菜の花家族

夢見男

菜の花家族

 冬が終わり春に移りかわる季節。

 とても心地良い季節だ。

 一番好きな私の季節だ。


 私の名前は結菜(ゆいな)小学校6年生。 

 人と人を結ぶような優しい子に育ってほしいと両親はこの名前をつけてくれた。私はこの名前が大好きだ。

 

 家族には、お父さん、お母さん、2歳年下の弟、猫が居る。


 最近、私の家族は会話をする機会が少なくなった。毎日、家の中はどんよりと曇っている。昔はよく会話をしていた。私は特に学校であったテストのことをよく話していた。弟も学校であったことを楽しそうに話していた。夕飯の時は食卓をみんなで囲んでいた。夕飯のおかずの取り合いをしていた頃がなつかしい。

 今は状況が変わった。お父さんは仕事が忙しくなって帰りが遅くなった。お母さんは朝から晩まで家事と育児で忙しい。お母さんは変わってないかな……。私は勉強や塾通いで忙しくなった。弟はゲームばかりやっている。食卓に4人が集まるのはめずらしいのだ。


 ある日のことだった。弟のまさとが、口の横にあざを作って学校から帰ってきた。弟は同じクラスのあきお君にパンチをされたそうだ。みんなに話さなくては心配されると思い、弟はみんなの前で話をしてくれた。

 「あきお君が僕をバカにしたんだ。となりの席のひなちゃんに、うちで飼っている猫がとてもかわいくていい子なんだよ。って話をしたら近くに居たあきお君が、聞いていて、〈まさとは女の子みたいだな。これからまさこって呼ぼうぜ〉って他の子とさわぎ始めたんだ。僕は最初はじょうだんだと思っていたけど、まさこって呼び続けるんだ。だから、やめてくれって言ったんだ。それでもやめないから、追いかけっこみたいになっちゃって…… 僕はあきお君をすぐに捕まえたんだ。そしたら、振り返っていきなりグーでパンチしてきたんだ。痛くなかったけど…… びっくりした。僕が先生にあったことを全部話したんだ。そしたら先生が、あきお君をおこったんだ。あきお君は泣いてた」

 お父さんは、難しい顔をして、

 「そうだったのか。それで、まさととあきお君は仲直りしたのかい?」

 弟は、口の横をさわりながら、

 「うん。あきお君は先生におこられたあと僕の所に来て〈ごめんなさい〉って謝ったんだ。僕は、いいよ、もうしないでね。って言って仲直りしたよ」

 「そうか。じゃあこの件は終わったんだね…… しかし連絡が無いな」

 お父さんは時計を見ながら言った。夕方の5時を回っていた。

 弟は、

 「別に学校に連絡しなくていいよ。あきお君とは仲直りしたし、話が大きくなるのも嫌だし。あざは全然痛くないよ」

 「そう、よかった」

 私は、

 「あきお君は何でまさとにちょっかい出したのかな?となりの席のひなちゃんて、かわいい子よね。もしかして、あきお君はひなちゃんのこと好きなんじゃない?それで、嫉妬してちょっかい出してきたんじゃない?」

 弟は、

 「そうかも。あきお君、たまにひなちゃんを見てボーっとしてる時がある」

 気がつくと猫のモコがそばに来ていた。

 

 そのあと、先生から連絡があった。あきお君のお母さんが、謝りたいとのことだった。先生も謝っていたようだ。連絡先を先生に伝えて、その後、謝りの連絡があった。


 私もみんなの前で話をしたくなった。 

 「私もうすぐ、小学校卒業でしょ。それで、中学校入ると部活動に入らなくっちゃでしょ。何部がいいか、悩んでるの」

 お父さんは

 「結菜がやりたい部活はあるのかい?」

 「それがあまり無いのよ。吹奏楽部かな。あとはソフトテニス部」

 「そうか。迷うね。個人的にはソフトテニス部で、運動してもらいたいな。お父さん勉強は教えられないけど、テニスだったら教えられるよ。昔やってたから」

 「勉強できなくなりそう……」

「どちらにせよ、部活動は大変だよ。みんなやってきているんだから大丈夫だよ。色々見学してから選ぶといいよ」

 「そうね」

 

 お父さんが、急に何かを思い出したように、話し出した。

 「家事を、分担しよう」

 と言い出したのだ。

 確かに1人でやるには大変だ。疲れるだろう。自分の時間が取れないだろう。

 私は、

 「週末は部屋の掃除と、お風呂掃除は毎日やるわ。それと、お母さんの夕飯の準備を手伝うわ」

 弟は、

 「僕は自分のことかな。お母さんに任せっきりだから、学校の準備とか、ひとりでお風呂入ったりとか、自分で、髪の毛乾かしたりとか。あと僕もモコのお世話をしようかな」

 「お父さんは洗濯物をたたんだり、お皿洗いかな……。 あとたまに夕飯を作ろうかな……。よし 決まった」

 「約束よ」

 そのあとお父さんが夕飯の支度をした。私は準備を手伝ってから、モコにエサをあげた。


 私は猫好きだ。ぬいぐるみではなく、子猫を欲しくなったのだ。弟も動物を飼うなら猫がいいと言っていた。両親は命の大切さを知るために、動物を飼っていいと言ってくれたのだ。

 私は色々覚悟した。いつお別れになるのか誰もわからないけど、しっかり面倒を見ようと決意した。

 モコは生後1年が経った。折れ耳スコティッシュフォールドの女の子だ。グレーの毛並みがとても上品でかわいい。色々なペットショップを見たけど、一番かわいかった。生後3ヶ月で我が家にやってきた。可愛くておてんばで好奇心旺盛だった。部屋中かけ回っていたが、大人になるにつれて落ち着いてきて、あまり動かなくなった。今では走り回ったりはせず、じっとしていることが多い。

 エサの時間は私にスリスリしてくる。それがまたかわいいのだ。でもある時は、触ろうとすると、ムクっと起き上がりゆっくり逃げる。ツンデレだ。お母さんのことが大好きだ。私のことも大好きなようだ。弟もとても可愛がっている。お父さんのことは嫌いみたいだ……。


 今日のモコは落ち着きなく、ずっと家族の周りをウロウロしている。


 と、お父さんの携帯電話がなった。モコはビクッとなった。お父さんは誰かと話をしている。そして、みんなで車で出かけた。


 さっきのお父さんの電話は病院からだったのだ。

 病院に向かう車の中で、お父さんは、

 「お母さん、意識を取り戻したってよ」

 私と弟はホッとした。

 病院に着き、病室に入る。


 ……お母さんは目を開けた。

 お母さんは涙を流して微笑んだ。

 私たちは静かに喜んだ。


 お母さんは今日の朝、家で倒れてしまったのだ。救急車で病院に運ばれたが、意識がなかったのだ。病院で処置をしてもらうが意識が戻らなかった。

 お父さんは病院に残り、私と弟は学校に遅れて行ったのだ。

 午後の4時になっても、まだ意識が戻っていなかったのだ。お父さんは私たちの世話をするために、わざわざ病院から家に帰ってきてくれていたのだ。


 私たち3人はよく会話をした。

 お母さんのことを思いながら……。


 お母さんは意識が戻らない時、黄色い光の中に居たそうだ。そこにはみんなが居て、会話をしていたそうだ。お母さんも何か言った記憶があるそうだ。

 今日、家で話をしていた場所だと、3人は直感した。きっと意識が無い時、お母さんの肉体以外の何かが家に帰ってきていたんだろう。みんな不思議なことが起こったのだと信じている。


 ウロウロしていたモコは、お母さんを感じていたのかもしれない。


 お母さんの退院後、みんなは家族の時間を大切にした。お父さんはどんなに忙しくても、夕飯までに帰ってきてくれる。私は短時間に集中して勉強をするようになった。弟はゲームの時間を決めて、自分のことをするようになった。モコは相変わらずお母さん大好きで、ツンデレだ。お母さんは通院をしているが、元気になってきている。みんなあの時の約束をしっかり守っている。今では私が中心になって、家事をやっている。


 私の名前は結菜(ゆいな)。

 菜は菜の花の菜。

 今、家の中は菜の花畑のような黄色の光で満ちあふれている。

                終わり

 

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菜の花家族 夢見男 @yumio

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