第143話 全員集合
「これは……すでに我は安倍晴明を超えている身だが、これまでの我をはるかに超える圧倒的な力を感じる! はははっ! 若造、覚悟するがいい!」
「急に強気になりやがったな、吸収されただけのくせに」
「違う! 我らは対等の関係だ! あくまでも目的が同じなので組んだだけのこと」
「ふうん、お前がそう言うのなら、きっとそうなんだろうな(いや、モロに死霊王デスリンガーに吸収されて、胸のモチーフになってるじゃないか……。認めたくないのはわかるけど……)」
「この俺様を、別世界の輪廻転生に叩き込んだパラディン二人! まずはお前たちを惨たらしく殺して配下とし、 残り二人も同じ目に遭わせてくれようぞ!」
「広瀬君、 どうして私は初めて会った人に恨まれているの? パラディンって? 他の二人って誰?」
「悪いけど、今はそれどころじゃないからあとで説明するよ。それにしても、よく復活できたものだ」
「たとえ別世界とはいえ、死の世界の神を舐めるなよ!」
「もの凄いパワーがみなぎってくる! 僕はやっぱり天才なんだ! まずは広瀬裕を殺して下僕とし、 君を偉大な僕を支えるハーレム要員の第一号にしてあげよう」
「お前のような無能には、この膨大な力を使いこなす能力はあるまい 。この私、岩谷彦摩呂が、この世界と死後の世界、両方を統べる王となるのだ! 君は僕の秘書軍団の第一号さ。美しく優れた私には、それに相応しい取り巻きが必要なのでね」
「広瀬君、この二人しつこい!」
「死んで悪霊になると、執着が強くなるんだよ。それにしても……」
死霊王デスリンガー、鬼の晴広、戸高高志、岩谷彦摩呂が融合した邪神か。
この世の怨念をすべて具現化したような化け物だな。
「しかし……変だ」
「変ですか?」
「ああ……」
「どうしてこんなに霊力が増幅したんだろう?」
鬼の晴広は、支配した冥穴から現世に戻ろうとする悪霊たちを支配し、そいつらから得た霊力で己を格段に強化し、優れた回復力を得ていた。
ところが俺との戦いで大きく損耗し、あと少しで除霊されるところだったのに、この世界にミジンコだか、昆虫だか、ネズミだかに転生し、すぐに死んで悪霊となっていた死霊王デスリンガーと融合したところで、ここまで強くなるのはおかしい。
「俺様の力を舐めるなよ! 鬼の晴広の残りすべての霊力を得た俺様は、元いた世界の冥界にアクセスできるようになり、未練ある死霊たちを支配して霊力を得られるようになったのだ! 『多次元霊力移転』 により、俺様は無限の回復力を得た! さらに、この世界で大分苦労したおかげで随分と強くなっているではないか。お前と同じだ!」
「そういうことね……」
ミジンコだか、昆虫だか、ネズミだか知らないが。
この世界で何度か輪廻転生を繰り返したおかげで、元は向こうの世界の住民であった死霊王デスリンガーのレベルが上がり、その補正効果で以前よりも強くなったというわけか……。
「異世界のパラディンよ! 絶望しながら死ぬがいい!」
「若造、残念だったな。鬼の力を舐めるなよ!」
「僕の逆転勝利だ! 愛実ちゃぁーーーん!」
「残念だったね、広瀬君。最後に勝つのは、やはりすべてを兼ね備えた私だったというわけだ。木原君、君は私の美しい秘書軍団の第一号だよ」
「嫌です!」
しかし、この四人。
集まるとうるさいな。
「無限の回復量だなんて、そんな嘘に引っかかるか」
「嘘だとぉーーー! 異世界のパラディンよ!」
「俺に嘘は通じない」
冥界から冥穴を通じて現世に出ようとする悪霊、死霊の類を支配下に置き、その霊力で自分をパワーアップさせる。
鬼の晴広が会得したシステムを利用している以上、先ほど彼が千年もかけて集めた霊力が枯渇寸前になったように、膨大なダメージを与え続ければ、どうしても回復力に限界が出てしまう。
「まず、冥界から現世に戻りたいと願う悪霊、死霊は有限! お前らの支配下に置かれて霊力を利用される悪霊、死霊はさらに減る! 無限のわけがない!」
