第144話 降臨
「裕ちゃん、私たちはどうすればいいの?」
「そこまで難しい話じゃないさ。あいつに全力で攻撃し続ければいい。ただし……」
銀狐がかなりの無茶をして、すぐに久美子たちを連れてきてくれたので助かった。
その際に、死霊王デスリンガーの胴体をぶち抜いて大穴を開けたが、それはもう完全に回復している。
ガッカリはしない。
なぜなら、奴は死を司る生きていない者たちの神であり、 実体にはそれほどの意味がないからだ。
「死霊王デスリンガーのお腹に穴が開こうが、首がもげようが、霊力が尽きなければ倒せないからだ」
そしてその霊力の供給源が、鬼の晴広を吸収して会得した、向こうの世界の冥界にいる元配下たちの霊力であった。
「つまり、死霊王デスリンガーの霊力が尽きないと倒せないわけね」
「そういうこと」
「違う世界の私たちは倒せたのだから、大丈夫だと思いましょう。唯一の懸念は、どうやら今の私たちが、違う世界の同一人物よりも弱いという点ね」
「私も?」
「裕君が死霊王デスリンガーを倒した時のメンバーは、 私、葛城先輩、そして、木原さんだそうよ」
涼子は里奈に、以前俺が死霊王デスリンガーを倒した時のメンバーを説明した。
「この私を召喚しないなんて、異世界の女王陛下とやらは、人を見る目がないわね」
自分でそう言うだけあって、里奈にはパラディンの才能があると思う。
ただ、 治癒魔法メインの久美子もそうなのだけど、女王陛下が召喚できるパラディンの数に限度があった関係で、攻撃力がある人が優先されたのだと思う……と、ルード宰相が言っていたな。
女王陛下自身は……彼女は味噌っかすのようなものなので、そういう難しいことは考えられないのだけど。
「まあ……ああいう人だから……」
今にして思うと、確かに巫女としての才能はある人だったし、国民たちの人気は高かったけど、天然すぎてルード宰相が苦労していたからなぁ。
「夫君、つまりこの場にいる者たちは全員、『ぱらでぃん』とやらの素養があるようじゃの」
「だと思う」
この場にいるというだけで、俺たちは全員がパラディン候補のはずだ。
「全員がですか? 師匠」
「ああ、こういう霊的な事象に偶然はそうないさ。俺たちがここにいるのは必然なのだと思う」
唯一の例外は、完全に力尽きてしまった銀狐くらいであろう。
「銀狐ちゃん、大丈夫? 治癒魔法をかけようか?」
「久美子、銀狐は大切な役割を果たしたので、これでお仕事は終わり。なにより、銀狐に死霊王デスリンガーは倒せないのさ」
「そうなんだ」
なぜなら、元々才能があるお稲荷だったのだと思う。
それが、お稲荷様の庇護下に入ったものだから、この短期間で劇的に神様としての力を増やしていたからだ。
「神様同士が戦うことはタブーだから。多分お稲荷様は、銀狐を後継者扱いしているのだと思う」
「凄いね。銀狐ちゃんが九尾の狐になるんだ」
「大分先の話だけどな」
俺たちが、寿命で死んだはるか先であろう。
もうそろそろ 死霊王デスリンガーのダメージ回復が完全に終了し、煙幕がすべて晴れるはずだ。
「別世界の私、こんな化け物と戦って勝ったのね。まあなんとかなるでしょう」
「別世界の私、ハードルが高いよぅ……」
桜と木原さん……。
やはり、大分性格に違いがあるよなぁ……。
「 はーーーはっはっ! この俺様が完全に回復するまで待ってくれるとはな。余裕の表れか?」
「そうかもな」
そんなわけないだろうが。
お前が完全に回復するまでの時間を計って、どのくらいダメージを与えれば除霊できるか、俺なりに計算するためだ。
それをわざわざ、お前に教えてやる義理はないけど。
「それぞれに得意な技で攻撃開始!」
相手は莫大な回復力を持つ強敵だ。
細かな策など弄するだけ無意味なので、全力で攻撃して削り続けるしかない。
「いくわよ!」
まずは、里奈が歌いながら踊り始めた。
全身が高揚してきたので、パーティメンバー全員の攻撃力、防御力、スピード、知力などに大幅な補正が入ったはずだ。
確かに前回に比べると俺以外はレベルが低いけど、補助技能がある里奈の加入でレベルの低さは十分に補えるはずだ。
「連射よ! 撃って、撃って、撃ちまくる!」
桜も、後方から矢を連射し始めた。
すべて死霊王デスリンガーの顔に突き刺さり、霊力を削り取っていく。
「桜、念のために説明しておくと、死霊王デスリンガーの体のどこに突き刺さってもダメージは一緒だから」
「確か、こいつの実態は触れる霊力の塊だったわね。わかったわ」
その代わり、 首を斬り落とそうが、真っ二つにしようが、霊力がある限り無限に回復してしまうのだけど。
「行くわよ!」
「霊器を振るっての除霊は久しぶりじゃな」
涼子と沙羅姫が前衛となり、髪穴と巴御前の薙刀で死霊王デスリンガーに攻撃を始める。
次々と攻撃がヒットして、死霊王デスリンガーから黒い煙が盛大にあがった。
「間髪入れずに攻撃を続けます!」
「ううっ……大分扇での攻撃に慣れたから大丈夫なはず……」
涼子と沙羅姫と交代するように、千代子が二刀流の短刀で、木原さんが扇で攻撃をしていく。
やはり前回に比べると、一回に与えられるダメージが少なめだな。
人数が多いので、ダメージ総量は上だけど。
俺の神刀ヤクモに匹敵する武器がないのと、全員のレベルが低いからであろう。
「雑魚がちょこまかと! 死の波動を食らえ!」
ついに死霊王デスリンガーの反撃がきた。
まともに食らうと即死してしまう、死の波動という反則技のような全体攻撃だ。
前回もこいつに大分苦労させられたので、今回は対策を立てていた。
「はははっ、これだけの人数が広範囲に散らばって俺様を攻撃しているのだ! 全員を死の波動から守るのは難しいだろう? もしそれができても、すぐにお前は霊力を使い果たしてしまうだろう。残念だったな!」
「心配してもらわなくても、ちゃんと対策は考えているさ。逆転の発想というやつだ『身代わり』!」
久美子、里奈、桜が後衛で、遠距離攻撃と補助。
涼子、沙羅姫ペア、千代子、木原さんペアが前衛となり、順番に攻撃を続けていくパターンとなったため、死霊王デスリンガーによる全体攻撃死の波動を彼女たちが食らわないようにするには手間がかかる。
広範囲を『治癒魔法』のバリアーで覆えば、俺の霊力消費量が膨大なものになってしまうし、個々に防御を任せると、 レベル不足と経験不足で死霊王デスリンガーに攻撃できないばかりでなく、防御しきれずに殺されてしまう可能性が高かった。
そこで、地味な名前ながら高度なスキルを必要とする『身代わり』を用いることにしたのだ。
身代わりとは、対象とした者たちが受けた攻撃によるダメージを、すべて俺が代わりに受ける特技であった。
久美子たちが、死の波動を防御し損なうと確実に即死してしまう。
だが、俺なら……。
「まあ、辛うじて死なないだろうな……」
「裕ちゃん?」
「なにがあっても、絶対に攻撃の手を緩めないでくれ! 久美子と里奈も、確実に自分の役割をこなしてくれ」
その直後、死霊王デスリンガーが、禍々しい黒い霧を全身から周囲に拡散した。
その黒い霧のあまりの禍々しさに、沙羅姫と千代子、木原さんの動きが一瞬止まってしまったが……。
「大丈夫よ! 私たちにはなんのダメージもないから! 動きを止めずに全力攻撃を続けましょう」
「涼子の理解が早くて助かっ……これは……」
死の波動は全体攻撃にも関わらず、俺以外は誰もダメージを受けなかった。
元々即死魔法の一種なので、肉体にはまったくダメージを受けないはずなんだけど、なにしろ久美子たち全員分の即死魔法を俺が一身に食らったのだ。
頭がフラつき、一瞬脳裏にあの世の向こう側が見えたような……。
さらに、生きているにも関わらず、全身がドス黒く変色していた。
とてつもない死への誘いの影響で 、身体表面の全身の細胞が壊死を起こしたようだ。
「裕ちゃん! 待ってて!」
急ぎ久美子が、俺の体に治癒魔法をかける。
全員分の身代わりを維持するため、俺自身は治癒魔法をかけることができず、回復は久美子に任せるしかない。
彼女の回復が遅れたら俺は死ぬし、俺が死ねば久美子たちも死ぬ。
いわば一蓮托生の状態であった。
