第3話

『おーい万年元年ピンボール聴いてるかぁ!』石垣さんが万年元年ピンボール──翔吾へと電波にのせて問いかける。

『きっと今頃、カノジョといるから聴いてないよ』と愛さんが言う。

『駄目だったとしてもよくやったよ!貴方はかっこいい!だから今は落ち込んでたりしてても元気出して!』と愛さんは続けてフォローを入れる。


 後者だった。俺は好きなラジオを聴きながら初めてめちゃくちゃ落ち込んでいた。

 この回は万年元年ピンボールが今日、告白するって話題でパーソナリティあるプリンセス線香の二人、そしてメールで頑張れ!!駄目でも落ち込むな!!私もこんな時あったわぁとリスナーたちも盛り上がっていた。万年元年ピンボール(翔吾)スペシャル回みたいな内容だった。

 Twitterもラジオ公式ハッシュタグを覗いてみると翔吾の話題で持ち切りだった。


 これが自分の事じゃなかったら神回なのにな………と翔吾はうなだれる。

 何でこんな事しちゃったんだろうと過去の舞い上がってた自分に恨みをぶつけ。そして失恋の傷は広がっていた。


『う~んメール来ないなぁ。万年元年ピンボールの』と石垣さんが少しやきもきしてるのが声のトーンで感じられた。

『そりゃ出づらいよねぇ………………』と愛さんは優しくフォローを入れる。もしかしたら彼女は結果を察してるのかもしれない。


  話題のメインにありながらも肝心の主役である翔吾が現れず、リスナーのリアクションも含めやきもきしてた。


「出られるわけないっしょ。ふられてんだから」しかもコーナーのタイトルと同じ言葉を使ってんだよ……。


 けど本当なんだ。死ねるくらい茜先輩が好きだったんだ。


 涙が頬を伝う。なんてかっこ悪いんだ。告白して。ふられて。涙を流す。


 けどマジで魂をぶつかった。それはこのラジオで過去に相談してきたリスナーやそれに応えるプリンセス線香の二人みたいに。翔吾は魂をぶつけた。結果は失恋であるけれども。


 良かった……。恋をできて。茜先輩に。

 

 だから嘆くな、自分。自分は一人じゃないんだと。電波から伝うパーソナリティの二人の声を聴いて。ハッシュタグで止まらず流れ続けてるSNSを眺めて。


 俺は一人だけど。独りじゃないんだとそう気づいたら涙のダムは猛決壊をおこした。


 と思っていた矢先にラジオに展開が見える。

『おーーー!!!!こっこれは……』普段は落ち着いたトーンの石垣さんのテンションが上がる。愛さん、これみてと石垣さんがメールの内容を愛さんに渡す。


 それを見たのか愛さんが『きゃぁああ!!嘘!嘘でしょう!!えーーすごーい!!ナニコレ!!』とテンションを上げて声を張り上げる。


何が起きたんだ?と翔吾が思った矢先に愛さんが興奮冷めやらぬ状態でメールを読む。


『ラジオネーム ブルーレッドさん。綺麗な愛さん、イケメンの無駄遣いの石垣さんこんにちは』とメールを読み始める。愛さんはありがと~と返し!石垣さんは酷い!!とツッコミを入れる。


 ブルーレッド?


 愛さんはメールの続きを読む。


『私は三年前からこのラジオを聞いていたけどメールを送って来なかったサイレントリスナーです。けど今回はメールを送らねばと思い、勇気を振り絞ってメールをしてみました』


『というのももし私の勘違いだったら恥ずかしいのですが、私が万年元年ピンボールさんに告白された相手。だと確信したのでメールをしてみました。きゃぁあああ!!』と叫ぶ愛さんと。こんなことあるぅ!?と叫ぶ石垣さん??


 SNSの公式ハッシュタグでのつぶやきが猛スピードで加速しだした。


 ブルーレッド。青と赤。


 蒼井茜。


「なんて安直なんだ!!!!!!」翔吾は深夜であるのに最大ボリュームで叫んだ。


『というのも確信しているのには理由がありまして万年元年ピンボールさんが言った言葉で告白されました。死ねるくらいあなたが好きと』


 歓声が渦となる。


『けどそれに対し私は嫌だと言いました』


 一瞬、場が凍る。愛さんの感情と抑揚を込めた喋り方が、場の空気を作り出していた。


『けど私が嫌だと言ったのは、このラジオで言うのもあれですが、死ねるくらいあなたが好きって言葉です』


『ぶっちゃけ重いです』


 再び翔吾はうずくまった。俺のラジオ愛がそうさせたんだ。


『というか私はそんなの嫌です、死ぬなんて。そんなの全然平和じゃないです』


 ばっと翔吾は顔を上げる。


『だから私は、これから私の想いをぶつけに行きたいと思います』


『私の中で彼とすごしてきた毎日が愛と平和に溢れていたということを』


 ラブ&ピースと石垣さんが叫ぶ、愛さんは感情を爆発させてすごい!!すごい!!と連呼させていた。


 深い闇の中で二人のパーソナリティの声は明るくカラフルに光を照らしていた。その喧騒の中、ラジオは終わった。


 翔吾は呆然としていた。何が起きたんだ?


 ぽうんと通知音が入る。茜先輩からだ。


『今から話したいんだけど電話して良い』

 

 翔吾の返信を待たずに喧しく電話のベルが鳴りだした。


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嘆くな、死ねるくらいあなたが好きだって君に伝えたのなら 長月 有樹 @fukulama

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