第125話 呪いの鏃
「どうですか?」
「うーーーむ、この人はどうして生きてるんですかね? 常識的に考えてこの人が生きてるわけがないし、 普通に歩いていたという事実が信じられません。この人は全身が癌に侵されているのです。普通の人なら、激痛のあまり意識を保てないか、ショック死します」
「なるほど。裕、治せるか?」
「まあできなくはないです」
「本当かね?」
倒れた沙羅という少女は、救急車で戸高市民病院へと運ばれた。
土御門家の沙羅と名乗っていたので、彼女はあの残念な二人の親族?
そう言われると、似ているような似ていないような……沙羅さんの方が美少女だな。
あと胸がある。
顔色が真っ青なので急ぎ救急車を呼んだわけだが、なぜか俺も救急車に同乗することになってしまった。
彼女の付き添いを救急隊員に頼まれたからなんだが、まさか誰も同行しないわけにもいかず、これは仕方がないことだ。
無事病院に運び込まれた沙羅さんが検査を受けている間に、俺から連絡を受けた菅木の爺さんと、救急車に乗った俺を見送った久美子たちも慌ててやって来た。
その直後、沙羅さんを検査した医者が彼女の病状を説明するのだが、その内容は俄かには信じられないものであった。
「全身が癌に侵されているのです。彼女はどうして生きているのか?」
「そうだなぁ……どの事例かな?」
「君? なにを?」
「安城先生、彼は除霊師で、さらに広瀬剛の孫でもある」
「ああ、彼のお孫さんなのですか。ということは、彼女は心霊的な現象でこの病に冒されている可能性が高いと?」
「そうでなければ、常人ならば死んでいるような病状なのであろう?」
「そうですね。普通の人ならホスピスに行く前に死んでますよ」
俺は、意識がない彼女の体に手をかざしながら、その不思議な病状の原因を探り始めた。
癌が全身に転移しているなんて、創作物ではよくありがちな話だが、常人ならば死んでしまうほどの進行度であれば、なにやら心霊的な原因でそのような状態に陥ってるはず。
俺はその原因を探るべく、彼女の体を『霊視』しているわけだ。
「うーーーむ」
「裕ちゃん、どさくさに紛れてその子の体を触っちゃ駄目だよ。あとで私の体を触ればいいんだから」
「……」
久美子……。
こっちは真面目にやってんだから……。
「セクハラはよくないと思います!」
「あれ? どうして木原さんまで一緒にいるんだ?」
今の木原さんは、心霊的なことに関わらない方がいいと思うんだよなぁ。
それに俺は、彼女から破廉恥な男性だと誤解されている節もあるし……静かに巫女のアルバイトをしていてほしい。
「沙羅という謎の少女だが、どうにもおかしいのだよ。身分がわかるようなものは勿論、財布やスマホすら持っていない。服装だってそうだ。まるでこう……昔の人のような……」
ただの家出少女というわけではないのか……。
「裕たちの前に沙羅と顔を合わせたのが木原さんなのでな。事情を聞こうと思って、ワシが連れてきたわけだ」
なるほど。
それは不運だったな……。
そういえば、別世界の愛実も不幸体質というか、トラブル体質だったよな。
それも巻き込まれ型で、同じパーティだった俺たちもよく巻き込まれていたものだ。
「裕君、土御門家に沙羅なんて子はいないのよ。でも彼女は土御門の家名を名乗ったわ」
「さっきの言葉から察するに、この沙羅という子には『予知夢』、『予言』の能力があるように思える。土御門家がその存在を秘匿していた可能性は?」
「さすがに、戸籍がないレベルの人はいないわ。大昔の除霊師一族でもあるまいし、土御門家は公官庁と関係が深かったからそういうことをしなくなったというのもある。真面目というか、堅物なのよ」
役人とのつき合いが深いから、特殊な能力を持つ一族を秘匿するなんてことはしないのか。
下手をしなくても監禁行為だからな。
「師匠、今では望月一族でもそんな人はいませんよ。一般人のフリをして偽装すればいいのですから」
「それもそうか」
秘匿された一族の切り札なんて、時代に合わなくなってしまったんだろうな。
となると、この沙羅さんは一体何者なんだという話になってしまうな。
「まずは治療する」
「裕ちゃん、できるの?」
「できるよ」
この病状の原因がわかればな。
「裕が調合した、特殊な魔法薬でパパって治すんじゃないの?」
「治すけど、その場合は原因がわからないとどの薬を使っていいのかわからないんだよ」
「なるほどね。でも、霊に憑りつかれて癌になるなんてあるのかしら?」
里奈が疑問に思っているけど、 俺の予想ではこれは一種の呪いだと思うのだ。
「呪い? でも呪いって、今の除霊師だと大したことはできないって、生臭ジジイから聞いたことあるわよ」
「いや、今でも対象を呪い殺せる呪術師はいるはずだよ」
多分、会長は孫にそういう情報を教えたくなかったのだろう。
実は除霊師の中には、悪霊、怨体、霊的な品や術によって他人を呪い殺す呪術師のような連中が存在する。
向こうの世界にもいて、実は俺たちパラディンもそういう連中に狙われたことがあった。
極端に負に近いことをしているから、死霊王デスリンガーに操られてしまったのだ。
この世界にも隠れ住むように存在しているはずで、日本除霊師協会が必死に探しているという情報を聞いたことがあった。
「とはいえ、実はこの手の呪術って、呪い殺すよりも、こういう状態に陥らせる方が圧倒的に難しい」
現在の呪術師は、対象の体調を崩すか、相手を呪い殺すしかできない。
逆に言うとそれは、昔に比べたら技術力が圧倒的に落ちている証拠でもあったのだ。
「技術が落ちたから、具合を悪くさせるか呪い殺すしかできないなんて。嫌な話ね」
「目標を、絶対に治らない死病でなるべく長期間苦しめてから殺す。性質の悪い呪いだなぁ……あった!」
『霊視』の 結果、沙羅さんの左胸心臓の付近にとてつもなく禍々しいものを感じた。
これが、彼女の不思議な病状の原因であろう。
「なんだろう? とにかくこんなものが体内に入っていたら、それはこんな病状に犯されてしまうはずだ。急ぎ取り除こう。久美子、手伝ってくれ」
「わかったけど……」
「なんだよ? 久美子」
「胸の部分ってことは、裕ちゃんはその子の胸を見るってことかな?」
「あのね……」
確かに沙羅さんの胸は見てしまうけど、それはあくまでも治療のために仕方がないことであった。
「ちょうどここの位置にヤバイものが埋まっているから、これを取り除くためには、胸をオープンするしかないんだよ」
俺は、沙羅さんの久美子ほどではないが、推定Dカップくらいありそうな左胸の膨らみを差して言った。
「待ちたまえ! 彼女の心臓付近にそのような異物は埋まっていないぞ。ちゃんとレントゲンを撮って調べたから、それは確実だ」
「呪いの品なら、 レントゲンやCTで調べても出ませんよ」
安城先生の意見に俺は反論した。
この手の呪いの品は、目的を達成すると消滅してしまう。
だから呪い殺された人を解剖したり火葬しても、呪いの品は出てこないというわけだ。
「証拠が出ないからこそ、時の権力者やアウトローな方々が、こぞって呪術師を利用するわけです。とにかく、急ぎ沙羅さんの体から取り除かないと……」
今のままだと、沙羅さんはいつ死んでもおかしくないのだから。
「裕ちゃん、私はなにをすればいいの?」
「俺が沙羅さんの心臓付近にある呪われた品を取り除くから、その後の治療を頼みたい」
「任せて、それと……こうしてと……はい、患部だけ肌が見えるようにしたから」
「ありがとう……」
確かに俺は、沙羅さんの治療のために彼女の巫女服の胸の部分を肌蹴させようとしたけれど。
久美子が患部以外をシーツで覆ってしまうのは、これは俺のやる気を殺ぐような気がするんですよねぇ……。
別に、沙羅さんの胸を見たいなんて邪な気持ちはないとはいえですよ。
「おほん、施術を始めます」
俺はお守りからよく斬れるナイフを取り出し、集中して全身に霊力のバリアーを纏わせてから、呪われた品が埋まっている沙羅さんの胸の部分を一気に切り裂いた。
「血が出ない! 心霊手術か?」
「まあそんなところです」
医師である安城先生は、俺の祖父さんのことも知っていたし、心霊手術に関する知識も持ち合わせているようだ。
霊力で患者の体を切り切り裂いて、体内の悪いものを切除してしまう。
こちらでは、もはや世界で数人しかできないらしい。
向こうの世界だと、実はそう珍しいものではなかったのだけど。
科学的な医療が発達しておらず、心霊医学が主流だから当然であったが。
「裕、どうして全身を強力な治癒魔法で覆っているの?」
「これから沙羅さんの体から取り出す物を素手で触ると、最悪呪い殺されて死ぬから」
「怖いのね」
と言いながら、里奈が額の汗を拭いてくれた。
まるでドラマの手術シーンのようだな。
「……あった! これは……」
「鏃? この人、矢に射られたの? でも胸の部分に傷はなかったよね?」
「どうやらこれは……今は……久美子! 沙羅さんを治療してくれ。俺は……これは凄いな!」
全身に強力な魔力を纏わせながら持っているが、それでも心の奥底が寒くなるほど強力な呪いがかかった鏃であった。
俺が近くにあったシャーレに鏃を入れた途端、なんとそこから怨体が飛び出してきた。
「怨体! 裕君?」
「何者だ? こいつは?」
どうやら、鏃に怨体が固定されているようだ。
鏃に触れなければ死ぬことはないが、こんなものが胸に埋め込まれていた沙羅さんは、本当によく生きていたものだ。
「こんなの、並の除霊師なら秒で呪い殺されるな」
「コロスゥーーー!」
怨体は我を失っているようで、絶叫に近い叫び声を上げていた。
そして、それを聞いた安城先生と菅木の爺さんは腰を抜かしてしまい、涼子さんたちの顔色も一瞬で青ざめてしまう。
こいつは怨体でも、上位の悪霊並に厄介な存在であった。
「名を名乗れ!」
「ワレハ、アベハルヒロ!」
安倍晴広……でいいのか?
