第6話 幼馴染の友達がなにかとやり手(改稿済)

 お昼を済ませると、日立さんに連れられ、色々とお店を順々に巡っていった。お金はないので、ウインドウショッピングしかできなかったけど。


 CDショップにレンタルビデオ、それに小さな楽器店。買いもしないCDを手に取って今流行っているJ―POPについて話したり、最近よく聞くアーティストについて雑談したり。見もしないし借りもしない邦画についてあれこれ言ったり、「この映画って評判ほど面白くないらしいよー」っていう話をしたり。弾けもしないギターを目についたものから触ってみたり、なんとなくバンドマンっぽい格好を味わったり。日立さんの体とギターの大きさが釣り合っていなくて、なんとなく面白かったり。


 お金を使わなくてもそれなりに楽しい時間を過ごすことができた。

 そして、かれこれ一時間くらい施設内をぐるぐると回って、僕らは最後に道内各地に出店されている本屋に入ることにした。

 ……一円も落とさない迷惑な客ですみません。


 他のお店では軽やかで元気が出るような有線が流れていたけど、本屋では対照的に、落ち着いた、ゆっくりとした曲調のBGMが静かに響いている。

 書店特有の紙の匂いと、カラー刷りされた雑誌などなどのインクの香りが混ざって、独特な雰囲気を醸し出している。


 さっきまではそれなりに周りを気にせずに喋っていたけど、さすがにここではそのボリュームも絞る。図書館でもないのに、まあまあ不思議な現象ではあるけど。

「……日立さんは何か本読んだりするの──」


 僕はそう彼女に尋ねようとしたけど、

「あっ、陽菜乃ちゃんだ、陽菜乃ちゃーん、何してるのー?」

 僕の問いかけをスルーした日立さんは、文庫の新刊本コーナーで本をパラ読みしている同年代の女の子を見つけてはそちらへ早歩きで近づいていっていた。


 ……と、友達なのかな?


「……あら茉優。茉優も買い物……って、そちらの方は?」

 僕もそれに追随する形で日立さんの後ろにつき、初対面の日立さんの友達にペコリと軽く会釈する。


「そっか、陽菜乃ちゃんは会うの初めてだね。幼馴染のたっくん。家が隣なんだー」

 ……僕の紹介雑過ぎませんか? っていうか、日立さんとも僕にとっては今日が初対面みたいなものですからね? なんだろうこのシュールな状況。


「た、高浜廻です……四月からこっちに戻ってきていて……」

「……ああ、あなたが茉優の言ってた……。なるほどね。小木津おぎつ陽菜乃ひなのです。茉優と同じクラスの友人です。よろしくお願いします」


 日立さんのいい意味での適当さ加減とは正反対に、きちんとした物腰にしっかりした口調はとても大人びて見える。どちらかというと端正な顔の形をしていて、癖のないまっすぐと伸びた黒髪を黄色のカチューシャで留めているのが特徴的だ。


「それで、茉優と高浜さんは何を? 早速ふたりでデートですか?」

 手にしていた文庫本を平台の上に置いて、小木津さんはややいたずらっぽい小悪魔チックな笑みを作る。


「いっ、いやっ。僕らは別にそういう関係ではなくて……」

「そっ、そうだよ陽菜乃ちゃん、私はただたっくんに引っ越す前から変わった街を案内しているだけだよっ」


 すぐさま僕と日立さんは否定の言葉を並べる。それを聞いた小木津さんは少し残念そうな表情で、

「そうでしたか。それはすみません。てっきり仲睦まじげに一緒に歩いているのでそうなのかと思っただけなので」


 ……完全に会話の主導権を握っている。こ、この子……やり手だ……! 今日まったくと言っていいほどペースに巻き込まれた日立さんを圧倒して、自分の流れで話を展開している……!


「も、もうー。陽菜乃ちゃんったらせっかちさんだなー。そんなわけないよー」

 僕の隣に立っている日立さんは、眉をひそめて困ったように笑いつつ、小木津さんに説明する。


「そんなはずないんだからー。ね?」

 ……そして、最後の一押しとばかりに、影の入った面持ちで続けた。今までの柔らかい雰囲気とは、ちょっとだけ一変した気がする。


「はいはい、わかったわかったって」

 ただ、これもいつものことなのだろうか、特に気にすることなく小木津さんは、平台に載っている文庫本を一冊手に取って、スタスタとレジへと歩き出す。


「私はもう行きますね。おふたりの邪魔をする気もないですし。また今度、ゆっくりお話ししましょう、高浜さん」

「えっ、あ、うっ、うん……よろしくね……」


 そう言い残すと、あっという間に彼女は会計を済ませて、本屋を後にしていった。

 ……日立さんとはまた違った形でマイペースな子、なのかな……。まあ、これをマイペースって表現すると語弊があるかもしれないけど、全体的に余裕がある子、みたいな印象は受けた。


「……とっ、とりあえず……適当に本見て回ろ? たっくん」

 ちょっと照れ隠しに鼻を指でこする日立さん。またまた僕の反応を待つことなくコミックコーナーへと歩いていて、僕がそれを追いかけるっていう形になった。


 結局、その本屋がこの日最後の一緒に回ったお店になった。


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