知性のある悪霊、死霊の類は、 人間の心を責めてくる。
なぜなら、殺したあと悪霊になりやすくなり、支配下に置きやすいからだ。
無限の回復力云々は、俺たちを動揺させるための嘘であった。
「これまで散々、悪霊、死霊、アンデッドの類と戦ってきた俺が、そんな手に引っかかると思うか? 木原さん、こいつらの発言を聞いて動揺しないように。相手の思う壺だ」
「でも広瀬君……」
「俺がいるから安心しろ! 木原さんは自分の身を守っていればいい」
これ以上喋られると鬱陶しい。
俺は無詠唱で、復活した死霊王デスリンガーを濃厚な治癒魔法で包み込んだ。
その全身が焼かれるのと同時に、白い煙が盛大に吹き上がる。
「お前たちからすれば、濃硫酸を大量にかけられてるようなものだからな。辛いだろう?」
「貴様ぁーーー! 以前よりも強くなっているな?」
「お前だけが強くなって、俺が強くならないなんて都合のいいことがあると思うか? これだから、世間知らずの邪神は……」
「ふんっ! 減らず口を……だが! ふんぬ!」
死霊王デスリンガーは気合のみで、己の体を焼く白い煙をすべて振り払った。
そして、焼け爛れた体を瞬時に回復させてしまう。
「この程度の魔法など、どうということは……」
「おいっ! とても熱いじゃないか! 死霊王だかなんだか知らんが、気をつけて戦えよ! パパに言いつけるぞ!」
「確かに君は強いのかもしれないが、知性と配慮というものが感じられないね。気をつけてくれたまえ」
「……」
取り込んだはずの戸高高志と岩谷彦摩呂に苦情を言われ、困惑する死霊王デスリンガー。
向こうの世界で、こんな口を利く配下たちなんてあり得ないからな。
やはりこの二人は、どこか規格外で、似た者同志だったというわけだ。
「こいつらを吸収して、なにかいいことあったか?」
つい、死霊王デスリンガーに聞いてしまった。
「こんな連中でも、今の俺様の力を具現化するパーツの一つなのだ。戯言は無視すればいい……。死ね!」
死霊王デスリンガーがその巨体を生かして殴りかかってきたが、俺はそれを神刀ヤクモで防いだ。
「広瀬君、大丈夫? 相手はあんなに大きくて……」
「大丈夫。大きさは関係ないから」
なぜなら、死霊王デスリンガーには真の意味での肉体が存在しないからだ。
意思のある霊力の塊、というのが一番正しいのか。
基本的に神様には肉体がなく、受肉して現世に出現することもあるにはあったが、受肉するのが手間なので、霊と同じように出現するのが常であった。
「濃密な霊体ゆえにパワーがあるし、物を動かしたり物体を破壊することもできる。だが、同じ大きさの生物に比べれば力がない」
だから、俺一人で巨人のパンチを防げてしまう。
そして、そのためのレベルアップというわけだ。
「お前、以前よりも弱くなったんじゃないか?」
神刀ヤクモを構えながら、俺は死霊王デスリンガーのパンチを押し返した。
「凄い……」
「密度がないからだ。なあ、死霊王様」
「抜かせぇーーー!」
向こうの世界で戦った時と同じだ。
死霊王デスリンガーの攻撃で一番怖いのは、その巨体を駆使した直接攻撃ではない。
今体中から湧き上がってきた、黒いオーラ。
その膨大な霊力を駆使した、すべての生物を死へと導く『死の波動』なのだから。
「木原さん、失礼」
「えっ?」
俺は、木原さんを抱き抱えて防御の態勢に入った。
二人の周囲に強力な治癒魔法によるバリアーを張った直後、俺たちを死の波動が襲う。
「こっ、この黒いモヤは……」
「木原さん、モヤをあまり見るな。自分の体を霊力で覆うんだ。 いきなりぶっつけ本番だが、俺も手伝うから、覚えてくれ」
「手伝う?」
「木原さんの体に霊力を流す。その感覚を体で覚えて、自分の霊力でも再現できるようにするんだ」
「やってみるね」
俺は、さらに強く木原さんを抱き抱え、治癒魔法のバリアーを強化する。
