケイラはらしる。



  ・・・!



 パンツ一枚いちまいゆかつくばるルビン。



  ・・・!?



 ──ベッドでなみだかべ、はだあらわ下着姿したぎすがた少女しょうじょた。

「これはなん真似まねだね?」

 ケイラのややかなに、ルビンはわけしようとする。

「ただおれようとベッドでてたら・・・」

てたらむねつかんでおそってたんです!」



  グスン・・・



 ルビンの言葉ことばさえぎり、少女しょうじょうったえかける。



   ズカズカズカ



 すると、ルビンにあゆるケイラ──



  ボカンッ



「いてっ!」

 ──あたまなぐりつけた。

「ルビン、あんたまさか!?」

 その表情ひょうじょうから、いている意味いみ理解りかいしたルビン。

「だからなにもしてないって!」

 そこはつよ否定ひていする。                  「うそつかないでよっ!そのわたし胸揉むねもんだでしょ!」

 われて、ルビンはつめ──



   ・・・ニギ ニギ



 ──感触かんしょくおもす。



  バチコーン!



「あいてっ!なんたたかれるんだよ!?」

 また、ルビンのあたまはたくケイラ。

「あんた、いまいやらしいことかんがえてたでしょ?」

「そ、それは・・・」

 図星ずぼしだが返答へんとうこまっていると──



   ・・・トン トン ギィィ



「どうかしたか?」

 ──ジルがやってる。

 ケイラがなにたのむと、ジルはかえす。すぐにもどってると、ジルは羽織はおものっており、ケイラはそれを少女しょうじょせる。

 二人ふたり少女しょうじょれて、小屋こやるとそとはすっかりあめがり──



   ・・・ポチャ ポチャン



 ──雲間くもまからつき姿すがたせていた。



 ルビンもふく着替きがえ、小屋こや勝手口かってぐちから厨房ちゅうぼうはいる。



   バタン



 すると厨房ちゅうぼう一角いっかくに、少女しょうじょとケイラがた。

すこしはあたたまったかい?」

 と、ケイラ。

「はい、これとっても美味おいしいです!」

 それはハチミツと天日干とんぴぼしした生姜しょうが粉状こなじょうにしたものれた、ケイラ特製とくせい紅茶こうちゃ

 少女しょうじょものふくていたが──  

「・・・んん?」



   !



 ──そのかお見覚みおぼえがあることにづくルビン。



   ビシッ



「てめえはっ!あのときの!げしたおんなじゃねえかっ!?」



 ギクリ



「そうだったかしら・・・」

 ルビンがゆびさすが少女しょうじょはとぼける。

「しっかりべたぶん金払かねはらえよ!」

「まあいいから、ルビンきなさい」

 ケイラがうも、いきりつルビンはまらない。

「こいつのせいで注文ちゅうもんのアップルパイがないって大変たいへんだったんだ!」

 というのは、ルビンが夜遅よるおそかえって原因げんいんに、この少女しょうじょ関係かんけいしていたからであった。



 それはまえ昼過ひるすぎ──



   ・・・スタ スタ  



「ルビン、いているなら配達頼はいたつたのまれてくれないかい?」

 ──ケイラが厨房ちゅうぼうからる。

「ああいいよ、でどこ?」

「マリベルさんとこだよ」



   ムウ・・・



「あのばあさん・・・」

いやかい?」

 ルビンのしかめがおに、ケイラがいた。

「そうじゃないけど・・・やたらはなしながくてかえらしてくれないからこまるんだよ」

 あらかじめつくっておいたパイとてのパンにつつがみをして、バスケットにめるケイラ。



   ゴサ ガサ・・・



「でもってたよ、ルビンとはなししてるとたのしいって」

ばあさんはたのしくても・・・おれたのしくないよ」

 バスケットをると──

「じゃあたのんだよ」



   チリン・・・



 ──ドアをけ──

ってる」



   ・・・チリリンッ

   