「巻き込んでしまって非常に申し訳ないが、残念ながら他の除霊師には頼れないからな」
久美子の治癒魔法の威力と腕前は、大分上がったようだ。
すぐに全身の壊死部分が回復した。
「ここで死霊王デスリンガーに殺されなくても、あとで必ず戦わされるから同じことよ。それに、別世界の私は倒したわ。気にしないで裕君」
「涼子の言うとおりよ。これも、除霊師の才能を持った者の定めよ」
「師匠に強くしてもらったからこそ、ここでどうにか戦えているのです。昔の強さで、いきなりこんな奴と戦ったら大変なことになっていましたからね」
「初陣でこれなら、あとは全部楽勝なはず。広瀬君は気にしないで」
「愛実、それフラグ……」
「フラグじゃないよ! 葛山さん!」
涼子、沙羅姫、千代子、木原さんは、死の波動を食らっても動きを止めず、死霊王デスリンガーに全力で攻撃を続けた。
そして霊力が尽きると、俺が配った霊力回復剤で消費した霊力を回復させる。
「私の歌と踊りが止まったら、みんなのステータスに補正が入らなくなるから責任重大ね。こんな化け物と町中で戦わないだけマシよ」
みんなのレベルが低いので、里奈によるステータスアップの歌と踊りは欠かせない。
攻撃力とスピードのみならず、知力が上がっているおかげで、久美子の治癒魔法にも補正が入っているし、桜の弓の命中率にだって関わってくるのだから。
「広瀬裕、あなたが気にすることはないわ。戸高高志と岩谷彦摩呂の暴走によってとんでもない損害が発生しているのだから、責任は日本除霊師協会の会長である生臭が負えばいいのよ。あとで、一兆円くらいむしり取ってやるわ」
死霊王デスリンガーが復活したのも、元を質せば鬼の晴広を怒らせたからだ。
今の状況をどこまで掴んでいるのか知らないが、戸高家と安倍一族はもう終わりかもしれないな。
間違いなく、この国の上層部が許さないだろう。
桜の祖父さんも責任を取らされて、日本除霊師協会の会長をクビになるかもしれない。
「裕ちゃん、大丈夫? 死なないよね?」
「ああ、大丈夫さ」
間違いなく、死霊王デスリンガーも強くなっているな。
前回こいつを倒した時の実力なら、これだけの人数の身代わりをしたら即死だったはずだ。
ラスボスを倒したあともレベル上げ。
世間からはバカにされそうだが、強くなっておいて助かった。
「久美子の治癒魔法がないと、俺は死んでしまうけどな」
なにしろ身代わりが忙しくて、自分で治癒魔法をかける暇がないのだから。
前回とは違って、専門の回復役がいて助かった。
「裕ちゃんは死なせないから!」
「里奈の歌と踊りの補正分を差し引いても、久美子の治癒魔法の威力が上がったのがわかるぞ」
「さっきレベルが上がったら、特技が『上級治癒魔法』になっていたんだ」
「それも幸運だったな」
久美子は、 他のみんなよりも早くレベルを上げを始めていた。
そのおかげで、無事に上級治癒魔法を覚えられたようだ。
「あの巨人、なかなかしぶといよね」
「ああ、伊達に別の世界のラスボスじゃないってことだ」
以後は、完全な消耗戦に突入していた。
涼子たちが全力で攻撃し続けて死霊王デスリンガーの霊力を削っていき、向こうも同じことをしてくる。
ダメージはすべて俺が引き受け、 他のみんなは与えられた役割を効率的にこなしているので、戦況は俺たちの方が有利なはず。
もしかして、死霊王デスリンガーは本当に無限の回復力を持っているのでは?
わずかにそんな疑いが脳裏に思い浮かぶが、それも向こうの罠だ。
徐々に回復用の霊力が枯渇しているはずであり、ここまできたらもう我慢比べしかない。
双方による削り合いが続くなか、突然死霊王デスリンガーが高笑いを始めた。
「あーーーはっはっ! どうやら俺様の勝ちのようだな」
「どういうことだ?」
「これまでどうして俺様が、このうるさいだけの二人の自我を保たせていたと思う?」
「寂しいから?」
お前、いつも一人だったからなぁ。
戸高高志と岩谷彦摩呂でも、側に置いておけば嬉しいんだと思っていた。
「…… お前にまともな返答期待するだけ無駄か……」
邪神の分際で、俺をバカにするなんて!
