第五十一話 抗う者

それにしても随分と長い道のりだ。ヴィルの記憶と戦う力、そして愛槍あいそうを手に入れたカイン先導の元レイたちを追っているが、至る場所の扉を開け、階段を降りたり登ったりとややこしい。


「複雑な行程こうていだよね。まだ先は長いの?」


「そうみてぇだ。…っとここの脇道に隠し通路があって、その先を右に曲がるぞ」


あれだけ大きい魔王城だ。複雑な通路が出来るのも頷ける。これだけ複雑な作りの先には一体何があるか、それを考えると少し楽しみな感じもする。


「敵…出ないね」


先頭を歩くエルザは、辺りを警戒してくれてはいるが戦闘になりそうな雰囲気もない。僕の感知にも反応は無い。より強力なモンスターでも出そうな感じではあるがシンッと静まった中では話し声がより大きく聞こえた。アオイはあの後から何も話さず、ずっと黙っている。


何か声を掛けれればいいんだけど、気の利いたセリフも言えないでいた。


そうして進んでいくと、ひときわ大きな扉の前に立つ。


「おっし、ここの扉を開ければ、魔法陣があってその先がいよいよ…準備は良いか?」


「うん。大丈夫だ」


「私も…次は負けない」



この時もアオイは何も言わない。どうしたんだろう…やはり過去の件があるからだろうか、そう考えていると彼女は扉の前へ進み、僕らに向かい合う。


「カイン、エルザ…こんな私に付き合ってくれて…ありきたりな言葉しか出てこないけど、本当にありがとう。感謝してるわ。もう隠す事じゃないけど私は勇者じゃない。ただの一般人、ただの脇役。この先へ進めば戻ってこれないかもしれない。だから…もう一度よく考えて。ここで戻ったって私は貴方達を恨んだりしないわ」


「オレにとっての勇者はお前だけだからな。戻る理由がねぇよ」


「私だって…勇者のアオイに付いてきたんじゃない。私が知ってる姉さまは強くて優しくて…暖かい人。貴女の為に、戦う為にここに居る。私も戻らない」


…何故かアオイは僕の顔を見てくれない。正確には見ようしてくれているのに、目が合うと直ぐにらされてしまう。…嫌われたかな?


「マコト…貴方を利用してばかりだった。存在を利用してこの世界に戻って来た。強さを利用してこんな場所まで連れてきてしまった。貴方の想いを利用して…私は貴方に好かれる資格がない。貴方の想いに応える資格は無いの。だから…」



「その先を言うなら…僕は絶対に君を許さない。例えその場凌しのぎだとしても、君は僕の想いに応えてくれたじゃないか…それすら嘘というのなら…最後までつき通してくれないか?全てが終わった後に嘘だと言ってくれ。僕はそれで十分だ」


…強がりだ。本当は泣きたくて叫びたくて仕方がない。それでもこの戦いが終わるまでは、アオイの為に戦いたい…それが出来ないのなら、僕が居る意味がなくなってしまう。今はその想いがあるから、僕は精霊魔法が使えるのだから…



「カイン、扉を開けてくれ。覚悟は…出来た」



カインは頷くと扉に手を掛ける。宣言通り魔法陣が展開されており、その中に入ると一瞬で風景が変わる。鮮やかな草原、穏やかな空気、日差しは不快じゃない程にっていて、まるで別の世界に来たみたいだった。不思議と目を引くのは、その草原にポツンとある見事な玉座。そしてその脇に立っているレイ達…



