最終話 わずかな記憶
宙に浮く感覚に慣れない、足場が無いのがこんなに不安定なんて知らなかった。周りは星々の明かりでようやく見える程度、
「何だ貴様は!何故ここへ来た!というか何者だ?レイはどうした?」
燃えるような瞳をした大柄な男性は、僕を抱えながら爆発を
「貴方が魔王?僕はマコトと言います。…記憶は無いけど異世界人で…精霊魔法を使えます」
「異世界?一体何を言っているかわからんが、魔法が使えるのなら上々。私も魔法は使えるがどうも強化魔法しか使えなくてな、攻めあぐねていたところだ。お前のいう所の魔王フリストである」
「それで…魔神は一体…」
「魔神?何だそれは」
「いや、貴方が戦っている相手ですよ」
「あいつは魔神なのか」
「さあ?レイがそう言っていたので…」
フリストは本当に魔王なのか?どうも会話のやり取りはカインを思い出してしまう。その間にも爆発を
「…
どうやら魔法は使えるようでフリストの体を緑色の光が包むと、傷がなくなっていくのがわかった。
「…おお!なるほど、これが回復魔法か!体力も戻ってきている、貴様は使えるヤツだな!私が倒すべき相手は…そこにいるだろ」
そこと言われても周りは薄暗い空間しか見えない。爆発の光が若干光るがそれでもすぐになくなってしまう。
「どこにもいませんけど…」
「ええい!面倒な!レイは何処まで話しているのだ!では
抱えられながら上へ上がる感覚に襲われ、止まったかと思うと、その姿が見えた。まるで巨大な岩に無数の触手が生えたような物体だった。
「正面から見ればただの岩だが、あれが星にぶつかってみろ瞬く間に消滅するぞ、無数の触手は一つ一つがとてつもなく強い。いいか?私が攻める、貴様は魔法で援護せよ!足場が必要なら魔力で作ればよい。では行くぞ!」
フリストはそう言って突っ込んでいく。取り敢えず言われた通り足場を作ってみると、成程こういう使い方もあるのかと感心してしまう。しかし援護と言ってもどうして良いのやら…取り敢えず集中してみると地上にいた時よりも精霊を感じる事が出来る。ならばと魔王の周りを見るとやはり様々な精霊が反応していた。これなら…
「先ずは風の加護!」
一瞬フリストの動きが見えなくなる。すぐさま隣から怒鳴り声が響く。
「貴様!何をした!動きが…ついて行かぬ!」
「いや…風の精霊の加護を…」
「動きが慣れぬ、ええい、察しが悪いな!私の事は気にせずにドンドン攻撃魔法を撃たぬか!まあ…助かる…とだけ言っておこう。貴様は何も考えず攻撃魔法を撃て、絶えずだ!良いな!」
再度フリストは突っ込んでいく。おかしいな…あれだけ盛大な別れをしてきたから…シリアスな戦闘になるかと思えば…もう面倒だ!いいさ、そこまで言うならやってやる!
