第五十二話 別れ

あれ?内緒だったのかい?隠し事はいけないよ?」


小馬鹿こばかにした様にレイが笑っている…だがどうしてその事をレイが知っているんだ?僕は誰にも言っていないのに…


「ああ、どうして知っているのかって顔だ。いいよ教えてあげる。異世界とこの世界をつなぐ者は僕らが作り出したからさ。異世界人がこの世界で力を行使こうしするのには、どうしても異世界の常識が邪魔になるんだよ。意識してなくてもね…だからより力を出せるように向こうの記憶を消すのさ。そういった技術は僕らの世界の方が進んでいるからね」


繋ぐ者が作り出された?なら僕だけじゃなくてソウタも?


「そこに転がっているソウタも同じだ。彼の持つ異世界の知識は大いに役に立ってくれた、だがあの性格だろ?記憶を消したら余計にひどくなってね…どっちにしろ始末するつもりだったから都合がよかった、君は頭が良いんだろ?僕らがどうして世界の7割を支配しているかわかるかい?人間なんてすぐにでも滅ぼせるに…」



「そんなのわかるはずが無い。だけど…何かを待っている…と思う」


確証なんかないけど、レイ達が世界を支配するのが目的じゃないような気がする。レイはしきりに言っていた…世界を救うと…


「ヒントもないから当たり前だと思うけど、いい線だ。僕らはね、勇者に相応ふさわしい人物を待っていたのさ。人間は追い込まれている、そんな時に頼りになるのは御伽話おとぎばなしにあった勇者の存在だ。きっと何処かで勇者が現れて世界を救う。その為に僕らを偉業いぎょうを成し遂げた人物として御伽話を広めた、だけど…やって来たのはなんの覚悟もない哀れな女の子だった。ガッカリしたよ、だから…」



「ふざけるな!お前の目的が何であろうと…彼女をおとしめるいわれはない!世界を救うのが勇者なら何故お前がしない!それほどの力があればできるのに!」


「しているよ?現在進行形でね。いいかい?僕が救うのは世界だ…その対象に人間は含まれないんだよ?」



何を言っているんだ?世界を救うのと人間を救うのは一緒じゃない?つまり…レイは誰一人いなくなったとしてもこの大地があれば良いと…そう言っているのか?



「君でも理解できないのか?フィアリスの力を持つ君なら仲間に歓迎したいんだけど、見せてあげるよ、今この世界が瀕している危機を」


そう言うとレイが腕を振るう。辺りが一気に暗くなると、激しい音が鳴り響く。大地の感覚がなく宙に浮く感じがする。激しい音は鳴り止まず至る場所から起こっているようだ。



「これが今この世界に起こっている危機だよ。正確にはこの星だけどね。どこから現れたのかはわからないけど、この星を狙ってやってきた…名称がないから僕らは魔神と呼んでいるけどその魔神を食い止め滅する為に一人の男が長い年月をかけて戦っている、誰だと思う?」


スケールが大きすぎる…何が何だかわからない、首を振るとレイは笑う。


「だろうね、勇者と対極の存在である魔王さ。魔王は膨大ぼうだいな体力と力と魔力でずっと魔神と戦っているんだ、この星の外でね。わかるかい?何年じゃない何百年という途方もない時間をたった一人で戦っているんだよ、この星を守る為にね、それを見た瞬間にさとったよ。勇者の、僕の目的は魔王を倒して人間を救う事じゃない、孤高な戦士と共にに世界を救う事だってね」



もし、魔王を倒せば魔神とかいうのに世界が滅ぼされる、なら魔神を倒したら全ては解決するのか?だが魔王や勇者が牙を向けないという保証もない…


「なら魔神を倒したら…」


「言ったろ?魔王が一人で何百年という年月をかけても倒せないんだ。なら勇者に出来ることはなんだい?ある訳ないじゃないか。だからせめて魔王の力の源となる恐怖を与えて彼の力になるしかないんだよ」



「じゃあ!勇者に相応しい人物を待つ理由がない!一体なんのために」



「それは僕の為さ。この身体をたもつのにも苦労が絶えなくてね。勇者の力は通常の人間じゃ耐えられないんだ。だから勇者に相応しい人物の身体に力を移していくしかないんだよ。それがこの子じゃ、不安で仕方がない」