ただ不思議ではあった。
鬼の晴広の悪霊は、これの自我をなくすと、冥界で支配下に置いた悪霊たちの霊力を利用する特技を使えないからなのはわかる。
だが、他の除霊師たちの悪霊はすべて吸収してしまったのに、あえて岩谷彦摩呂の……いや、彼はそれでも除霊者の中では優れていた。
除霊師ですらない、戸高高志の悪霊の自我まで保たせている理由はなんなんだ?
「理由としてはそれほど複雑なものではないがな。単純に相性の問題だ。鬼の晴広とこの豚の相性がよく、ブーストをかける燃料として優れていただけのこと。もう一人は、他の除霊師たちがあまりに無様なのでな。マシだから選んだだけだ」
「なんと失礼な! 邪神に礼儀など期待するだけ無駄かもしれないが、安倍一族のホープである私がマシ? 訂正したまえ!」
「もう少し言い方があるだろうが! 僕を誰だと思っているんだ!」
バカってのは凄いな。
自分たちを支配下に置き、今の状態を保たせている死霊王デスリンガーに対し、堂々と文句を言ってしまうのだから。
「こうるさい連中だが、これで終わりだ! この二人を吸収すれば……」
「待て! 僕を誰だと思っているんだ! 僕は戸高家の次期当主だぞ!」
「そのような早まった真似をするものではない! 私の安倍一族の力があれば、あなたも色々と便利なはずだ……」
「お前らのような雑魚など配下に必要ない。 俺様に忠実な部下は、また作り出せばいいのだから。俺様の力の源になれ!」
「コラッ! やめろ! パパに言いつけるぞ!」
「私こそが、あの安倍晴明を越える除霊師にな……」
残念ながらというか、死霊デスリンガーの肩に顔を浮かび上がらせていた戸高高志と岩田彦摩呂は、完全に吸収されてしまった。
しかし、死霊王デスリンガーの外見に特に変化はないような……。
と思ったら、とんでもない事態が発生してしまった。
「裕君! ダメージが与えられなくなってしまったみたい」
「妾もじゃ!」
「師匠、私も駄目です!」
「広瀬君、全然攻撃が通らないよ!」
「矢が弾かれてしまう……」
「しまった! そういうことか……」
二人の悪霊を吸収した死霊王デスリンガーは、どうやら自分の防御力を大幅に上げたようだ。
前回と違い、涼子さんたちのレベルは低く、武器も俺以外は神々の装備ではない。
攻撃力が低いので、さらにパワーアップした死霊王デスリンガーにダメージが通らなくなってしまったのか……。
「(予想外のピンチだ!)」
なぜなら、俺と久美子たちの立場を変えることができないからだ。
それをしたら、一瞬で久美子たちが死の波動により殺されてしまう。
俺が身代わりで彼女たちのダメージを受け続けなければ、死霊王デスリンガーと戦えないのだから。
「 (かと言って、今の俺が一人で死霊王デスリンガーと戦っても勝てなかったはず)」
どのみち、鬼の晴広がこの世界に転生していた死霊王デスリンガーと融合した時点で勝ち目がなかったのか……。
「(一か八か、俺が戦ってみるか……しかし……)」
「女子のパラディンたちの攻撃の温いことと言ったら。武器も、神々が与えたものとは比べ物にならんナマクラばかりよ」
「くっ……」
そりゃあ、神々の装備と比べられてもなぁ……。
本当に詰んでしまったかも。
今の俺は、久美子たちへのダメージを身代わりで受け続けることしかできないのだから。
「そろそろ死ぬか?」
「「「「「「「「……」」」」」」」」
万事休すかと思われたその時。
突然、後方から眩いばかりの光が差した。
この眩さは確か……向こうの世界で経験したもののはず……。
「なんだ? この眩しさは! お前は、俺様の胴体に穴を開けた未熟な狐の神ではないな?」
眩いばかりの光に包まれていたのは、久美子たちをここまで送り届けたことで力を使い果たし、さらに神同士で直接戦闘をしてはいけないというタブーのため、後方にいた銀狐であった。
先ほどの、死霊王デスリンガーの胴体に穴を開けた一撃は、攻撃ではなく移動だったので不可抗力ということで……。
「死霊王デスリンガー、いい加減にしなさい! せっかく輪廻転生の輪に叩き込んだと思ったら、他の世界で復活など遂げて。私が、この世界の神々に頭を下げる羽目になったではないですか」
「そいつはざまあないな!」
「あなたの減らず口が聞けて安心しました。安心して、あなたを今度こそ絶対に抜け出せない輪廻転生の輪に送り込むことができるのですから」
「ふんっ! お前が直接俺様に手を下すことはタブーではないのか?」
「だから広瀬裕たちがいるのですよ。お久しぶりですね、広瀬裕」
「生を司る神の一人か!」
どうやらここは別世界のため、同じ神の素質がある銀狐の体を借りて出てきたようだ。
「我々の不手際のために迷惑をかけています。ですが、やはり私が死霊王デスリンガーと戦うわけにいかないので。どうせ勝てませんし……」
「そうなんですか?」
「ええ、別の世界の清水涼子よ。我々、生を司る多数の神と、死霊王デスリンガー一人で世界の釣り合いが取れていたのですから」
一対一なら勝てなくて当然か……。
そんな邪神と戦わされている人間……つまり俺たちだけど……ってのも大概だと思うけど。
「じゃあ、どうするんですか?」
「おや、別世界の葛城桜も。世界は違えど縁がありますね」
「はあ……」
「そして、木原愛実も。さらに、パラディンの資質を持つ少女たちも。広瀬裕がぷれいぼーいで助かりました」
「広瀬君はプレイボーイじゃありません! 人望があるんです!」
これまで俺をプレイボーイ扱いしていたのに、なぜかプレイボーイ扱いした神様に強く反論してくれる木原さん。
一体、彼女にどんな心境の変化があったのだろうか?
「おっと。私はそんなに長くこの世界に留まれないのでした。他の神々からの力も預かってきていますので、それをあなたたちの武器に付与します。これにより、神刀ヤクモと同等の力をえられるはずです。では、早速」
そう神様が言った瞬間。
俺たちの武器が一瞬だけ眩く光った。
「俺の神刀ヤクモもですか?」
「ええ、 これで二倍の攻撃力になりました。あっそうだ! 防具や他の装備も忘れてた」
さらに続けて、俺たち全員の装備が一瞬だけ眩く光る。
「他の装備品もすべて、神々の装備レベルに強化しておきました。広瀬裕の分は二倍で大サービスです」
久美子たちの装備は、神々の装備に匹敵する性能に。
俺の神々の装備は、二倍の性能になったのか……。
見た目はまったく変化がないな。
「うぬぬ……余計なことを……」
「残念ですね。そうあなたばかりに都合のいいことはありませんよ。ねえ、今どんな気持ち? 今度こそ勝てると思ったのに、また我々生を司る神たちに邪魔されてどんな気持ち? じゃあ私はこれにて」
神様とは思えない口調で死霊王デスリンガーを挑発した直後。
銀狐の体を借りてこの世界に出現した神様は、元の世界に戻ってしまった。
「あれ? お兄ちゃん、どうして銀狐はここにいるのかな?」
銀狐は、 自分に別の世界の神様が憑依していたことを覚えていないようだ。
「あっ、後ろに下がるね」
「そうだね。あの化け物を倒したら一緒に帰ろう」
「うん」
神様同士を戦わせると、のちにこの世界に大きな不都合が生じる。
だから、銀狐には後ろに下がってもらうしかなかった。
「さて、これでなんとかいけるのかな?」
「裕ちゃん、別の世界の神様って……」
「あんなんでも、力はあるし、必要な支援はしてくれたから……」
女王陛下といい、向こうの世界には、能力はあっても色々と残念な人……あの人は神だけど……が多かったのを思い出した。
「師匠、これから私たちが戦わなきゃいけない相手を挑発して消える神様って、かなりいい性格をしていると思います」
「だよなぁ……」
ただ俺の場合、前からずっとそうだったので慣れてしまったというか……。
こんなことに慣れてしまって、意味があるのかわからないけど。
「それはそうと、私たちの装備品からこれまでにない力を感じるわ。髪穴も大幅にパワーアップしたみたい」
他のみんなの装備品も、神々の装備に匹敵する力を付与されたようだ。
「報酬は得られたということで、みんな頑張ってくれ」
俺の装備品も二倍の性能になったので、最悪報酬がなくても仕方がないか……いや、必ず毟り取ってやろう。
「ふんっ! 少しばかり装備品がよくなったところで、俺様に勝てると思うなよ?」
「生を司る神様に、最後っ屁を噛まされた気分はどうだ? またミジンコからやり直すんだな」
「全員、アンデッドにして使い潰してくれようぞ!」
向こうの世界の神様のおかげで危機を脱した俺たちは、 死霊王デスリンガーとの死闘を再開する。
必ずやこいつを除霊し、この世界を死霊やアンデッドが跳梁跋扈する世界になるのを防がなければ。
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