第2話 身から出た錆
翌日、アキはいつも通りに学校に来た。
「おはよーアキ、昨日は何もなかった?」
夏美がそう言ってきた。
「うん。ちょっと一人で帰るの怖かったけど、何もなかったよ」
アキはそう答える。そしてそのまま昨日のことで話は膨らんだ。
「ねえ、安田君ってどんな子か知っている?昨日帰りに会ったんだけど…」
アキがそういうと夏美が顔をしかめて言った
「安田?あー。いつも教室の隅で一人でなんかやってるやつね。さーねぇー、あいついつも一人でスマホみてニヤニヤしているから正直あんまり近づきたくないわー」
夏美の言葉に春奈と冬子も続いた。
「確かに誰かといるとこみたことないねぇ~」
「そうだね、私も話したことないけど、アキちゃん安田君と昨日何かあったの?」
アキはそう聞かれたので昨日の出来事を話した。
「別に何かってわけじゃないんだけど、帰ってる途中に安田君とばったり会ったっていうか、話しかけようとしたらそのまま彼、逃げちゃって」
「へぇー。やっぱり変な奴だね」
夏美はそう言った。
その後も4人でおしゃべりしながら過ごし、放課後になった。
アキは3人と別れ今日もまた一人で家へと帰る。
今日は昨日のような出来事もなくそのまま家に着くことができた。アキ自身も少し緊張感が薄れていた。
■■■
その日の夜。アキはお風呂と食事を済ませ、自室で体を休めていた。アキの部屋は二階で、窓からは家の玄関と家の前の道が見えるようになっていた。
アキがカーテンがちゃんとしまっていないことに気づき、窓に近づいたとき、道に一瞬月明りに照らされ、人影のようなものが見えた気がした。
アキは不思議に思いしばらくその影が見えた方を見つめていた。するとそこに人がいることに気が付いた。さらにはその得体のしれない人物と目が合ってしまった!
「っ!?」
アキは驚いてすぐさまカーテンを閉めた。
『い、今、窓の外に人、いたよね?しかも、目が合っちゃった…』
アキは昨日感じた背筋が凍るような感覚を再び感じた。
暗くて顔がはっきりとは見えず、さらにはその人物は顔を隠すように恐らくマスクか何かを着けていたのかもしれない。暗闇の中怪しくこちらを見つめている視線だけがアキに恐怖を抱かせた。
『昨日も今日も、一体何なの!?もうわけわかんない!』
アキは心の中で叫んだ。
『不審者のせいで落ち着くこともできやしないじゃない!』
その時アキは恐怖と同時にその得体のしれない恐怖に対して腹立たしさを感じた。
アキはこのままではずっと見られるかもしれないと思い、勇気を出して立ち上がった。
『不審者の証拠を私が見つけてやる!』
そして部屋から出て、階段をおり、スマホの動画機能を着けながら玄関へと向かった。
そしてアキは深呼吸をし、ゆっくりと玄関のドアを開けた。
ガチャッ。
ドアをあけたと同時にアキはスマホを道の方に向けた。すると一瞬、視界の隅に人影が見えた。アキはそれを見逃さず、すぐさま追った。
「いた!不審者!」
アキはそのまま人影が消えたほうに向かったがすでにその影は消えていた。
「あれ?いない…」
アキは確かに誰かいたはずだと不思議に思っていた。
「ううん、今回は気のせいじゃない。絶対にいたもん。そうだ!動画を観れば何か映っているかも!」
アキはそう思いスマホで撮った動画をみた。そこには見たことのある人物が映っていた。
「っ!?これって…安田君っ!?」
動画に映っていたのは同じクラスの安田だった。
■■■
翌日、アキは直接安田に問いかけることにした。
昨日のことを夏美たちにも相談し、直接聞くのが早いという結論に至ったのだ。
「あの、安田君。ちょっといいかな」
アキが安田に話しかけた瞬間、安田はビクリと反応した。
「えッ…えっと…アキ…さん。ぼ、僕なんかに何か用でも?」
安田は覇気のない声で答えた。
「違ってたら申し訳ないんだけど、昨日の夜にね、私の家の前で安田君っぽい人を見たの」
アキがそういったのに夏美も続く。
「私たちもそれ知っててさ、というか写真見たんだけど、これどう見ても安田だよね」
夏美の迫力に若干圧倒されながらも安田は答えた。
「そ、そんなの知らないよ…」
夏美はそれを聞いてさらに圧を掛けた
「じゃあこれは誰だっていうの?証拠もあるのに言い訳なんてできないよ」
安田はびくびくしながら答えた。
「そそそ、それはた、多分だけど…お、弟だよ。双子の。実は僕、双子の弟がいるんだ。分け合って今は学校に通ってなくて家に生きこもっているんだけどね。はは、全く、あいつたまに変なことするからさ、きっと昨日も夜に家を抜け出して散歩でもしてたんじゃないかな。い、いやぁ本当にしょうがないやつだ。き、今日弟にしっかりと伝えておくよ。変なことをするなって。そ、それじゃあ僕はちょっと用事を思い出したから行くねっ!」
安田は早口でそう告げるとアキたちの間を潜り抜けるようにして教室を出ていった。
「あっ!?逃げた!」
夏美は安田を追いかけようとした。
