星々のから騒ぎ
やた
星々のから騒ぎ
その日人類は、否地球上の全てのものは自らの生の終わりを確信した。
しかし唯一最後まで諦めなかったものが一つだけあった。そう、それはこの星そのもの――地球である。
地球が誕生し四十六億年。その大地と海には様々な生物が生まれ、消えていった。その原因は気候変動など様々あるが、中でも有名なものの一つに隕石の衝突があった。
「いぃぃぃやぁぁぁぁぁ!!嫌だ嫌だ嫌だ!!何でまた小惑星衝突するの!?この間まぁまぁな大きさのやつが降って来たばっかりじゃん!?月は!?火星は!?他の星は何やってんのよぉぉぉぉ!!」
こうみっともなく泣き喚くのは我らが美しき青い星、地球である。あの地球がこんな情けないやつだということに目を背けたくなる人も多いだろうが、それには理由があった。
今から数日ほど前、世界に激震が走った。かの国の宇宙局から巨大小惑星が地球に衝突するという報告が上がったからである。巨大なのか小なのかはっきりしろ、という話はとりあえず置いて、すぐに世界中の首脳が集まり、どうにかならないかと頭を捻った。しかし発見が遅れに遅れた為に、今からではどうしようもないということが分かっただけだった。
このニュースが発表されるとたちまち世界中で暴動が起き、どうせ死ぬのだからとやけっぱちの行動に出るものが多数いた。けれどもそれを取り締まる警官などはとうにおらず、地球上は小惑星衝突前にすでに地獄の様相を呈していた。
だが、地球にとってはそんなことどうでもいいので今は端に避けておく。
地球がその存在に気づいたのは人類よりも少しだけ早かった。しかし小惑星の接近なんて珍しいものでもなかったし、それよりもなんだか最近無駄にホットになったりブリザードになったり乾燥したりかと思えばじとっとしたりする方が問題だった。
そろそろ年齢的にケアの仕方変えた方がいい?と悩んでいた時、ようやくその存在が普段よりも遥かに巨大で、そして真っ直ぐ突っ込んでくることに違和感を覚え、先ほどの台詞につながるのである。
「おええええええええ!!考えただけでお腹痛い。体中の古傷が痛む。私はこの太陽系のアイドルだよ?身を挺して庇うのが普通でしょ。おらぁ!聞いてんのか月!後火星とかその辺の奴等!!」
べそべそと泣きながら暴言を吐く地球に今まで無視を決め込んでいた月が仕方なく返事をする。
「そう言われても、あのサイズだと最悪ボク割れちゃうかもしれませんよ。それで下手したら割れた破片が地球に落ちるかもしれません」
「マジか」
「マジです」
「マジかぁぁ~」
そんなものが落ちてきたらそれこそとんでもない衝撃で暫く
「じゃ、じゃあ火星は?昔はよく小惑星分けっこした仲じゃん?」
振られた火星は「いや、今更言われても。あれとっくにオレの横通過してったんで」といけしゃあしゃあと言ってのけた。
「んなぁぁぁ!?そういうことはもっと早く言え!!」
「言いましたよ。ケアに必死で話聞いてなかったのは地球の姉さんじゃないですか。どうせいつかはしわしわのよぼよぼになるんですから何したって一緒でしょ」
「はぁ~?あー、嫌だ嫌だ。これだから男は。そんな
「はああぁぁ?そんなこと言って、姉さんのとこのやつが火星移住計画とか考えてるのは知ってるんですよ?あぁあぁ、可哀想に。捨てられる未来が決まってるなんて哀れですね?」
「はああぁぁ??あんな奴ら
「あああぁぁぁ??別にいりませんけどぉっ!?」
「あーっ、もう!ボクを挟んで言い争いしないでくださよ!鬱陶しい!!」
鬱陶しい、と言われた二星はしょんぼりと
そんな馬鹿なやり取りをしている間にも小惑星は着実に地球に向かって近づいていた。
「おえーっ、もうダメだ。小惑星怖い小惑星痛い小惑星嫌い嫌い嫌い」
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ~、地球ちゃん」
「こ、このぼやっとしてるのに無駄に
二星と衛星の会話に入って来たのは木星だった。
「小惑星の一つや二つぶつかったって大丈夫。よっぽど大きくても大気がかき混ぜられるぐらいなんだから」
「お前の
「ひどいなぁ。僕は太ってないよ」
ぷんぷんと怒る木星。しかしそれを否定するように新しい声が降ってきた。
「木星は……太ってる……間違いなく」
「土星くんひど〜い!ていうか君に言われたくないんだけど!」