今の会話のやりとりで判った事がある。レイだって世界を救うと豪語しておきながら結局は諦めてしまっている。他の方法を探せば…そうかそれで異世界の技術を使って魔神をどうにかしようと?だからフィアリスや僕が使える精霊魔法を求めたのか?フフッ…何だかおかしくなってくる。



「どうしたんだい?急に笑い出して…やはり君にも理解が及ばない話だったか…少しは期待していたんだけど…残念だよ」



「違う…おかしくもなるさ。僕は今までアオイのために強くなる事を望んでいたんだ。僕の世界はアオイのすぐ側だった。それが今や世界の外側から来ている魔神と戦うんだ…いいさ…やってやる…レイが諦めて、魔王すら勝てない相手だろ?正気の沙汰さたじゃない、でも…僕はレイや魔王、世界なんて関係ない…アオイを守る、僕が戦う理由はそれだけだ」



「なら、その覚悟を評して彼女との最後の会話を楽しむと良い。準備ができたら言ってくれ。君の仲間への攻撃もやめさせよう」



何故かその時のレイは嘘を言わないと確信できた。僕はアオイと向き合うが…正直何と言って良いのかわからない。罪悪感だけで付き合われるのも嫌だけど、きっと彼女の気持ちはもう…



「マコト!本当に向こうの世界の記憶をなくしたの?どうして?戻りたいって言っていたじゃない!何で?…」



「それが精霊魔法を満足に使える条件だったから。あの時はそれしか思いつかなかった。もっと強くなりたかった、記憶を無くしたとしても、それでも僕は貴女と一緒にいたかった。それだけ好きだった。共に歩けるなら…惜しくないと思えた。だからだよ」



嘘じゃない。本当にそう思っている…けれど、もうやめよう…僕の一方的な好意はきっと彼女にとって迷惑になるから。そう考えるとまた笑いが込み上げてくる、何故か勝った前提で考えているのがわかったからだ。


「どうして…そんなに笑えるの?相手は勇者や魔王ですら勝てない相手なのよ?それなら私が…」



「レイの意識が君の体に宿って、どうなるの?それで終わるの?また君の様に勇者の器を生み出すための世界にするのか?また僕の様に愛する人を失う人が出るかもしれない、それは絶対にダメだ。そんな世界があっていい筈がない、なら僕が出来る事を最後までやってみるよ。君がこの先笑える世界が来るのなら…幸せな生活が出来る世界なら…僕に迷いはないよ」



「待って、もっとよく考えて!私は…」



「ありがとう…嘘でも何でも、アオイと一緒に居れて嬉しかったよ」



もうこれ以上は、きっと僕が耐えられない。レイに準備が出来た事を伝えると、本当にカインやエルザへの攻撃もやめてくれたようだ。そのことに礼を言う。



「君は本当に面白いね。君がやぶれてもきっと戻ってこれないよ?本当にいいのかい?」


「…以前にも同じような事があった。その時も僕は同じことを言ったんだ…覚悟は出来てるって」


「マコト!絶対帰ってこい!オレはまだお前と一緒にやりたいことが山ほどあるんだ…いいか?絶対だぞ!」


カイン…本当の兄の様に接してくれた。強くて時には抜けていることもあったけど、彼の教えはキチンと覚えている。


「マコト!私はずっと待ってるから!姉さまの次でもいい、マコトが大好きだよ!だから帰ってきてね」


エルザ…ほんの手違いで一緒に旅をすることになったけど、明るくて優しくて…きっと僕に妹がいたらこんな感じだったんだろうと思う。


アオイ…僕の人生を変えてくれた人…君に出会わなかったらきっとこんな風に笑える日は来なかったんじゃないかと思う。最後まで君を想う事を許してほしい…



そうして、剥製はくせいのような魔王像に出来た亀裂に触れると、辺りは一変し先ほど見た轟音が響く空間へと変わっていった。


僕の最後の戦いだ…勝つことを考えるな!彼女の未来を守るために出来る事をしよう!

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