「ようこそ、ここが最終決戦にふさわしい場所。僕のお気に入りの場所を再現したんだ」


レイは両手を広げ、満足そうに笑って見せる。…どこかで見た気もするが今はそれを考えている余裕はない。


「もうここまで来たら、どちらかが倒れるまで…戦おうじゃないか!」



その言葉皮切りに戦闘が始まった。



仲間には属性の加護を付与し、自分にも加護を付与する。きっと真っ先に来るのは…



「今度は切り刻んでやるよ!」


やはりソウタだ。手に持つのは反魔法剣アンチマジックソード。僕を狙ってくるのはわかりきっているんだ。対策をしない程間抜けじゃない。


「カイン!」


「おうさ!任せとけ!」


カインの攻撃でなら、ソウタの剣の効果を打ち消せる。僕は前に出てエルザと共にライルと対峙する。


「回復も出来るのか…便利なものだな精霊魔法というのは」


「悪いけど、二人がかりで行かせてもらう…ショット!」



火球を放ち、それと同時にエルザが距離を詰める。その隙に土を巻き上げ再度魔法を放つ。



瓦礫弾ロックラブル



火球はライルによって切り裂かれたが、エルザが懐に飛び込み、再度魔法がライルを襲うが横から受けた衝撃でライルまでには届かない。


「あら?私をお忘れ?精霊魔法とはいかないけれど、私も魔法は得意なのよ?」


「魔法使い同士で魔法合戦か?」


「あらいやだ。そんな物騒なことしないわよ、精霊魔法を見せてくれたお礼をしなくちゃ…移送交換トランスポート


リノが魔法を唱えると、僕の前にはソウタが現れた。周り見ればカインにはライル、エルザにはリノ、と相手が変わってしまった。


「あの女の独自魔法オリジナルだ。こんな風にパーティーの位置を交換するだけの魔法だが意外と便利だろ!」


向こうだって、その位の対策はしているか…僕は位置交換なんて魔法は使えない、ならば再度…ダメだ僕の力じゃソウタの攻撃を防ぐ事が出来ない。


「おら!逃げてばっかりじゃ勝てねぇぞ!」


「くそっ…落ちろ招雷しょうらい!」


「だから甘ぇんだって!」


やはり魔法では効果が出ない…待てよ?確かに魔法は効果がないけど…僕は腰につけ合った短剣を構える。


「今度は剣でやり合うか?だがてめぇに剣が振れるのかよ!」


思い出せ、精霊魔法は創造の魔法だ。出来るはずだ。


まとえ!薄氷はくひょうの剣」


魔法で長さ、強度を補えばある程度は打ち合えると思っていたが、地力じりきの差があるのか僕の剣は弾かれてしまう。続く斬り払いを受けきれず、足に剣が突き刺さった。


「ぐああああ!」


足が焼けるように痛い。すぐさま回復を試みるがソウタの剣によって回復魔法すら効果が出ない。


「やっと捕まえたぜ?その剣が刺さっている限り、魔法の効果は出ねぇよ。死なねぇ程度には加減してやるからな!」



一方的な攻撃になす術もない…カインもエルザも僕を助ける余裕すらないんだ、自分で何とかするしかない。その時視界の端にアオイの姿が目に入った。レイと対峙しているようだが戦う素振りがない。レイが何かを言った瞬間、アオイの手から剣が落ちた…



「おら!よそ見をすんな!」


「グハッゴホッ…」



どうしたんだ…アオイは何かを言っているようだけど僕の所までは聞こえてこない…ソウタの声が煩わしい…何度目かの攻撃を受け意識が一瞬飛びそうになるが、運よく足の痛みで踏む留まる事が出来た。

だが、剣を抜かなければ魔法が使えない…本当にそうだろうか…フローラさんが言っていた、今の魔法は精霊魔法の模倣だと…オリジナルが模倣に負けるのか?



「魔法は…想いの…力…」


「何をぶつぶつ言っていやがる…そろそろぶん殴るのにも飽きてきたな…これで終わりにしてやるよ!」


そうさ、僕の想いはソウタの力なんかに負ける筈がない、自分を信じろ、出来ない筈がない!



「やってみろよ…僕が怖いのか?ソウタくん…」


「いい気になるなよ…クソ野郎が!」



そうだ、直線的に来い、加減も何もいらない…全力で…僕を殺しに来い!



ソウタの拳が僕の顔を目掛けて飛んでくる…今だ!



反射鏡リフレクトミラー


衝撃は反射しソウタを吹き飛ばす。その隙に足に刺さった剣を抜き回復魔法をかける。そしてアオイの元へ向かう。なんとしても彼女を救わないと、その一心でレイと対峙すると僕の背後にいるアオイから信じられない言葉が出た。



「マコト…貴方…異世界の記憶を消したの…?」

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