周囲を確認すると、死の波動の影響ですべての草木が枯れ果てていた。
「ふう……ご馳走さま」
「広瀬君?」
「死の波動を浴びた生物はすべて死に絶えてから悪霊化し、その霊力を死霊王デスリンガーに利用されてしまう」
今の攻撃で、戸高蹄鉄山とその周辺地域の生物はすべて死に絶えたはずだ。
霊力を使って攻撃をしたのに、その前よりも霊力が増すという、死を司る邪神だからこそ使えるとんでもない攻撃であった。
「この近辺にいた、生きているものがすべて死んだの?」
「そうだ」
それこそ微生物から、草木、虫、動物に至るまですべてだ。
人間は、残らず腐人形にされてしまったので、もう一人も残っていないと思うけど。
あとで戸高蹄鉄山を確認すればわかるだろうが、間違いなく死の山と化しているだろう。
「広瀬君、こんなのに勝てるの?」
「勝たないとあいつらの仲間入りなんで、勝つしかないな」
死霊王デスリンガーの強化パーツ扱いになっている鬼の晴広、戸高高志、岩谷彦摩呂みたいになるのが嫌だったら勝つしかない。
ただそれだけのことだ。
「向こうには確実に限界がある。だから今は、ひたすら向こうの攻撃に耐えるしかない」
かつて、俺たちパラディンが向こうの世界で除霊した死霊たちに、死霊王デスリンガーの手下たち。
奴に霊力を供給している養分たちが力尽きれば、それは死霊王デスリンガーの最期なのだから。
「だから防御しつつ、奴に攻撃して消耗させていく」
何度も連続して治癒魔法をかけ、死の波動の合間に大量のお札で攻撃し、死霊王デスリンガーの霊力を削っていく。
これまで死蔵していたお札や霊力回復剤を恐ろしい勢いで消耗していくが、すべて再生産可能なものだし、相手はあの死霊王デスリンガーだ。
使い惜しみをして殺されては意味がない。
「俺たちが力尽きるか、それとも向こうが先に除霊されるかだ。木原さん、すまないな。おかしなことに巻き込んでしまって」
「ううん。私がついて行くって言ったから。それに……(こういうのも悪くないかも……)」
「えっ? なに?」
「ううん! 私も急ぎ、ちゃんと霊力でバリアーを張れるようにするから。広瀬君も負けないようにね」
「任せてくれ」
「やはりしぶといな。残りのパラディンたちが到着するまでにケリをつけようではないか! 死の波動を直接食らって、アンデッドと化すがいい!」
残念ながら、そう簡単に死霊王デスリンガーの回復力を殺げないみたいだ。
このまま長期戦に移行するのは間違いないが、まさかお札や霊力回復剤をケチるわけにもいかず。
全力で防御しつつ、全力で攻撃するという無茶を続けるしかないな。
「(私、広瀬君に肩を抱かれているけど、全然嫌じゃない)」
なぜか私のことを知っている死霊王デスリンガーという怖そうな巨人の全力攻撃は、今の未熟な私には防げなかった。
だから私は広瀬君に肩を抱かれながら、死の波動という黒いモヤの嵐に耐えているけど、前に比べたら全然嫌じゃないどころか、なんか広瀬君って男らしくて、頼りがいがあっていいかも。
考えてみたら、広瀬君はプレイボーイじゃなかったのかもしれない。
私を助けに来てくれた時も、相川さんたちを一人も連れて来ないで、冷静に他の冥穴への対処を命じていた。
もし広瀬君が本当にプレイボーイなら、ここに相川さんたちを連れて来てイチャイチャしていたはず。
奉納舞の時もそうだったけど、彼は竜神会の社長として、冷静に従業員たちに仕事を割り振っていただけ。
でも、その仕事ぶりと除霊師としての実力が素晴らしいから、きっと相川さんたちや銀狐ちゃんの方が積極的になってしまったのね。
その気持ちは……わかるかも。
死霊王デスリンガーと命がけで戦い続けている広瀬君って格好いいから。
「(プレイボーイ扱いして悪かったし、今も命を助けてもらっているから、これが終わったらなにかお礼をしないと……なにがいいかしら?)」
そうだ!
広瀬君は普段、相川さんたちに度々迫られて心から安らげる時間がないだろうから、私がその時間を作ってあげれば。
映画とか、遊園地とか、動物園とか。
なんかデートっぽいけど、まだデートとかじゃなくて……周囲の人たちがデートだと思うかもしれないけど……それでもいいかな?
「うん、いいわよね!」
「えっ? なに? 木原さん」
「小娘! 防御を増したな!」
「……習得が早いなぁ。木原さん、もう一人で大丈夫?」
「大丈夫だよ、広瀬君。だから、広瀬君は自由に動いて!」
「わかった!」
私は一人で自分の身を守れるようになったけど、現時点でできることはたった一つ。
ただ亀のように治癒魔法のバリアーに閉じ籠って、広瀬君の足を引っ張らないようにしないと。
「ちょこまかと!」
「遅い! 遅い!」
広瀬君は 人間離れしたスピードで縦横無尽に動き回り、刀で死霊王デスリンガーを何度も斬りつけていた。
斬り傷から盛大に白い煙があがるけど、すぐに回復してしまう。
広瀬君が自由に動けるようになっても、我慢比べの戦況に変化はないみたい。
「神刀ヤクモ……生を司る神々め! この世界でも、俺様の足を引っ張るのか!」
「当然だ。ルール違反を犯したのはお前なんだからな。久美子たちは間に合うのか?」
さっき、 相川さんたちにメッセージを送っていたものね。
広瀬君は、彼女たちなら戦力になると思っているんだ……。
ちょっと悔しいから、これからは除霊師の訓練にも本腰を入れないと。
「ええっ! 裕ちゃんに緊急事態発生だ! 急がないと……ああっ、もう! ここからだと戸高蹄鉄山まで時間がかかりすぎだよ!」
戸高赤竜神社と戸高山青竜神社の境内の中心部が突然爆発して、そこから大量の悪霊が湧き出してきた。
他の聖域でも同じアクシデントが発生したけど、裕ちゃんが事前にそれを予想して私たちを待機させていたから、すぐに除霊することができた。
これも、裕ちゃんの指導を受けてレベルを上げておいたおかげね。
土や岩石が吹き飛ばされた跡には、裕ちゃんから聞いていたとおり冥穴があり、これは同じく裕ちゃんから預かっていた封印漆喰で無事に埋めることができた。
穴を埋める前に冥穴を覗いてみたけど、奥がまったく見えなくて気を抜くと吸い込まれそう……。
冥界と繋がっているって聞いていたけど、納得の恐ろしさだったわ。
他のみんなからも、悪霊たちの除霊と、冥穴の再封印に成功したとメッセージが入ってきて安堵していたら、なんと裕ちゃんから戸高蹄鉄山に集合というメッセージが入っていた。
「裕ちゃんが私たちを呼ぶなんて……」
「よっぽどの危機なんだよ。久美子お姉ちゃん、行くよ」
「銀狐ちゃん? あっ、里奈ちゃんも」
戸高西稲荷神社で私と同じ任務を達成した里奈ちゃんと、銀狐ちゃんが空を浮いていた。
「里奈ちゃんって、裕ちゃんみたいに飛べたんだ!」
「私じゃなくて、銀狐よ。菅木議員が手配する車よりも早く連れて行ってくれるって」
「お兄ちゃんのために頑張るよ!」
「えっ? 浮いたぁーーー!」
気がついたら、私も空に浮いていた。
銀狐ちゃんにこんな力があったなんて……。
「おおっ! さすがは才能のあるお稲荷よ」
「数百年の停滞があったにも関わらず、随分と早く成長しておるではないか」
「この聖域と、裕のおかげだろうね。銀狐、聖域のことは僕たちに任せて、他のみんなもちゃんと拾って戸高蹄鉄山に行くんだよ。あっ、竜神池の涼子さんも忘れずに」
いつの間にか、赤竜神様、青竜神様、お稲荷様が見送りに来ていたけど、竜神池担当の清水さんは連れて来なかったんだ。
銀狐ちゃん、マイペースだなぁ……。
「任せて、お父さん」
「「お父さん?」」
お稲荷様が、銀狐ちゃんから『お父さん』と呼ばれていたので、思わず里奈ちゃんと大きな声を出してしまった。
「なんか、そういうポジションに落ち着いたようだね」
お稲荷様と銀狐ちゃんて、血縁関係はないよね?
