第145話 終焉

「全員、全力で攻撃せよ!」


「「「「「「了解!」」」」」」



 予想外の乱入者のおかげで、死霊王デスリンガーとの戦いに勝算が見えてきた。

 あとは、ただひたすら攻撃して、奴の霊力を削り取るだけだ。

 俺は引き続き死の波動に備えるとして、里奈は歌と踊りで全員のステータスに補正をかけ続ける。


「裕ちゃん、里奈ちゃんってあんなマイクとマイクスタンドを持ってたっけ?」


「生を司る神の仕業だよ(預かり品なのに……)」


 歌と踊りによる補助がメインの里奈は、お札は持っていたが、武器を持っていなかった。

 なにより、神の歌い手である彼女は広範囲に歌声を届けることができる。

 マイクなど必要ないので持っておらず、アレは俺のお守りの中に入っていた『清水美憂(しみず みゆう)』が生前使用していたマイクとマイクスタンドであろう。

 清水美憂とはまだ俺たちが生まれる前、デビューするやいなや熱狂的な人気を誇ったアイドルであったが、わずか一年ほどでガンで早世してしまった人だと聞いている。

 彼女が使っていたマイクとマイクスタンドにはコレクターズアイテムとして高値がついていたが、立て続けに所有者に不幸が襲い、日本除霊師協会経由で俺が貰ったものであった。

 ただ、そのマイクとマイクスタンドに清水美憂の悪霊が憑いているのかと言われるとそうではない。

 所有者に不幸が襲いかかったというが、これはまったくの偶然であった。

 ところが素人さんに、『このマイクとマイクスタンドには、悪霊は憑いていません』と説明しても、信じてくれない人がいる。

 悪霊が見えないからといって、悪霊が憑いていない証拠だと信じず、『まだ悪霊が残っているはずだ!』と、怖がってしまう人が一定数いるのだ。

 仕方がなく、清水美憂のマイクとマイクスタンドは日本除霊師協会が引き取り、俺が除霊報酬の一部として貰っている。

 価値があるとは聞いていたが、俺は自分が生まれる前に活躍していたアイドルに興味がないので死蔵していたのだけど……。

 生を司る神が、里奈専用の武器として強化してしまったようだ。


「マイクとマイクスタンドが武器なんだね」


「やっつけ仕事感があるなぁ……」


「死ね! 小娘! 覇霊弾(はれいだん)!」


 などと思っていたら、死霊王デスリンガーが自分の体から分離した悪霊を投げつけてきた。

 どうやら少し知恵がつき、後衛の里奈を標的にしたようだ。

 彼女になにかあると全員の能力が下がってしまうので、上手い手ではあった。


「そいつは……」


「裕ちゃん、お知り合い?」


「死霊王デスリンガー四天王の一人、『エレメントレイスの死枯れ』。厄介な奴を分離しやがった!」


 死霊王デスリンガーが、向こうの世界の冥界の悪霊たちを支配下に置いているのは事実であった。

 すでに除霊したはずの死霊王デスリンガーの配下の一人を、悪霊として里奈に飛ばしてきたのだから。


「里奈!」


 里奈には攻撃力がない。

 急ぎフォローに入ろうとするが……。


「裕! 心配ご無用! はぁーーー!」


 里奈は、自分に襲いかかろうとしたエレメントレイスの死枯れを、マイクスタンドを振り回して一撃で除霊してしまった。


「調子いいわね! まだまだ歌って踊るわよ!」


「すげえ……」


 さすがは、神々のシリーズ化しただけのことはあるな。

 まさか、マイクとマイクスタンドが武器になるとは思わなかったけど。

 除霊師、パラディンでは、里奈だけだろうな。


「裕ちゃん、アイドルってよりは、ロックな感じがするね」


「まあ、役に立てばいいんだよ」


「私は、この『神木の棒』が強化されたみたい」


 以前、俺が護身用として久美子にあげた神木の棒も、神の祝福を受けて強化されていた。

 

「死霊王デスリンガー四天王の一人、『骨砕きの包帯男』……の悪霊か……」


 里奈が駄目だとわかると、 今度は久美子を標的にしたか……。

 俺が隣にいるのにと思った瞬間、死霊王デスリンガーは死の波動で全体攻撃も同時に行なった。

 急ぎ俺は身代わりに入るが、これまでにない強烈な一撃だ。

 全身がどす黒くなり、俺は思わず膝をついてしまった。

 その隙に、骨砕きの包帯男の悪霊が久美子を襲う。


「久美子!」


「任せて、えい!」


 久美子が神木の棒を用いて骨砕きの包帯男の悪霊にひと突き入れると、呆気なく消滅してしまった。


「里奈ちゃんのマイクと同じく、もの凄く強化されている。裕ちゃん!」


  続けて俺に治癒魔法をかけてくれるが、 回復速度と回復力が大幅にアップしていた。

 どうやら神木の棒は、所有者がかける治癒魔法に大幅な補正が入るようだ。


「となると、この髪穴も!」


「巴御前の薙刀も、霊器どころか、『神器(じんき)』と化しているようじゃの。いくぞ! 涼子!」


「任せて、合わせるわ!」


 涼子と沙羅姫が、死霊王デスリンガーに対し同時攻撃を仕掛ける。

 

「攻撃が通ったわ!」


「クソッ! 生を司る神め! 余計なことを!」


「お主の都合どおりいかずに残念よな」


 二人の攻撃を食らった死霊王デスリンガーの体から、これまでにない量の黒い煙が上がった。

 せっかく戸高高志と岩谷彦摩呂の悪霊を吸収してパワーアップしたのに、生を司る神による武器のパワーアップの方が上だったのであろう。


「沙羅さん、『神器(じんき)』とは?」


「妾も見たことはないが、この世界のどこかに、神が作ったとされる霊器が実在するという噂を聞いたことがある。安倍晴明が持っており、その死後に行方不明になったと聞く。妾たちの武器は、それに匹敵するか、もしかしたらそれ以上の性能を持っているのであろう」


「なるほど」


 この世界にも神は存在するのだから、神々のシリーズと似たようなものがあっても不思議ではないのか。


「まるで豆腐でも切るかのように攻撃が通ります。師匠がこの前くれた『行光(ゆきみつ)』と『来国俊(らいくにとし)』 は」


「私の扇は……いつの間にか、見たこともない扇になっていました。これも……攻撃しまぁーーーす!」


 千代子と木原さんによる同時攻撃でも、死霊王デスリンガーはこれまでにない大ダメージを受けていた。

 千代子の短刀は、国宝にも同じものがある銘品だが、俺が直すまでは悪霊に取り憑かれていたものだ。

 木原さんの扇はオリハルコン製で、向こうの世界の木原さんが神々の装備品を手に入れるまで使っていたものであった。

 先ほど木原さんに渡していたのだが、生を司る神が強化したようだな。


「この『那須与一の弓』。もの凄く使いやすくなっているわ」


 桜の武器も強化されており、 彼女たちは俺の指示に従って死霊王デスリンガーに集中砲火を浴びせていた。

 定期的に死の波動が襲ってくるが、俺が身代わりですべてダメージを引き受けるのは同じ。

 久美子の治癒魔法が大幅にパワーアップしたので、回復も早く楽になった。


「クソッ! 下等生物のくせに!」


「元邪神のくせに、ミジンコやネズミをやっていた奴に言われたくねえよ!」


「俺様は、死を司る死霊王デスリンガーだぞ!」


「神様のくせにルール違反を犯して、元いた世界を追放されたくせに……」


「殺す! 必ず殺す!」


 激昂した死霊王デスリンガーがその巨体を生かして殴りかかってくるが、それは俺が阻止した。

 パワーアップしているが、やはり体の大きさの割にパワーがない。

 体の密度が低いというか、触れる実体のないものだからであろう。


「軽いな」


「クソッ!」


 ムキになった死霊王デスリンガーがパンチと蹴りを連続で繰り出してくるが、死の波動よりも物理攻撃の方が温くてありがたかった。


「やあ!」


「とう!」


「背中がガラ空きですよ!」


「段々と、扇での攻撃に慣れてきました」


 当然のことだが、俺に攻撃をしてそれを止められてしまうと体が動かなくなってしまうので、そこを涼子、沙羅姫、千代子、木原さんに攻撃されてしまう。

 

「止まってくれるから、狙いやすいのよね」


 後方から次々と桜が放ち、俺がダメージを受けなくなったので治癒魔法をかける必要がない久美子が、それを死霊王デスリンガーにかけ始めた。

 奴からすれば全身に濃硫酸を浴びているようなもので、白い煙を吹き出しながら霊力を大量に消耗していく。

 神木の棒のおかげで、魔法攻撃力も大幅に上がってるようだ。


「おのれぇーーー! だが俺様は!」


「無限の回復力か? それはよかったな」


 またそんな世迷言を言い出したということは、もうそろそろ霊力が限界なのであろう。

 確かに向こうの世界の冥界にいる元部下たち……すべて俺たちが除霊したものだが……の霊力を自由に使えるのだから、死霊王デスリンガー一体で死霊軍団並の霊力量があるはず。

 だが、消耗し尽くせばそれで終わりだ。


「強大な霊力の塊に、小細工などを用いても無駄だ。攻撃し続けて倒すしかない」


「ちょこまかと数ばかりいて!」


「おっと、身代わりだ!」


 死霊王デスリンガーが死の波動を放つが、すぐに身代わりを発動させて、ダメージを俺に集中させる。

 肌が真っ黒になり大ダメージを受けるが、すぐに久美子が治癒魔法で回復させてくれた。

 全力での攻撃を続けた結果、前衛メンバーの霊力回復薬が尽きてしまったが、一人ずつ順番に俺のところに後退させ、新しい霊力回復薬を渡す。

 

「俺たちにも、無限の回復力はあるぞ」


「ただ用意した霊薬を補給しているだけだろうが!」


「お前も、冥界にいる元配下たちの霊力を利用しているだけだろうが。それももうそろそろ弾切れらしいがな」


 徐々に、俺が死の波動で受けるダメージが減っている。

 間違いなく、残り少ない霊力の節約を始めた証拠であろう。


「……こうなれば! 俺様もしばらく復活に時間がかかるが、お前らは死ねば終わりだ! ならば!」


 大分死霊王デスリンガーを追い詰めたと思ったその時、突如奴が攻撃を一切やめて守勢に入り始めた。

 突然の戦術変更に俺たちは驚くが、そのまま攻撃を続行する。

 ところが……。


「裕君、ダメージが通らない!」


「どういうことじゃ?」


「師匠、攻撃を弾かれてしまいます」


「また硬くなってしまいました」


「矢が弾き返されてしまうわ」


「えっ? 治癒魔法の効果がなくなってしまったの? ダメージを全然与えられない!」


「裕、大丈夫?」


 これはもしや、死霊王デスリンガーが最後の賭けに出たのかもしれない。

 このままダラダラと霊力を消耗して除霊されるよりは、残りの霊力を一気に使って俺たちを一撃で屠る。

 その戦法を用いると、間違いなく死霊王デスリンガーはしばらく活動できなくなってしまうが、数百年間休眠状態になったところで、 人間とは時間の流れが違うのでさして気にならないはずだ。


「短命で愚かな人間よ! この世界は霊力を用いる者たちの力が落ち続けているようだからな。数百年後、俺様が復活した時こそが、この世界を死の世界に変える時だ。お前たちは俺様に殺されて、未来永劫死霊として彷徨うがいいわ!」


「裕ちゃん、一気にドカンってやるみたいだよ。大丈夫?」


「……」


「あーーーはっ、はっ! 残念ながら打つ手がないようだな」


「……全員集合」


「えっ? 大丈夫なの?」


「大丈夫だよ、涼子さん。死霊王デスリンガーは、『亀の甲羅』という特技を使っているから」

 

 亀の甲羅を用いると、 すべての攻撃が無効化されてしまう。

 だがその代わりに、一切の攻撃が出来なくなってしまうのだ。

 

「もし攻撃をしようものなら、またすぐにダメージが通ってしまうのさ」


 だから、死霊王デスリンガーはもう攻撃してこないのだ。


「ただ守るだけゆえに、最強の防御力が得られる特技というわけね」


「そういうこと」


「して、どうするのだ? 夫君」


「確かに亀の甲羅を用いている間は攻撃できないが、俺様が用いることができる霊力をすべて爆発させれば、お前などあっという間に絶命してしまうであろう。別に逃げてもいいが……いいのかな?」


「師匠、逃げないのですか?」


「おおよそ計算してみたけど、こいつが霊力をすべて用いた攻撃を繰り出すと、戸高市は全滅する」


「えーーーっ! 全滅ですか? でも広瀬君、今は逃げるしかないんじゃあ……」


「いや、木原さん。ちょうど八人いるから使えるな。全員集合」


 俺はみんなを集合させると、まずは直径十メートルほどの円を描いた。


「広瀬裕、コンパスもないのに正確な円を描けるなんて、職業病じゃない」


 桜の言うとおりで、地面に正確な円を描けるというのは優れた除霊師の条件であった。

 円は霊器やお札、術の強化に最適な図形だからだ。

 さらに続けて、円の中に八角錐を描く。

 これも、定規を使ったように正確に描いた。


「その八角錐の角の部分に立って、得物を上に掲げてくれ」


「裕君は、八角錐の真ん中に立たないのかしら?」


「この八角錐陣の真ん中は、人間には意味はないから。レベルの関係で、どうせ俺が全体をコントロールするから同じことだよ。急いで」


 俺、久美子、涼子、里奈、千代子、桜、沙羅姫、木原さん。

 合計八名が八角錐の角の部分に立ち、生を司る神に強化してもらった武器を掲げる。

 俺も、神刀ヤクモを頭上に掲げた。

 

「死霊王デスリンガー、『聖八神円陣(せいはちじんえんじん)』で、お前の全力攻撃を押さえ込んでやる」


「やれるものならやってみるがいい!」


 俺たちと死霊王デスリンガーは、 これで最後になるであろう一撃に備えて力を蓄え始めた。

 そして、ほぼ同時に貯め込んだ霊力を解放する。

 

「みんな、気を確かに! 意識を失わないギリギリの量の霊力をすべて解放してくれ」


「死ぬがいい! 『暗黒無限霊殺波(あんこくむげんれいさっぱ)』」


 死霊王デスリンガーが、数百年の休眠を覚悟して全力で放った霊力攻撃が周囲に拡散しようとしたところを、八角錐陣から放出された俺たちの霊力が全力で抑え込もうとする。

 拡散しようとする黒い霊力と、それを抑え込もうとする白い霊力。

 互いに全力で霊力を放出し合うが、俺たちの霊力はすぐに尽きそうになってしまう。

 持っている霊力回復薬で、霊力補給は定期的に行う必要があった。

 

「吹き飛べ! 下等生物が!」


「負け犬の邪神に、下等生物扱いされるいわれはないね!」


「裕ちゃん…… 恐ろしい勢いで霊力が……」


「霊力回復薬の補給を絶やさないでくれ」


「あまり格好いい技ではないけど、現実なんてこんなものよね」


「涼子、マイクとマイクスタンドを掲げている私の身にもなってよ。これがRPGでいう一番優れた武器って……私もつくづく歌と縁があるわね」


 八角錐陣に立ち、生を司る神から強化された武器をかかげ、霊力が尽きて気絶しないうちに霊力回復薬を器用に飲む。

 確かに、創作物でラスボス級の敵との戦いで使う技に比べると、決して格好いいとは言えないな。


「私は忍なので、師匠の現実的な技、いいと思います」

 

「広瀬裕、勝てそう?」


「大丈夫だろう」


 死霊王デスリンガーの力の源は、俺たちパラディンが除霊して冥界に送り込んだ、元配下たちの霊力だ。

 つまり、一度にすべての死霊軍団と戦っていたに等しい。

 それは霊力を消耗し合う戦いになるわけだが、いつか必ず限界が訪れる。 

 もうすぐその時が訪れるはずだ。

 俺の予想どおり、死霊王デスリンガーの霊力は枯渇寸前のようだ。

 奴を中心に、周囲に拡散しようとしている黒い霊力が縮小し、俺たちの白い霊力に押されつつあったからだ。


「クソォーーー! またも負けるのかぁーーー!」


「諦めが肝心じゃないの?」


「ふざけるな! よかろう、再び輪廻転生の輪に戻ることになろうとも、必ずお前たちを殺してやる!」

 

 なんと死霊王デスリンガーは、今の自分の存在を維持する霊力まですべて使い始めた。

 もし俺たちを殺せても、自分も消滅して再び輪廻転生の輪に戻ることになるし、再び邪神に生まれ変わることができる可能性は非常に低い。

 自分の身を犠牲にしてでも、俺たちを殺したいのか。


「……里奈、そなたが、 敵を煽るから。さっきの神と同じではないか」


「私のせいなの?」


「冗談じゃよ。こういう奴に捨て身でこられると厳しいな。夫君?」


「……」


「打つ手なしか! ざまあないな! 俺様と一緒にこの世から消え去れ! お前もミジンコからやり直すのだな!」

 

 邪神にここまで開き直られてしまうと最強だな。

 このままでは俺たちは……。


「裕ちゃん!」


「なんてな」


 俺はお守りから小さな光る石を取り出すと、それを投げて八角錐陣の中心部に置いた。

 するとその光る石から、神々しく光り輝き、レースでできた豪華なドレスを着たライトグリーンの髪を持つ美少女が現れた。


「裕君、誰? この人?」


「ついさっき会っているんだけど、銀狐に憑依していたからわからないか」


「ええっ! 生を司る神様なの?」


「の、一人だね」


 生を司る神様たちは沢山いるけど、なるべく人間とは接触しないというルールを守るため、この人しか姿を見たことがなかったのだ。

 裏では色々と、俺たちを手伝ってくれていたそうだけど。

 神々の装備の製造は、一人では難しいだろうからな。


「えっーーー! もう呼び出したの?」


「『神の石』。もしもの時には一回だけ助けてあげると言って、俺にくれただろうが」


「あげたけどさぁ……って! 自分も死なばもろともかい! バカなんじゃないの? 死霊王デスリンガーは! で、どんな手助けをすればいいの? わかっているとは思うけど、この盛大に自爆する寸前の死霊王デスリンガーに攻撃するってのはなしね」


「ここで、大量の霊力を放出してくれ」


「……八角錐陣の上……。まあ、死霊王デスリンガーに直接手を下すわけじゃないからいいか。いくわよ!」


「久美子たちも、最後のひと踏ん張りだ!」


 俺は、八角錐陣の上に呼び出した神様に霊力の放出を頼んだ。

 すると、その余りある霊力が俺たちの白い霊力を強化して、死霊王デスリンガーが消滅覚悟で生み出した黒い霊力を抑えつけ、徐々に打ち消していく。


「卑怯だぞ! 生を司る神!」


「あんたに言われたくないわ。どうせ勝っても負けてもミジンコからやり直しだったんだから、どっちでもいいんじゃない」


「ならばなぜ人間を救う?」


「私たちにも色々とあるのよ。今、広瀬裕たちが死んでしまうと、この世界が悪霊たちの天国になってしまい、人間の衰退期が続いてしまうから。その原因が、私たちの世界で暴れていた邪神だなんて、神様の世界で肩身が狭くなるじゃない。向こうの世界からこの世界に具現化するのに許可をもらったりして借りがあるから、この子たちを助けないと。あんたは命がけで相討ちを狙ったのに、無様に失敗して消えちゃうんだぞ! ざまあ! ねえ、どんな気持ち? 私にだけ教えてくれていいよ」


「広瀬君、あの神様、性格悪いと思います」


「知ってた」


 でも、生を司る神様の中で一番優秀で偉いという。

 神様も、人格と能力は別だという典型例であった。


「古くからの記録には、残念な神様の記述も多いからの。さあ、仕上げじゃぞ」


「裕ちゃん!」


「裕君!」


「裕!」


「師匠!」


「広瀬裕!」


「師匠!」


「夫君!」


「最後のひと押しだ!」


  一斉に霊力回復薬を飲んでから、一気にすべての霊力を放出すると、死霊王デスリンガーは黒い霊力を保てなくなり、さらに白い霊力によって、その身を徐々に蝕まれ、削られていく。


「そっ、そんなバカな!  相討ちにすらできぬというのか! まあいい! 俺様は必ず復活し、復讐してやる! だが、その頃にはお前はもう生きておるまい! お前の子孫たちを一人残らず根絶やしにしてやるぞ!」


「できるものならな。俺はそれに備えるまでだ」


「ふんっ、数千年、先も先の話だ! その頃にはお前の子孫たちも、安倍一族のように惰弱で腑抜けな存在になっているだろうよ」


「……お前、まだいたんだな。鬼の晴広」


「忘れてたわ……」


「清水さんだけじゃなくて、本人以外みんな忘れていたと思うから」


「小娘がぁーーー!」


「しょうがないだろう」


 死霊王デスリンガーの存在が大きすぎて、鬼の晴広なんて雑魚でしかなくなってしまったのだから。


「冥界で支配下に置いた悪霊の霊力を利用するなんて、不思議な特技は使えたけどね。おかげでえらく苦労したから、お前もミジンコからやり直しだね。アディオス!」

 

 神様が大量の霊力を放出すると、白い霊力の力が圧倒的となり、死霊王デスリンガーとその胸に顔があった鬼の晴広は瞬時に消滅してしまった。

 なにか言い残す時間的余裕もないほどに。


「終わったねぇ。ただ、ちょっと困った問題になってしまったね。死霊王デスリンガーだけど、あれはまた、長くて数万年、早いと数千年で復活してしまうよ。だけど、この世界の除霊師たちは貧弱だからねぇ。この世界のパラディンは全員この場に居合わせるよう、運命律を調整したんだけどたったの八名……。この世界の神たちと相談してくるから、何日かしたら神の石で私を呼び出してね。じゃあね」


「神の石って、一回しか使えないんじゃないの?」


「仕様変更ってことで! じゃあね」


「師匠、あの神様、仕様とか言ってますよ」


「普段もあんな感じだから」


 死霊王デスリンガーと、後半全然目立っていなかった鬼の晴広が消滅したのを確認すると、神様はまた呼び出すようにと俺に言い残し、姿を消してしまった。


「裕ちゃん、死霊王デスリンガーを無事に倒せたけど……あれ?」


「裕君、 どういうわけか恐ろしく眠いわ……」


「私も……げっ!」


「どうかしたの? 葛山さん……レベルが……」


「師匠、こんなに急激にレベルが上がったら……自分も駄目です」


「広瀬君、私のレベルがとんでもないことになっているんだけど……体が……」


「夫君は大丈夫なのか? 妾も意識を保てぬ……」


「俺も、これは駄目だわ。眠い……」


 死霊王デスリンガーを倒したせいであろう。

 急激にレベルが上がったことはわかったが、その詳細を確認する前に抗いがたい眠気に襲われてしまい、俺たちはその場で意識を失ってしまった。

 まあ、死霊王デスリンガーを倒せたのだから良しとしよう。


 菅木の爺さん、あとは任せた。

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