土星は文句を言う木星を無視してぶつぶつと話し続ける。
「地球も……輪を持てば……いい……そうしたら……少しは……小惑星にも……慣れる……」
「いや、土星の輪っかほとんど氷じゃん。降ってるの雨じゃん。痛くないじゃん」
「……………………そういうことも、ある」
「そういうことしかないんだけどっ!?馬鹿みたいな
「……それは……すまな」
「あ、もういいから。黙ってて」
地球にしっしっと追い払われた土星はしょんぼりとして口を閉じた。
対して地球は役に立たない連中しかいない現実に歯噛みし、今か今かと迫る衝突の時を前にして絶望の淵に佇んでいる。
(太陽系のアイドルの地位もここまでかっ。私も姉さんの様に不毛なカラカラクソ熱惑星になってしまうのね……よよよ)
「なんかあんた今超失礼なこと考えなかった?」
「はげーん!姉さん!?ななな、何のこと?地球わかんな~い」
分かりやすすぎるぐらい雑な誤魔化し方をする地球に
「と、ところで姉さん。今日はどうしたの?もしかして私を助ける為の助言とか助言とか助言とかをくれたり?」
「んなわけ。あんたが私みたいになるのを見届けてやろうかと思ってね」
(こ、このクソ
怒りから
「そんなこと言っちゃ可哀想よ、金星ちゃん。誰だって痛いものは嫌だし、姿かたちが変わるのも嫌だもの。特に地球ちゃんは美人さんなんだから」
「す、水星ちゃん」
地球はある意味金星よりも恐ろしい星の登場に生唾を飲んだ。
なぜなら水星は
そんな水星が今日に限ってなぜ金星から地球を庇うような発言をするのか。絶対に何かある。地球はそう確信していた。
「地球ちゃんもあんまり気にしちゃダメよ。ちょっとぐらい隕石が落ちたって顔が多少腫れあがるぐらいでしょう?」
「いや、あのサイズで腫れあがるで済むわけ」
「大丈夫大丈夫。地球ちゃんが小惑星に
「いや、だから」
「きっととても綺麗な
「…………」
やっぱり碌でもないことしか考えてなかった。
地球はそっと水星から目を逸らし、そしてちょっとだけ泣いた。
そんなこんなと各惑星が騒いでいるうちに小惑星はいよいよ地球の眼前に迫りつつあった。
事ここに至っては地球も喚き散らすのをやめ、潔くその小惑星を受け入れることにした。散り際まで美しく綺麗に。それこそが太陽系のアイドル、地球の矜持である。
――え?さっきまで五月蠅く騒いでたのはどこの誰かって?きっと幻覚ですね。光の彼方まで吹き飛ばしておきます。
「さあ来い小惑星この野郎!私はここにいるぞぉっっ!!」
どこかで、はは、ウケる。とか聞こえるが無視を決め込んだ地球は小惑星を睨んだ。が、しかし、ここで思わぬ
そのズレは進むほどに大きくなり、そして――。
「っっっったああああああ!!いけど思ったよりはましいいいけどやっぱりいたいいいいいいい」
地球に対して鋭角に突っ込んでいった。その衝撃で海は波立ち、大気も荒れたが
「はっはっはっは!ざまぁみさらせ百億年後に出直して来いって話よ!!フッフッフ!は~、さすが私。ま、この太陽系のアイドルたる私がいなくなったらこの星系も花がなくなるし?私がいてこその太陽系だし?まぁこれからもよろしく頼むわよ。おほほほほ」
あーっはっはっはっと高笑いする地球に他惑星は一様に殺意を抱いたとかなんとか。
――それから暫くして、ふと火星は気づきたくないことに気づいてしまった。
しかし鬱陶しい感じに視線がチラチラと向けられるため、仕方なく訊いてやることにする。
「あ~、姉さん。なんか綺麗になりました?」
「あ、気づいた~?気づいちゃった~??実はそうなのよね~。この間のやつにぶつかられてから暫くは体調悪かったんだけど、ここ最近は逆に元気になって数千年ぐらい若返った感じがするの」
「は~、数千年。そんなちょっとの変化が嬉しいんすか?」
「チッ、これだから赤茶け野郎は」
「んだとごるぁっ」
「事実言ってるだけだろうがっ」
「あぁん?」
「はあぁ?」
「あーっもうっ!だから僕を挟んで争わないでくださいってばっ!!」
月が怒り火星が煽り地球がキレる。そして今日もまた惑星達のから騒ぎがこの宇宙の片隅で始まるのであった。
星々のから騒ぎ やた @yatta825
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