神様扱いの九尾の狐と、神のお遣いであるお稲荷様に血縁関係もなにもないと思うけど……。
「里奈お姉ちゃん、久美子お姉ちゃん」
「なあに? 銀狐ちゃん」
「どうかしたの? 銀狐」
「あのね。思いっきり力を出したら、みんなを拾って、お兄ちゃんのところに到着するまで二~三分なんだけど、銀狐は力を果たしちゃうんだ。それでもいいかな? 力を使い果たさないようにゆっくり行くことも可能だよ」
「銀狐ちゃん、急いで。あとは私たちに任せてくれていいから」
裕ちゃんが、私たちを一人前の戦力だと思ってくれている。
その期待に応えないわけにはいかないもの!
「当然! 銀狐、急ぎなさい!」
「じゃあ、急ぐね」
裕ちゃんは、鬼の晴広に苦戦している。
向こうはどんな手で……などと考えていた直後。
私は意識が飛んだ。
銀狐ちゃんが、恐ろしい速度で私と里奈ちゃんを引っ張って飛んで行ったからだと思う。
「銀狐ちゃん、速すぎ……」
完全に意識を失う直前、私たちと同じ目に遭っている清水さんの声が聞こえたような気が……などと思っていたら、 すぐに目を覚ますことに。
「あれ? どうして私は地面に倒れて……みんなそうだ」
多分、戸高蹄鉄山と思われる地面に、私と……清水さん、里奈ちゃん、葛城先輩、望月さん、沙羅姫さんが倒れていた。
そして銀狐ちゃんも立っているけど、彼女はあきらかに『やってしまった』と言った表情を浮かべていた。
「銀狐ちゃん、どうしたの?」
「貫通しちゃった」
「貫通?」
「なに? あの化け物?」
里奈ちゃんが指さした方向には、これまで見たこともない恐ろしい巨人が立っていたけど、なぜかお腹の部分に穴が開いていた。
もしかして……私たちが勢い余って貫通してしまったの?
「あれ? 地面に叩きつけられたと思ったのに、思ったほど痛くはないのね」
「涼子お姉ちゃん、あの巨人のお腹の部分を貫通したから、落下速度が和らいだのと、銀狐の最後の力で、落下時の衝撃を緩和したからだよ」
「銀狐ちゃんは、そんな難しい言葉も知っているのね」
涼子さんが、 いつのまにか知識を増やしていた銀狐ちゃんに感心していた。
「それよりも、一刻も早くあの巨人のところに行かないと」
「そうですよ。そこに師匠がいるのですから」
「あと、愛実もであろうな。しかしいくら鬼の晴広とはいえ、あそこまで恐ろしい、邪神のような存在になるものなのか?」
沙羅姫さんの懸念は正しいと思う。
だから裕ちゃんは私たちを呼んだのだろうから。
「急ぎましょう」
とはいえ、ほんの数百メートルほど先でしかない。
戸高蹄鉄山のU字型の置くに置かれた石棺の近くまで走ると、全高三十メートルを越える巨人が立っていた。
よく見ると、その胸と、両肩に……。
「げっ! 風船男!」
「元三流アイドル! お前は下僕として使ってやる!」
「いきなり失礼のうえに、意味がわからないわよ!」
巨人の右肩には戸高高志の顔が浮かび出ていて、しかも生前と同じように話すので気持ち悪かった。
里奈ちゃんと徹底的に合わないところは、以前のままなんだね。
「可哀想に。ついに、悪運が尽きて死んだうえに、鬼の晴広に利用されているのね。岩谷彦摩呂さん、あなたも」
「涼子君、私は利用なんてされていない。私は自分と同じぐらい優れた存在と手を組んだのさ。鬼の晴広ではなく、死霊王デスリンガーとね!」
「死霊王デスリンガー?」
「小娘! お前、よもやこの俺様を忘れたとは言わせないぞ! もう一人の小娘もそうだが、この俺様を知らないなどと、くだらない嘘をつきおって! 三人目の小娘もいるではないか!」
「私? 私にあんたみたいな化け物の知り合いはいないわよ!」
葛城先輩、相変わらずストレートにものを言うなぁ……。
「三人ともシラを切るのか? 生意気な小娘たちが!」
なぜか気持ち悪い巨人に叱られる、清水さんと葛城先輩。
理不尽すぎるわ……。
「いい加減、気がつけよ」
そんな巨人に、裕ちゃんが反論した。
裕ちゃん、間に合ってよかったわ。
「お兄ちゃん、みんな連れて来たよ」
「えらいぞ、銀狐」
「裕ちゃん!」
「裕君!」
「裕!」
「師匠!」
「広瀬裕!」
「夫君と、愛実も無事か」
「私のこと、気遣ってくれるの沙羅さんだけ」
「「「「「「……」」」」」」
裕ちゃんへの救援が間に合った嬉しさが大きすぎたせいで、決して私たちは木原さんの存在を忘れたわけではないの。
あと、死霊王デスリンガーを名乗る気持ち悪い巨人が、清水さんと葛城先輩に敵意を燃やしているから気になって。
「死霊王デスリンガー、お前を倒した三人とこの三人は別人物だぞ。いい加減気がつかないのか?」
「実は気がついておったがな。だが、お前とその三人が俺様の脅威になることは確実だ。警戒しておいて損はあるまい?」
「果たして、俺たち四人だけかな?」
「残念……力を使い果たしちゃった……」
残念ながら、急ぎ私たちをここまで運んでくれた銀狐ちゃんは駄目だけど、これで裕ちゃんを入れて八対一?
胸部の目立たない人と、両肩の二人を合わせると八対四かな?
うるさいだけで戦力にはなりそうにないけど、油断しないように戦わないと!
「まあよかろう。ここで一気に倒せば手間も省ける」
「それは俺たちも同じでね。鬼の晴広、戸高高志、岩谷彦摩呂。一気に除霊できれば好都合なのさ」
前回の対決に比べると、涼子さんたちの実力と装備は低い。
だが、回復が得意な久美子、忍で素早い千代子。
そして、室町時代に優れた除霊師だった沙羅さんもいる。
俺が持っている装備やアイテムを駆使して戦えば、大幅に強くなった死霊王デスリンガーも倒せるはずだ。
「あっ! あれは……」
「なんだ? なにがあった?」
「お前は子供か! 目くらましの煙術!」
俺はお守りから取り出した煙玉で死霊王デスリンガーの視界を奪い、その隙を突いてみんなに新しい装備やアイテムを配っていく。
煙でなにも見えないのが功を奏して、みんな上手く新しい装備に着替えてくれたようだ。
ただしみんな同じ巫女服なので、残念ながら防御力が上がってるようには見えないのだけど。
「私の武器は、髪穴のままね」
「今のところ、それを超える槍型の霊器はないんだよね」
他のみんなも、武器は変っていなかった。
まずは死なないように、防御力が優先だからだ。
なにより、みんな結構いい武器を持っているんだよなぁ。
例外は、薙刀型の霊器を持つ沙羅姫くらいか。
「夫君、この薙刀はいいの」
「優れた霊器なんだけど、名称も経歴も不明なんだよ」
「夫君、これは『巴御前』の薙刀じゃぞ。妾の時代には行方不明になっておったのじゃが、よく見つかったものよ」
桜の祖父さんから押し付けられた、呪われた武器を反転させただけだけど。
「人数を増やし、装備を代えたところで、無限の回復力を持つ俺様には勝てないがな」
「無限の回復力ねぇ……いつか弾切れになる無限の回復力とはお笑い草だ」
「かもしれぬが、弾切れになる前にお前たちは死ぬから安心しろ」
「若造、必ずお前を殺してやる!」
「鬼の晴広、お前、 合体したら本当に目立たなくなったよなぁ……」
「殺す!」
俺は、 事実を指摘しただけなのに……。
「愛実ちゃぁーーーん!」
「私の美しい秘書軍団たちよ! この私と……」
「「「「「「「嫌!」」」」」」」
「この私の誘いを……いいだろう。まずは美しく殺してあげよう」
この二人は相変わらずだな……。
無事久美子たちが間に合ったので、これで戦力的には大分優位に立てるはずだ。
死霊王デスリンガーを、この世界で復活させたままにはできない。
必ず除霊してやる!
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