第24話 僕へのチャンスも突然舞い降りてくる(改稿済)
僕らが戻った頃には、借り物競走は二年生に突入していた。自分のクラスのランナーを応援しながら、もうほんとのほんとに出番がない僕はカバンから飴玉を取り出しては口のなかで遊ばせていた。
現時点で僕らのクラスは一位と十ポイント差の二位。まずまずの位置につけている。この借り物競走で細かく差を詰め、午後の競技のリレーに繋ぎたい。
そう、クラスの誰もが思っていたとき。
「あっ」
一斉にそんな短い悲鳴が僕の周りからあがった。男女問わず、みんなのものが。
「……やばく、ねえか……」
反応に合わせるように僕もカバンから視線をグラウンドに投げる。すると、ゴールテープ直前に倒れ込んでいる男子生徒がひとり。
「佐和、立ち上がれないみたいだけど……」「え、あいつ午後のリレーのメンバーだろ?」「メンバーどころか、ガチの主力だよ」「っていうか何でコケた?」「多分、コースにある窪みに足を引っかけたんだと思う」「……あ、今保健委員からバツマーク出た」
隣にいる光右は思わず立ち上がってしまっていて、真っすぐ下ろしている腕の先の手は微かに震えている。そのまま、彼は僕に言った。
「……こりゃ、もしかしなくても廻の出番が増えたかもしれないな……」
「……そう、かもね」
リレーの男子補欠は僕だ。欠席や怪我で欠員が出たら、補欠から補充しないといけないから、必然的に僕が走ることになる。今倒れている佐和君が、走れないってなったら。
まさか、こんなアクシデントが起きるとは思っていなかったから、考えてもいなかったけど。
「リレーのメンバー、昼休憩のタイミングでちょっと集まろう。出走順も含めて、考え直さないといけないかもしれない」
低く落ち着いた声で光右が言うと、佐和君を除いた男女八人から「オッケー」というような承諾の返事が聞こえた。
「……僕が出るのはもう受け入れたからいいけどさ、いいんだけどさ」
そして、昼の緊急のミーティングが終わった後、僕と光右は生徒玄関前のコンクリートでできた階段に座ってお昼ご飯を食べていた。
「だからって言って僕をアンカーにすることはなくない……?」
もはや塩の味さえ感じないおにぎりを機械的に食べる僕。具が何なのかもわからない。
「仕方ないだろう? バトンの受け渡しの練習をばっちりして、それぞれのタイミングも掴んだ状態で、全く練習に参加していない廻をいきなり入れるとしたら、先頭かアンカーかしかないんだ」
言いたいことはわかる。わかるけど。
「それなら、僕が先頭でもいいんじゃないの……?」
「……もともとアンカーは佐和のはずだったんだ。そしてラス2は俺。廻も、バトンを渡される相手は俺のほうが気が楽だろ?」
「光右から貰う安心感よりアンカーの緊張のほうが大きいよ」
午前の競技が終わって、僕らのクラスは一位と七ポイント差の二位だ。最後のリレーでは一位に三十ポイント、二位に二十ポイント入るから、一位になれば自動的に総合一位。晴れてハアゲン獲得だ。
そんな重責を、最後の最後に僕に投げる……?
「まあぶっちゃけ廻の足じゃせいぜい逃げるのがいっぱいいっぱいだろうからさ。他のクラスのアンカー、陸上部だったりサッカー部だったりするし」
ほんと清々しいくらいぶっちゃけてくれたね。っていうかそんななか帰宅部の僕が混ざっていいんですか?
「……だからまあ、三秒差はつけて廻に渡すから、最後は頼むぜ」
「はい……?」
「三秒もあればさすがに逃げ切れるだろ? 根拠はないけど」
「……保証はできないよ?」
「わかってるわかってる。よし、そうと決まったら、昼食べ終わったら軽くバトンリレーの練習しておこう。してるとしてないでは結構違うだろうから」
「う、うん、わかったよ……」
さっきのドッジボール以上に自信はない。不安の絵の具の上に不安の絵の具を溶かした水をぶちまけるくらいに不安しかない。おまけに絵を描くキャンバスと筆もボロボロっていうボーナス付きで。
それから、僕と光右は生徒玄関前の閑散としたスペースで、何回かバトントスのタイミングを合わせる練習をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます