流れる流れる、悠々と。

川が流れる、悠々と。

景色も流れる、悠々と。


速度を出さないのは、


法定速度を守りたいからじゃない…


人間は30km以上の速度では走れないから…


目を細めているのは、


風が眩しいからじゃない…


必死に走りすぎて表情自体が歪んでいたから…


ただーーー


さっきは右側にあった鴨川が、今は左側に横たわっているーーー



俺は今、鴨川沿いを走っている。

いや、逃げている。

徒歩で。

愛車の原付は捨ててきた。

あんな役立たずは相棒でもなんでもない。

もとよりはあいつがガス欠なんて起こすから悪いのだ。

気合で走れってんだ。

お前のせいだぞ。


パニックのあまり、何が何だか分からない。


とにかく今は頭の中を整理しなければ…


俺は記憶の糸を一つ一つとたぐり寄せていく。


どうして・・・・どうしてこんな事になったのか!?ーーー


ーーー


あれから・・・・



俺は建物のそばに原付を停めた後、まわりに人が居ない事を確認してから路地へと入っていった。

路地の向こうは住宅街へと突き抜けている。


そこで俺はキョロキョロと辺りを確認しながらズボンを下ろし、しゃがみ込み、括約筋を緩めた…


ドクンッ…ドクンッ…


あとはひたすらキレが良い事を祈るだけ…


拭くものは何か適当なものを探せばいいだろう…


ドクンッ…ドクンッ…


(クソッ…多分今俺めっちゃ情けないカッコしてんねんやろな…クソッ…


糞だけに…



クソ…もういろんな意味で情けないわ)



ドクンッ…ドクンッ…


(クソッ…心臓の音が煩い!

糞ッ…


糞だk…それはもういいから

ッ!)


ドクンッ…ドクンッ…


(ああ!クソ!

これ多分20分くらいかかる奴や!はよ全部出ろや!

何でこんな時にキレが悪いねん!

おかげでギャグのキレも悪いやんけ!


…ってそれはもういいって!)




そして、なかなか出ないブツに苛立ちを覚えていたその時だった。




カツカツカツカツ…


(ッッ!!?)



足音が鳴ったのと振り返ったのが同時だった…



一人のおっさんが携帯をいじりながら歩いて来たのだ!



刹那。



その時にはすでに俺は全速力で駆け出していた。


幸いスウェットだった為、すぐにズボンを上げることが出来た。



ケツは拭いていないが、それはもうこの際気にしてもいられないだろう。



ウンコ座り状態からのダッシュであったため、上手いことクラウチングスタートみたくなった事も幸いだった。



そして…



俺は独り、鴨川沿いを疾風の如く駆け抜けて行ったのであった・・・・



ーーーー


「ハァ…ハァ…ハァ…」


疾走しながら俺は様々な事を思い浮かべていた。



ーーーもし捕まったら…

ーーーいや、こんなことで逮捕は無いだろう…

ーーーいや、でも一喝だけでは済むまい。

ーーーいや、そういう問題じゃない!もし捕まったら顔を見られるんだよ!!野グソした人間の顔を見られるんだよ!!

ーーーもし、大学になんて報告でもされたら…



「ハッ・・・・」



私の頭の中に一つの最悪な結末がよぎる・・・・



大学の掲示板にデカデカと貼られる紙…


その紙には…



ーー他人の敷地内にて、許可無き脱糞行為による、公正わいせつ及び、器物破損により、外国語学部 中国語学科 2回次 菅原 崇太を2週間の停学に処す。


外国学部長ーー



「・・・・。」



ーーーいやだッ!そんなの絶対嫌だッ!!



そんなバッドストーリーを頭から追い出すように、頭をブンブンと振りまわす。


幸い今は朝の6時。人通りは無い。


(そういや追っ手は来ているのか…?)



不思議と後ろからは怒鳴り声も無ければ、足音も無い。


そういえば後ろを振り返る暇無く走った為、そもそも追われているのかどうかも分からなかった。


そして俺は恐る恐る後ろを振り返るが・・・・




・・・・誰も居ない。



(よかった…追っ手は来てないようや。)


ホッと胸をなでおろし、俺は呼吸を整えながらゆっくりと歩いていく。


(もしかしたら、あのおっさん携帯いじってたし気づかんかったんかも…

いや、でも急に前で人が走り出してんやから流石に俺の存在には気づいたやろうな…野グソしてる事には気づかんかったとしても…

いやっ、俺のおった所にあんなホカホカのウンコあったら何してたかは大体分かるやろ!・・・・)




「・・・・。」



・・・・また一つため息が出た。


実際に用を足している所を見られるのは想像以上に恥ずかしいものだ。


そしてしばらく歩き続けていると、原付を置いていた場所に戻ってきた。


俺は原付を確認すると、小走りでそれに駆け寄っていく。


「おお…、俺の相棒よ・・・・

済まなかったな・・・・急に置いていったりなんかして…」


俺の声は震えていた。

鼻の奥がツーンとするのは寒さのせいだけでは無いだろう。

俺は愛車の原付を抱き締めながら囁く。


「俺たちは一生相棒だよ。

俺は一時たりともお前を想わなかった事は無い。

お前は一生俺の相棒だ。」


そして俺はまた一つ新たな決意を胸に抱く。


相棒は命を賭してここまで俺を運んでくれた。

ならば今度は俺が相棒を運ぶ番だ。

誰だ?ケツにクソが付いてるって抜かした奴は…

知るか。そんなモンお前のケツにぶち込んでやるよ!


俺は立ち上がるなり、愛車を押して悠然と歩いていく。


その背中は、どこか大きかった。


空を見上げると、昇り始めているお日様は相も変わらずサンサンと鴨川を照らしていたのであった・・・・



その後…



そうは言ってもやはりケツを拭きたい俺だったが、数分歩いた先に公衆便所があった。


ラッキーだと言わんばかりにトイレに駆け込み、俺は意気揚々とケツを拭く。


そしてハッと何かに気がついた俺は一人、こう呟いたのだ。




「ここでウンコすればよかったやん…」


終わり。

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鴨川物語 そーた @sugahara3590

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