「夏美ちゃん!いいよ、とりあえず今はここまでにしておこ?」
アキはそう言って夏美をなだめた。
「でも、あんなの絶対嘘でしょ、あいつに双子の弟がいるなんて聞いたことないし」
アキも確かに怪しいとは思ったが、いま言及しても彼はこれ以上何も言わないと思っていた。
そしてその日は安田に接触することはなく、そのまま放課後を迎えた。
「全く、アキ、今度不審者ってか安田と会ったらすぐに連絡するんだよ。私がすぐに助けに行くから」
夏美はそう言ってくれた。
アキは今日も家へと一人で帰った。下校中、アキは安田のことを考えていた。
『双子って…正直怪しいよねぇ…』
そう思いながら暗闇神社への道のところまで来たとき、神社の参道から外に出てくる人を見かけた。
「あれは…安田君?どうして神社なんかから出てきたの?」
神社から安田が出てきたところを見つけたアキだったが、その次の瞬間、目を疑うような光景を目の当たりにした。
「えっ!?安田君が二人っ!?」
安田が一人神社から歩いてきたと思ったらその少し後から彼についていくように安田そっくりの見た目をした人が安田の後ろをついていったのだ。
「嘘、双子って本当だったの?」
アキは驚いて彼らが見えなくなるまで神社の方を見つめてその場に立ち止まっていた。
「じゃあ安田君の言っていたことは本当なのかも…」
そしてアキはその時、彼のことを少しだけ信用したのであった。
■■■
その時の安田はというと。
「全く…アキちゃんと言いあの、夏美らといい、結構しぶとくしてきやがる…こっちは別に直接危害を加えていないっていうのに…」
神社は本殿の扉も壊れて開いたままであった。安田は土足のまま本殿に入り、女子生徒の写真などを漁っていた。
「あの時咄嗟に双子なんて嘘をついちゃったけど…今後はなるべく話しかけられないように注意しなきゃな」
安田はそう言って自分のコレクションを本殿の隅に隠し、神社を後にしようとした。
「はぁ、わざわざ写真もばれないように人に見られないような場所に持ってきたけど、毎回このさびれた神社に来るのも面倒ってもんだよ全く…」
彼はそうぶつぶつ文句を言いながらスマホを眺めながら歩いていた。日が沈み、すでに辺りは暗くなっていた。
ふと、安田は違和感を感じた。
『あん?誰か後ろにいるのか?』
後ろの方から人が歩く音が聞こえた。安田はその場で足を止め、後ろを振り向いた。
『…誰も居ない。気のせいか』
安田がはぁっと気怠そうなため息をついて正面を向き、スマホを見ながら一歩歩き出した瞬間。
どんっ!
何かとぶつかる感じがした。
「痛って!?っ…なんだよ!」
安田はイラついた感じでそう口にした。そのまま視線を正面に向けると目の前には人が立っていた。
『こんなところに突っ立ってんなよクソが』
安田はそう思いながらも黙ってその人を追い越そうとした。しかし、追い越そうとした時、肩をガッ!と掴まれた。
「!?」
安田は驚いて自分をつかんでいる人物の顔を見た。
「えっ!?」
安田はその顔を見た瞬間全身に鳥肌が立った。
目の前には、自分と全く同じ顔をした人物が立っていたのだ。
「だ、誰だよ!お前!」
安田はそう言って肩をつかんでいる手を振り払おうとしたが、相手は力が強く、なかなか離せなかった。
「お前…双子じゃない…。お前…兄弟、いない…」
自分そっくりのそいつは安田に片言でそう言った。
「安田…いらない。二人もいらない…」
そいつはそう言って顔を近づけてきた。
「う、うわあああ!や、やめろ!何をするんだっ!」
そいつは安田の目の前に顔を近づけて言った。
「お前…帰る場所…こっちじゃない…お前、あっち…」
そういわれた瞬間安田の体は勝手に動き出し、神社からきた方向へと体の向きを変え、歩き出していった。
「えっ!?な、なんだよこれ!か、体が勝手に!?」
安田は自分の体を止めようとするも体はどんどんと神社の方へ進んでいった。
「やめろ!やめろ!」
そういって夜道よりも暗い闇へと安田は消えていった。
■■■
次の日、アキは学校に着いたとき、安田に声を掛けよう心に決めていた。双子を見たことに関して話そうとしたのだ。すると、廊下でちょうど安田の姿が目に入った。
「あっ、安田君!」
アキが彼にに近づいたら彼は足を止め、こちらを見た。
「あの、おはよう安田君。あのね、昨日はごめんね、疑っちゃって。実は昨日ね安田君が安田君そっくりの人といたのを見たの。あれが弟さん?」
私がそういうと彼は真顔で私の目を見つめてこう言った。
「安田は…一人で十分…二人も…いらない」
彼はそう一言だけ言って教室へと入って行ってしまった。
「えっ?」
アキはその言葉が理解できなかった。
「どういうこと?」
今後どれほど追及しても同じ顔の二人がいることを見ることはないだろう。
【5分で読書】不審者は暗闇神社から 紅葉 楓 @kouyoukaede
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