 ──ルビンはみせた。

 しばらくあるつづけるとまち中心部ちゅうしんぶく。

そこは商業しょうぎょうくに街中まちなか学期かっきひとあふれる。



  ガヤ ガヤ



「いつてもひとだらけだなあ」

 ひとおおさにつぶやき、街中まちなかとおけ、街外まちはずれにある配達先はいたつさきへと、ルビンはかう。

なんで・・・いえばっかなんだよ、わかりずれえな」

 配達先はいたつさき地区ちくにおいては、安価あんか材質ざいしつつくられた建物たてものばかり、どのいえおなじにえていた。

 んだ路地ろじを──



  トコ トコ 



「このさき・・・」



   チラ



 ──ルビンが横目よこめ確認かくにんしながらあるいていると── 



  ドッオン!



「うおっ!」

 ──交差路こうさろからしてものとぶつかり。

 その拍子ひょうしに、バスケットのなかのパンが地面じめん散乱さんらんしてしまう。

をつけろよ!」

 さいわいにも、パンひとひとつにつつがみをしてあったため無事ぶじだった。

 パンをひろい、ルビンはバスケットになおすが──



   ガサ・・・パク 



美味おいしい!」

 ──そのこえをやると、パイを勝手かってべていたのだ。

「おいっ!何食なにくってやがる!?」 

 そのもの、フリルのワンピースをて、サングラスにスカーフで頬被ほおかぶりしているおんな

 すると、おんな一言ひとこと

「いいじゃない、ひとつぐらい女々めめしいわね」



   ムカッ  



なんだとおっ!?それはきゃくたのまれたパンだ!っていいわけねえだろうがっ!」

 ルビンがってかるが──



   ・・・モグ ゴクン



「はいはい、わかりました。あとでお金取かねとりになさい」

 ──パイをるとおんなけ──


  

  ポイ コロコロ・・・



 ──つつかみまるめててた。



   ブチッ!  



 そのおんな態度たいどに、ルビンはれ、あるそうとした──



   グワシ 



「な、なにかしら?」

 ──おんな襟首えりくびつかむ。

てい、だれっていいとった?」

 つかまれたものつかんだもの会話かいわつづく。

「だから・・・あとでお金取かねとりになさいってったでしょ」

りにいも・・・おれはてめえのいえらないし、いまここでった分払ぶんはらえ!」

「もしかして・・・あなたわたしのことらないの?」



 クルリ



 かえり──



  バッ



 ──サングラスをはずして、おんなかおせる。

らねえよ!」

 ルビンはきっぱりとげた。

「め、めずらしいわね、このくにんでて、わたしのことらないなんて」

「だかららねえってってる!」

「いいわ、特別とくべつおしえてあげる。よおーくきなさい。わたしは・・・このくに王女様おうじょさまよ!」



   パンパカパーン!


 

「おーーほっほほほほ!」

 口元くちもとこしをあて、おんなたからかにわらう。

なんなんだ、このおんな・・・」

 かねをもらって、このりたいと、ルビンがおもはじめたときだった。

 交差路こうさろ左横ひだりよこおくから──

つけましたぞ!」



   ドドドドドォ!!



「しまったわ、あなたのせいでつかってしまったじゃないのよ!」

 ──せる集団しゅうだんやるルビン。



   チラ・・・



なんだ?あの集団しゅうだん・・・」

 黒服くろふく白手袋しろてぶくろ、リーゼントあたまにカイゼルひげたくわえた紳士しんし先頭せんとうに、十人じゅうにんほどのメイドをしたがえ、ルビンたちかってる。



   ドンッ!  



「おわっ!」

 いきなりおんながルビンをばす。



   ダッタン



 ころびそうになるも両手りょうてげ、ルビンなんとかどまった。



   グルン



なにすんだ!?」

 おんななおり、ルビンがさけぶ。

「あらら・・・あなたの大事だいじもの大変たいへんなことに!」

「へ?」

 ルビンのにバスケットはなく、それはちゅうう。



   ヒュウルル・・・



「くそっ!」



   タタッ  



 ルビンはって──



   ガシッ



あぶねえ!」

 ──バスケットをつかむ。

「あとよろしくね!」



   スタコラササーッ



 うがはやく、おんな一目散いちもくさんげてく。

ちやがれ!」

 さけぶもうしろからの、せま気配けはいくルビン。



   クル



「げげっ!」

 けられず、バスケットをたかげ──



   ドドッ ドドドドッ!!



「うわわわっ!」

 ──みくちゃにされながらも、ルビンはバスケットをまもく。 

なんなんだよ、さっきの連中れんちゅう・・・ってかねもらってねえっ!」

 このあと配達先はいたつさきいえ注文ちゅうもんしたパイがないとって、使つかわれかえりがおそくなってしまう、ルビンであった。



「ラピスさまわるいことはわるいですよ。いくら王女様おうじょさまでも駄目だめです。」

「どこが王女様おうじょさまってかお態度たいどだよ!」

 ケイラがさとすようにうものの、ルビンはあくたれ、ラピスが王女おうじょだとしんじといない様子ようす

「ちょっとなによっ!わたし王女おうじょだと文句もんくあんの!?」

 ラピスがはらてる。

「まあまあ・・・いいからきなさい。このおかた本物ほんものの、このくに王女様おうじょさまよ」

 ってはいり、その物腰ものごしから、ケイラがからかっているとかうそをついているようにえない。

「あのときってたのは本当ほんとうだってうのか!」

当然とうぜんでしょ!」



   トタ トタ




 そこへジルがる。

「そろそろはじめるぞ、ルビン!まき用意よういしてくれ!」

 パンを準備じゅんびかるジル、ハンチングぼうにオーバーオールがいつもの格好かっこうだ。

ジルのこえ厨房ちょうぼうせわしくなると、ケイラもパイを用意ようい仕出しだす。

 そしてルビンが小屋こやからまきってると、かまれるまき大小だいしょうを、ジルが指示しじする。



   ガッ ガッ ガコッ・・・



 具合ぐあいを見計みはからうと前日ぜんじつ仕込しこんでいたパンのたねとパイを、ジルとケイラがかまれていく。



   カチ カチ・・・



 そうしてパイががるころ、朝早あさはやくにきゃくがやって店内てんないきゃくでごったかえす。



   ガヤ ガヤ  



「やけに・・・今日きょうおおいな」

 ルビンがかごにパンをならべながらつぶやくと、ケイラが厨房ちゅうぼうからる。

「パイきあがったよ!」

 ケイラのそのこえ注文ちゅうもんう。

「わしは!レモンパイとアップルパイのふたつじゃ!」

わたしは!レモンパイよっつよ!」 

 ここのパン看板商品かんばんしょうひん、アップルパイとレモンパイはだい人気にんき。それを目当めあてにきゃくで、いつもあさ大忙おおいそがしなのだ。



   パパッ・・・



「おばさん!これじゃパイがりないぜ!」



   ・・・パパパッ   



 次々つぎつぎれてゆくパイに、ルビンが悲鳴ひめいげる。

「わかったよ、特別注文とくべつちゅうもんのパイをまわすから、そのぶんのパイをくのを手伝てつだっておくれ!」

「こっちはどうするんだ!?」

 そうなるとみせ会計かいけいまでまわらないことを、ルビンがさけぶ。

 すると──



  スタタッ



わたし手伝てつだうわ!」

 ──ラピスがす。

「できんのかよっ!?」

「これでもわたし半分はんぶん商家しょうかまれよ!」

 りない以上いじょう会計かうけいをラピスにまかせ、ルビンはパイをくのを手伝てつだう。

じょうちゃん、あたらしいバイトのかい?」

 きゃくの、おっちゃんがく。

「ええ、そんなとこです」

 ふときゃくくびかしげ──

「・・・よくると、ラピス王女おうじょているなあ?」



   ドキン  



「よくわれるんですよ!」

 ──ラピスは誤魔化ごまかす。

「ははははっ!こんなパンるわけないか!」

 きゃく面白半分おもしろはんぶんに言う。

「こんなパンわるかったわね!」

 厨房ちゅうぼうから、ケイラのこえんでくると──



   ソソクサ



「ありがとさん!」

「おきゃくさん!おつり!」

 ──おつりもらずにきゃくかえってった。

半分はんぶん商家しょうかまれとうだけあって、ラピスは手際てぎわよくパイをさばく。

「ありがとうございまーす!」



   チリン チリンッ




 そうして最後さいごきゃくかえり、みせ一段落いちだんらくしたところへ、ケイラが厨房ちゅうぼうからる。



   スタ スタ



「ラピスさま手伝てつだってくださってありがとうございます。きしていたパイに、きたてのパンがありますから、ご一緒いっしょにいかがですか?」

「いただきます!」

 まだ、ルビンはせわしくかまからパンをす。



   ガシャ ガシャ・・・



「ついでにルビンもべる?」

「ついでかよ!」

 ケイラの一言ひとことに、ルビンがむ。

 べる用意よういととのうと厨房ちゅうぼう中央ちゅうおうにあるだいを、テーブルわりにかこんで、朝食ちょうしょく四人よにん



   モグ・・・



「ううーん・・・美味おいしい!」

 一口食ひとくちたべ、ラピスがうなる。

「なあにってんだ、そっちは一流いちりゅう料理人りょうりにんがいるんだろうに」

 美味おいしそうにべるラピスをて、ルビンがうらやむ。

たしかに美味おいしいんだけど・・・あさからフルコースよ。年頃としごろわたしにはきついのよね」

贅沢ぜいたくやつだな、うちなんか・・・」



   クリ

 


 いかけ、ルビンはとなりのケイラをる。

「うちなんかなんだい?ってごらん?」



   ニコ ニコ



 にこやかにうが、ケイラのわらっていない。 

「いやあ・・・一流いちりゅうのパン職人しょくにんて、毎日美味まいにちうまいパンがべれるなんて最高さいこう!」


 

   グーッ! 

  


 つくろうように/tun《おやゆび》をて、ルビンがめると、ジルがくさそうなかおをする。

「そうか・・・」

「あらうれしいわ、だったら・・・今日きょうからパンだけべてなさい!」

 だが、ケイラはちがった。  

なんでそうなるんだよ!」

「ふふふ!おっかしい!」

 ケイラとルビンのやりりに、ラピスはおもわずわらう。

何笑なにわらってんだ!こうなったのはてめえのせいだぞ!この馬鹿女ばかおんな!」

 ルビンが鮎喰あくたいをつくと──



   ポカッ

  


「いてっ!」

「こらルビン!くちかた注意ちゅういなさい!」

 ──ケイラの拳骨げんこつが飛んできた。

「いいんです、あらたまってわれるより、こっちのほうらくですから」

 そんなこんなでさわがしいあさぎ、一息ひといきつく面々めんめん

今日きょう大忙おおいそがしだったわね」

 と、ケイラ。

「けどあと客来きゃくこねえし」

 と、ルビン。

いそがしいときはいそがしいし、ひまなときはひまなもんだ」

 と、ジル。

 すると、ラピスがだいからはなれ──



   クルリ  



私帰わたしかえります、しろみんな心配しんぱいしてるとおもいますんで」

 ──なおってつたえる。

「それならしろまで、ルビンにおくってあげさせます。いぬよりましでしょうから」

いぬよりって・・・」

 ケイラに背中せなかされ──

「ほら・・・ったった」

「わかったよ」



   トコ トコ・・・



 ──みせ出入口でいりぐちへ、ルビンはかう。

「あの・・・またてもいいですか?」 

「いてでもてください」

 ケイラがこころよ承知しょうちすると──

「おーい!いてくぞおー!」

ちなさいよ!」



   スタタッ  



 ──ルビンをって、ラピスもみせる。  



   チリン チリリン! 











 

 

 

  




















 



 














 

 

























 


















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ブリング コウセイ @potesizu

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