「当たっても文句を言うなよ!ショット!ブリット!シュート!」
属性も様々に魔法を放つが、効いているかどうかもわからない。そうしていると再度フリストが隣に来る。
「弱い!あれでは
一筋の光が僕を襲ってくる。フリストが僕の代わりに光を受けると、体が半分ほど消えてしまった…
「
回復はするだろうが時間が掛かる、ならば僕が…でもどうする?強力な魔法と言っても放った魔法だって充分強力な…違う!精霊魔法は創造の魔法だ、僕の考えの
「
「
「
一つの魔法に複数の属性を重ねた混合魔法、これなら…やはり大きさからなのか効果のほどがわからない。続けて3属性、4属性と混合魔法を放つが、それでも同じような結果だった。
一瞬触手の一つが光ったと思うと、僕は横に飛ばされる。
「ふむ、回復魔法はそれなりのようだ。体の再生も早い。だが攻撃魔法については
どうやら回復したフリストが助けてくれたようだ。
「貴様、もっと強力な魔法は無いのか?先程精霊魔法と言っていたな?精霊を呼び出せないのか?」
「それにはマナって言うのが必要で、僕はそれを知らない…」
「ええい!貴様は間抜けか!マナとは想いの力そのものだ。それがあれば…クソ!またあの光が来るぞ…私が再度攻撃するから貴様はさっさと精霊を呼び出せ!」
再度フリストは攻撃に転じ、僕は言われたことを思い返す。
マナは想いの力そのもの…精霊魔法は創造の魔法…魔法はイメージを形にする…すると頭の中に言葉が浮かんでくる。
「炎は
「水は
「風は
「大地は堅固な意思の剣…来い!ノーム」
…確かに精霊を具現化する事は出来たが、息が詰まる…呼吸がうまくできない。それに精霊は微動だにしない。どこか違うのか?間違った方法なのかと考えていると耳元から怒鳴り声が響く。
「貴様は阿呆か!想いの力を使いすぎるな!死ぬ気か!」
魔王の声は大きいのだろうが、うまく聞こえない。死ぬ?どうして…
「ッチ…レイのヤツどういうつもりで送り込んできたのか知らんが全く迷惑な…想いの力は人間にしか使えないモノだがそれは命の輝きそのものだ。しかも4体同時とは褒めるどころか
…命を削ってまで?想いの力は命の輝き?そうか…僕の命が尽きかけているから…精霊は動けないのか…
「…まだ…終われない…彼女を守れるのなら、大切な仲間を守れるなら…僕の命でできるのなら…構うか!精霊よ!僕の命を全て捧げる!だから…災厄を滅せよ…エレメント…インパクト!」
最後に見れた光景は、魔神が粉々に砕ける所。これならきっと…僅かな声が聞こえた気がした。だけどそれを認識する力は残っていなかった…
…鼻にツンッと来る臭いが不快で、ゆっくりと目を開けると真っ白い天井が映り込んで来た。僕を覗き込む黒髪の女性はどこかエルザに似ていた。声をかけようにも口が動かない。手を伸ばそうにも力が入らない。薄っすらと視界に映る女性が泣いているのが見える…
「……!……ちゃ…ん、!」
何か必死に訴えているようだけど…ごめんね…あまり聞こえないよ…
白衣を来た男性や初老の男性や同年代の女性など様々な人が僕を見て涙を流すが、何もわからない…何も思い出せない。僕は一体どうなったんだ?覚えている事が殆どない。僅かに残る記憶を辿る、僕は大切な人達と分かれて…それからどうなったんだかすらわからない。だけど…生きてはいるらしい。
それから長い間その場所で僅かに動く首を使って質問に答えていく日々が続いた。どうやら僕は数年前に突如行方不明になったらしい。黒髪の女の子は僕の妹だという。そう言えば彼女を見た時にエルザと名前が浮かんだが全然違ったようで笑われた。
何度目かの手術を受け何とか耳は聞こえるようになったが、妹や両親を名乗る人の単語が理解できない。
「お兄ちゃん、これわかる?」
そう言って妹…楓というらしい彼女が差し出したのは白い石がついたペンダントというのもだ。全く見覚えがないが、何処か懐かしい感じがするが覚えがないので首を振る。
「これはね?お兄ちゃんが私にくれたモノだよ?覚えてないか…そうだ!今日はお兄ちゃんを見つけてくれた人が来るんだよ!ハイキングをしていたらボロボロのお兄ちゃんを見つけてくれたんだって。女の人なのにお兄ちゃんを背負って助けを呼んでくれたんだよ?目を覚ましたって言ったらお見舞いに来たいって言ってくれて…スッゴイ美人だったよ、楽しみだね」
その人に助けられたのか…相変わらず口を開く事は出来ないがお礼をいつか言わないと。
そうしているうちにドアがノックされ両親と一緒に入ってきた女性に目を奪われる。綺麗な黒髪、優しげな眼差し…僕は…この人を知っている…?
「誠、この人がお前を見つけてくれた人だよ、その節は大変お世話になりました。本当にありがとうございます」
「いえ…当然のことをしたまでです。初めまして、話せないんですって?聞こえるなら名前だけでも聞いてくれる?私は…」
「…あ…い…き…は…」
必死に口を動かす、何かはわからない。だけど…僕は君を知っている…
「アオイ…君はアオイ…だろ…」
僕の彼女は勇者で異世界人〜ところが今は僕が異世界人〜 @kaminori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます