第156話 入学式と霊力量測定

「あれ? 中村先生がいる?」


「中村先生、もしかして霊力に目覚めたのですか?」


「まさかな。広瀬に、相川、他のみんなも。除霊師学校にも普通の授業があって、それを教える教師たちが転任してきているのさ。なんか私は、除霊師に理解がある教師だからって、戸高市の教育委員会がさ。たまたま自分のクラスに、複数名の除霊師がいただけだと思うんだが……。そんなわけで私も転任してきたんだ。よろしくな」


「よろしくお願いします」


「……なあ、広瀬」


「はい?」


「木原と、もう一人女の子がハーレムに加わったのか?」


「……ハーレムじゃないと思いますよ」


「すげえ、男子校に転任したい……」


「「「「「「「「……」」」」」」」」



 どうやら、中村先生も除霊師学校で通常教科を教える教師として赴任してきたようだが、いきなり教え子をハーレムの主扱いするのはどうかと思う。

 それと、中村先生の性格的に男子校は合わないと思います。


「というか、中村先生は校門の騒ぎを見なかったんですか?」


「早速悪霊が出たんだよな。私にも見えたから、結構厄介な悪霊だったんだな」


「ええ……」


「(広瀬君、中村先生って、除霊師学校の教師に合っていると思います)」


「(俺もそう思う)」


 愛実の意見に俺も賛同した。

 普通の一般人が悪霊を見たら、怖がるか逃げると思うのだけど、中村先生はあまり動じないタイプのようだ。

 霊力はないけど、除霊師学校の教師としては適任だと思う。


「広瀬が除霊してしまったようだが、先に登場したイケメン五人の出番がなくなって、女子生徒たちは大いに不満だったようだな」


「ええ、でも仕方ありませんよ」


 とにかく、今の世界は除霊師不足だからだ。

 除霊師学校の生徒は霊力に目覚めたばかりの素人も多く、イケメン除霊師五人を差し置いて俺が除霊したことを怒る女子がいても仕方がないし、要は卒業までにちゃんとした除霊師になってくれればいいのだから。


「ちゃんとした除霊師にならなければ?」


「C級でも、人数が増えるのは大歓迎ですよ」


 怨体の浄化だけでもやってくれたら、A級、B級除霊師としては、無駄な仕事が減ってとてもありがたいのだから。

 怨体を浄化するのに忙しく、悪霊の浄化が遅れるなんて、意味がわからないことが起こるのが、今の除霊師業界なのだから。

 過疎の村の廃墟に出た悪霊の除霊よりも、都心の一等地に出た怨体の浄化が優先。

 それも、確実に腕のいい除霊師にやってほしい。

 依頼者からそう強く言われてしまうと、日本除霊師協会としてもそれを受け入れざるを得なかった。

 これに除霊費用の問題も加わって、除霊の地方格差なんて話もあるから、それをどうにかしようと日本除霊師協会は懸命なわけだ。

 除霊師の数が増えれば、なんとかなるケースが増えるのだから。


「大変なんだな。まあ私としては、イケメンたちが先を越されて呆然としているのが面白かったけどな」


「ははは……」


 中村先生も決してイケメンとは言えないので、俺と同じように考えていたとは……。

 でもなんだろう?

 気持ちは同じなのに、将来この人のようになりたくないな。

 まさに反面教師と言うか……教師だしな、この人。


「私は通常教科しか教えられないが、除霊を教える教師って、巫女服を着た若くて綺麗な女の先生はいないのかな?」


「どうでしょうか? 除霊を教える教師は人手不足だと聞きました」


 俺の代わりに、涼子が中村先生の問いに答えた。

 巫女服が似合う女性教師って……。

 ここは、中村先生の婚活の場ではないのだけど。

 今でも除霊師が不足しているのに、除霊師学校の生徒たちに誰が除霊を教えるのか?

 通常教科を教える教師は不足していないが、除霊を教える先生が不足しているのが現状なのだから。


「どうにかして除霊を教えないと除霊師が増えないので、まだ日本除霊師協会は除霊を教えられる教師を探しているようです。文部科学省に諮って、特例で教員免許がなくても大丈夫なようにしてもらったと」


 除霊師で教師なんて、全世界を探してもそういるものではないからな。

 教員免許を持っている除霊師も少なく、そもそもそれなりの実力がある除霊師なら、除霊をした方が教師よりも儲かるのだから。


「うちの生臭が言っていたけど、除霊師学校が一つなのは、除霊を教える教師が不足しているから、少しでも効率よく生徒たちに教えられるようにだって」


 除霊師学校を全国に分散してしまうと、除霊師学校同士で除霊を教えられる教師の奪い合いが発生しかねない。

 だから、まずは戸高市のみに除霊師学校を作ったわけか……。


「二校目以降は、今入学した生徒たちが卒業してからになるだろうな。ただ、卒業生の中に除霊を教える教師が出てくれないと、結局除霊師学校は増えないと思うけど……」


「その可能性は高いですね」


 中村先生の考えに、涼子も賛同した。


「じゃあ、シスター姿の女の先生はお預けかぁ……。尼さんの格好をした先生も……。あっ、尼さんはいいかな。いや、尼さんも悪くないか?」


「「「「「「「「……」」」」」」」」


 俺たちは、この人はなにをしに除霊師学校に来たのだと思ってしまった。

 そんなに結婚したいのか……中村先生。


「そのうち、綺麗な除霊教師が来ると信じて! 広瀬たち、入学式が始まるぞ」


 もうすぐ入学式が始まるというので、俺たちと中村先生は体育館に入った。

 気合を入れて建築費を増やしたからか、この学校の体育館はとても立派だった。

 そこに全国から生徒たちが集まり、校長先生の話を聞いている。


「裕、こういうのが定番でつまらないわね」


「そうだな」


 里奈も俺も、他のみんなも退屈そうにしている。

 除霊師学校でも、入学式は普通の学校とまったく違わない。

 校長の話が長いのは、この世の真理なのかもしれないな。

 無事入学式が終わったので、あとはクラス分けを見て教室に移動かと思ったら、まだ体育館を出ないようにと、拡声器を持った教師たちから指示された。


「順番に、『霊力測定マシン』で現時点の霊力を各々把握しておくように」


「霊力測定マシンって、師匠が作ったのでは?」


「そうだよ」


 死霊王デスリンガーの死後、除霊師が悪霊を除霊すると強くなっていく現象が確認できたが、俺や久美子たちのようにレベルやステータスは見えなかった。

 そこで俺が、菅木の爺さんと会長の依頼で、その人の霊力量を測定する魔法道具を製作したわけだ。


「師匠、さすがですね」


「ちょっと苦労したけど」


 霊力量を測定する魔法道具は、向こうの世界では割とポピュラーだった。

 人類が滅亡の危機に瀕している以上、少しでも霊力があれば徴兵して死霊軍団との戦いに投入していたからだ。

 俺たちパラディンはステータスが表示されるので必要なかったが、他の人たちは霊力測定マシンで霊力を計り、死霊軍団との戦いに利用していた。


「すでにあるものなのに苦労したの? どうして? 広瀬裕」


「苦労したのは、霊力の表示を別世界の数字ではなく、アラビア数字に変換することだったから」


 向こうの世界で開発された霊力測定マシンなので、当然向こうの世界の数字で表示される。

 数字なんてそんなに種類がないからそのままでもいいんじゃないかと思ったんだが、菅木の爺さんと会長が、アラビア数字か漢数字で表示できるように改良してくれと言うものだから……。


「数字なんて、世界は違っても0から9までしかないんだけど、誰でも読めるようにして不正が行われないようにしてくれと、文部科学省がうるさかったんだって」


「不正って……霊力値なんて誤魔化してどうするのかしら?」


「除霊学校の関係者や、日本除霊師協会の職員などが、自分の親戚や知り合いや、便宜をはかってもらった除霊師の霊力値を高いことにして、A級除霊師にしたり……。とか想定しているみたい」


 俺は、そう桜の問いに答えた。


「除霊師としての階級が上がると、依頼料の標準価格が全然違うから」


「でも、いくら高額の依頼料を提示されても、弱い除霊師が無茶すれば死ぬじゃない」


「ちっ、ちっ、ちっ。 この手の不正は逆の方法を用いるんだ」


 たとえば、C級の実力しかない除霊師が、除霊師学校の関係者に賄賂を贈って霊力値を高いことにしてもらい、B級になれたとする。


「怨体の浄化をA級に頼む人はまずいないと思うけど、B級なら引き受けてもおかしくはない」


 需要と供給の関係や、依頼者が万全を期したいという事情もある。

 当然、C級よりも依頼料は高くなるけど。


「あっ! B級なのに、C級相当の依頼しか受けなくても……」


「入ってくる金額が全然違うし、長い目で見たら大きな差が出るだろう?」


 B級なのに怨体しか浄化しなくても、依頼をこなせばこなすほど、C級で怨体しか浄化しない除霊師と収入が大きな差が出てしまうのだ。


「だから、それを防ぐための改良ってわけだ。アラビア数字で記載されたら誤魔化しようがないから」


 霊力の測定をする人間が、除霊師から賄賂を貰って霊力測定マシンの数字を偽るのを防ぐため、俺は表示器の改良で苦労したわけだ。

 そんなことをする奴が……向こうの世界でもいたからなぁ……。

 向こうの世界の平民は、数字を読めない人も多かった。

 貴族や貴族に忖度した役人が、霊力の多い貴族の子弟を霊力ナシと判定して徴兵を回避し、代わりに大した霊力がない庶民の子弟が霊力アリと判断されて最前線に送られたりとか。

 俺は、向こうの世界で多くの人間の悪意の底を見てきた。

 菅木の爺さんと会長は年寄りだから、俺と同じように考えたのだろう。

 だから、文部科学省の依頼を引き受けた。


「順番に、霊力マシンで霊力を計ってからクラス分けを見て、それぞれ教室に移動してくれ」


 教師たちの案内で、体育館に集まっていた生徒たちが、順番に霊力測定マシンで霊力を測定していく。

 霊力測定マシンは十台あるし、霊力測定マシンは霊力値しか表示されない。

 人数の割に、測定作業はスムーズに進んでいた。


「広瀬、お前たちは最後な」


「はあ……」


 中村先生に声をかけられたので、俺たちの霊力測定は後回しになった。

 俺たちの霊力は、わざわざ測定しなくてもステータスを見ればあきらかだが、他の生徒たちが見たら驚くだろうからな。


「武藤栄一、霊力50。佐々木健斗、霊力67。近江和子、霊力43……」


「死霊王デスリンガーの影響で、初期から霊力が多い人が多いわね」


 まったく修行していない除霊師見習いが、小学生の頃から除霊師として訓練を積んでいた涼子がレベル一の時よりも霊力量が多かった。

 以前はレベルアップしなかったために、苦労して霊力をチマチマと増やしてきた涼子からすれば複雑な心境なのであろう。


「涼子は、レベル1で40だったからな」


「これまで、霊力を増やすのに散々苦労してきたのにね。死霊王デスリンガーが除霊された余波で、みんな凄い霊力よ」


 以前なら、霊力40の涼子でも若手ではトップクラスの除霊師だった。

 だが今では、修行前の見習いの平均よりも低いのだ。

 自分のこれまでの苦労は、いったいなんだったんだろうと思っているはず。


「だからって、決して彼らが恵まれているわけではないけど」


 俺からすれば、霊力1000以下なんてみんな同じだ。

 それに、霊力が多い未熟な除霊師なんて、悪霊のいい餌でしかないのだから。


「予言する。今いる生徒たちの中で、将来十人の内二人か三人は死ぬ」


 いくら除霊師としての才能があっても、人間の性格はそう簡単に変えられない。

 鍛錬を怠ったり、才能があることに胡坐をかき、油断して悪霊に殺される人が出てくるはずだ。


「俺のペンダントを一生つけて普通に暮らした方が、無事に人生をまっとうできる人もいるだろうな。だがここにいる生徒たちは、全員が自分の意志で除霊師学校に入学した。入学してしまった以上は自己責任だ」


 その代わり、除霊師として大成すれば尋常じゃないほど稼げるのは、俺たちを見ればあきらかだ。


「賀茂俊、霊力540。倉橋恭也、霊力500。土御門史崇、霊力510。綾小路晶、霊力520。橘一刀、霊力530」


「さすがは名門除霊師一族の出だな。あの五人」


「血筋も顔もスペックもトップレベルか。羨ましい限りだ」


「俊様って、 つき合ってる人いるのかしら?」


「恭也様と同じクラスだといいなぁ」


「史崇様と同じクラスになりますように……」


「晶様ぁーーー」


「どうにか、一刀様とお知り合いにないたいわ」


 さすがはイケメン。

 同級生なのに、様づけで呼ばれるとは……。

 まるでアイドルみたいだな。

 例のイケメン五人の霊力値が読み上げられると、男子生徒たちはその才能を羨み、女子生徒たちは目にハートを浮かべながら、どうすれば彼らとつき合えるか、なんて会話を他の女子たちとしていた。

 本当、イケメンっていいよなぁ……。 


「裕ちゃん、さすがって感じかな」


「そうですね。師匠や私たちを除けば、入学生の中でトップ5ですから」


 元々有名除霊氏一族の出で、彼らはすでに多くの除霊を経験しているからレベルアップを重ねたのであろう。

 他の生徒たちを圧倒する霊力量であった。


「格差って残酷だよね」


 日本は資本主義の国だから、こうなるのも仕方がないというか。


「しかしながら、やはりこの時代の除霊師の実力低下は深刻なレベルだったのじゃな。妾の時代の除霊師は、あの五人の倍は強かったと思うぞ」


「なんか、そのたとえ納得」


 室町時代のトップクラスの除霊師の霊力が、1000前後あったとする。

 お札や霊器を使えば、かなり厄介な悪霊でもなんとか除霊できたはずだ。

 勿論室町時代のトップ除霊師でも手が出なくて、封印したり、後回しにしてしまった悪霊も多いのは、現代の現状を見ればあきらかだけど。


「じゃあ、広瀬たちな」


「へーーーい」


「えっ? 霊力100000超え? なんて数字だ!」


 俺の霊力を測定した教師が驚きの声を上げるが、五芒星の聖域の復活による竜神様の加護と、死霊王デスリンガー討伐以後の除霊によるレベルアップの影響だろう。

 東京で、結構色々な悪霊を除霊したからな。


「相川たちもか……霊力32052、清水は霊力28238、葛山は霊力30015、望月は霊力29334、葛城は霊力27456、木原は霊力25647、土御門は54127。凄い……」


 教師たちは驚いているが、俺たちからすれば今さらというか。

 それに……。


「中村先生、もう私たち以外、生徒は誰もいませんね」


「相川たちの霊力は突出しているが、それを大半が見習い除霊師ばかりの校内で殊更大げさに公表しても意味がないどころか、かえって害があるからな。クラスは掲示板を見るまでもなく一年A組だが、A組は高校一年生で霊力が多い生徒が入ってます程度のものでしかない。沢山除霊すれば、霊力が上がりやすくなるんだろう? 二年になったら、どうせクラス替えもあるだろうから。あっ、葛城は二年生だから二年A組な」


「中村先生、除霊師でもないのに随分と深入りしている感が……」


 確かに中村先生。

 除霊師でもないのに、除霊師学校に深く関わっているよな。


「霊力がある教師と職員が不足している以上、通常の教員を当てなければ人手が足りない。私は、たまたま担当していたクラスに除霊師が多くて慣れていると思われたみたいだ。別になにもしていないんだが……」


 中村先生の評価されるべき点は、霊を信じていて、除霊師や霊的な現象に遭遇してもまったく動揺しないところだと思う。

 霊にフラれるなんて経験をした人は、この人くらいだろうから。


「あっ、でも。中村先生。うちの生臭が言っていましたけど、例のイケメン五人の実家なら、広瀬裕や私たちの常人離れした除霊師としての実力を知らないわけがないから、すぐに校内に知られてしまうのでは? 結局、最後に霊力を測定しても意味がないような……」


「いや! 意味はある!」


「どんな意味ですか?」


 桜が、中村先生にどんな意味があるのかを尋ねた。


「あのイケメン五人の霊力値程度で、女子たちが目にハートマークを浮かべて大騒ぎしたんだ。もし広瀬の霊力値が公のものとなったら……今でもハーレムを形成していやがるくせに、これ以上増やしてなるものか! 女性とは、生物の本能として優れた男性を好むから、たとえ広瀬がフツメンでも、モテないってことはないはず! お前は校内で、普通の生徒として埋没するがいいさ!」


「……」


 中村先生……。

 悪い先生じゃないんだけど、たまに人間としての器の小ささを感じてしまうのはどうかと思う。


「どうせあのイケメン五人が、師匠の実力を他の生徒たちに漏らしてしまうんじゃないですか? 彼らが、死霊王デスリンガーについて知らないわけがないので」


 確かに千代子の言うとおりで、これからありそうなのは、『自分たちが除霊師学校のトップ5だと思っていたのに、広瀬裕とかいうフツメン雑種の方が上だと? 許せん!』みたいな感じで嫌がらせをしてくるとかありそうだ。


「夫君、あの五人はそういう風には見えないがな。古来より、優れ、恵まれた者たちは他者に寛容なことが多いぞ」


「そうかな?」


「とにかく、霊力は計ったから教室に向かうように」


「はい」


 霊力を測り終わった俺たちは一年A組に、桜は二年A組へと向かった。

 そしてその直後に、担任の先生が入ってくるのだけど……。


「一年A組の担任の中村です。私には霊力がないけど、霊力がある教師自体が不足しているので勘弁してほしい。除霊を教える教師については別の人が担当するから、私は普通の教師だと思ってもらえば。じゃあ、出席を取るぞ」


 除霊師学校に転入したのに、担任が同じ中村先生なので、学校を代わった感が非常に薄いというか……。

 久美子たちもそう思っているようだ。


「ほほう、これが学校というものか。これほど同年代の者たちが集まる場所に通うのは初めてじゃの」


 一人だけ、巫女服姿の沙羅だけは楽しそうに教室内を見渡していた。

 彼女は巫女服姿なのは、除霊師学校の制服がまだなく、前に通っていた学校の制服もなかったからだ。


「土御門沙羅じゃ。よろしく頼むぞ」


 苗字が土御門で、巫女服で、喋り方が大昔の高貴な人そのものといった感じなので、沙羅はクラスメイトたちの注目を集めていた。


「除霊師学校とはいえ、通常の授業は行われるので赤点を取るなよ。補習と追試があるし、そこでも赤点だったら留年するからな。いいか、冬休み中に補習や追試があると、私のクリスマスデートや初詣デートの時間が減るんだから」


「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」」


 沙羅に注目するクラスメイトたちをまったく気にしていない中村先生は、戸高第一高校の時と同じように、『補習と追試が面倒くさいから赤点を取るなよ!』と堂々と言い放ち、俺たち以外のクラスメイトたちを唖然とさせていた。

 しかし、中村先生が本当にクリスマスデートと初詣デートを楽しめる日が来るのであろうか?


「(広瀬君)」


「(どうかしたのか? 愛実)」


 そんな中村先生とクラスメイトたちの様子を生暖かく見守っていた俺に、後ろの席の愛実が声をかけてきた。


「(同じクラスになった賀茂君たちなんだけど、もの凄く真剣に広瀬君を見ていますよ)」


「(えっ? あっ……)」


 確認すると、確かにイケメンたちは俺を『ジィーーー』と眺めていた。

 やはり、彼らの手柄を奪ってしまった件で恨まれているのであろうか?


「(でも、憎まれているような気配は感じませんよ。むしろその……かなり深刻そうな表情をしているような……)」


「(うっ!)」


 なんだ、このイケメンたち。

 もしかすると放課後に、『ちょっと、校舎の裏庭に来いや!』、『てめえ、生意気なんだよ! やっちゃえ!』、『顔とか見えないところをやれよ!』とかされてしまうのだろうか?


「(彼らの実力じゃあ、裕君にそんなことはできないわよ。むしろ、下手に反撃して怪我でもさせたら、実家の力を使って謝罪と誠意とか言い始めるかも。戸高高志、岩谷彦摩呂、土御門蘭子、赤松礼香の件で、彼らの実家は力が落ちてしまったから)」


「(じゃあ、下手に関わらない方がいいな)」


 そこで俺は、彼らに声をかけられないよう、ガン……じゃなくて、霊力を飛ばしておいた。

 先に相手をビビらせて威圧してしまえば、物理的な接触もなくなって、おかしな言いがかりをつけられることもないのだから。


「(おっ、俺を見なくなったな)」


 五人は、大人しく中村先生が始めた授業に集中し始めたようだ。

 せっかく入学した除霊師学校だが、男子の友達はできそうにないな……。

 強くなるのも考えものだ。

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