こいつは、安倍一族の子孫の怨体なのか……。
いかにも陰陽師っぽい格好であり……その顔をよく見ると、額の真ん中に角?
角までは行かないが、目立つ盛り上がりが見えた。
「ワレヲカイホウシタレイニ、ムゴタラシクコロシテヤル! ……オオッ! オマエハニクキアベセイメイノチヲヒクモノ! アベイチゾクハミナゴロシダァーーー!」
安倍晴広の怨体が俺に襲いかかってきたが、もの凄い怪力だった。
どうやら生前、彼はとんでもない怪力を有していたようだ。
並の除霊師だったら、一撃で殺されてしまっていたであろう。
俺は、安倍晴広の攻撃を受け止めた。
「爺さん! 安倍晴広って誰だよ? それとこいつ!」
「鬼の安倍晴広……の怨体。事情は理解できた。裕、倒せ! この病院に迷惑が掛かるからな」
「やれやれ、こんな怨体を出している奴の悪霊がいるのか……。並の除霊師は、こいつの悪霊に出会わないことを祈るぜ! はあっーーー!」
俺は、さらに霊力を放出して安倍晴広の怨体の圧に対抗する。
いくら強くしても、こいつが怨体であることに変わりはないし、沙羅さんの体内にあった鏃に封印されていたということは、それを仕組んだ除霊師ならば御することができたということ。
ただ……。
「鏃に怨体を封じ込め、それを沙羅さんの胸に射ったと考えるのはおかしいな」
「そうね。矢の『篦(の)/シャフト』や『矢羽』がついていないし、鏃を見ると、それがついていたようにも見えないわ。鏃だけを沙羅さんの心臓付近に撃ち込むなんてできないはず」
弓道をやっている桜は、取り出された鏃を見ながら自分の意見を述べていた。
鏃だけが心臓付近に埋め込まれる……呪術師の仕業としか考えられないな。
「しかも、 彼女の胸に鏃による傷はなかった。爺さん、今の時代の呪術師に、そんな器用な芸当ができる奴がいるのか?」
「おらぬ。こいつが安倍晴広の怨体であることがわかれば、もうそいつに用事はない。やれ! 裕!」
「フンッ、オイボレガ! ガキハ、ワレノカイリキニテモアシモ……」
「出るんだな、これが!」
俺はさらに霊力を放出して、 逆に安倍晴広の怨体を圧倒し始めた。
「コレハ、ドウイウ?」
「どうもこうも、お前は所詮怨体でしかないってことだ」
「シカシワレハ、アベハルヒロノ……」
「並の除霊師なら手も足も出ずお前に殺されただろうが、俺はちょっと特殊なんでな! はぁーーーっ!」
安倍晴広の怨体にトドメを差すべく、俺はさらに霊力を放出し、それで安倍晴広の怨体を包み込んだ。
「キマサ……アベセイメイノイヌメガ!」
「なにを勘違いしているのか知らないが、安倍晴明なんてとっくに死んであの世に行っているぞ。それに俺は広瀬裕だ。安倍晴明の血なんて継いで……」
「ワレニハワカル! ニクキチチノチノニオイガ! ソコノオンナトトモニ!」
俺が安倍晴明の子孫だという話は、あながちハッタリでもないようだ。
なぜなら俺の霊力に完全に包まれ、今にも消滅しつつある安倍晴広の怨体の視線の先には、涼子さんの姿があったからだ。
「ソノオンナハチガウスイ! オマエハ、アイツニチガチカ……クソォーーー!」
両手が塞がっていたのでお札を使っている余裕がなかったが、この程度の相手なら霊力の放出で十分だった。
安倍晴広の怨体は完全に浄化された。
「俺が安倍晴明の子孫?」
俺の姓は広瀬だし、以前涼子さんが安倍一族の分家である『広瀬家』に確認を取ったら、祖父さんと広瀬家との間にはなんら関係がなかったと聞いている。
だが、血の臭いと言われてしまうとなぁ……もしかしたら?
「裕が、安倍晴明の血を引いていたなんてね」
「里奈、あくまでも消えかけの怨体が言っていた戯言だぜ」
「でも、涼子は一発で見抜いていたじゃない」
「そうじゃな。あの手の連中はとても鼻が利く。嘘ではないだろうな」
「菅木の爺さんまで」
「安倍晴明は才能ある人物だったが、決して人格的に優れていたというわけではない。外にその才能をよく受け継ぐ子孫がいてもなんらおかしくないな。安倍晴明の幻の嫡男、安倍晴広みたいにな」
安倍晴明は、不義を働いた最初の妻梨花との間に生まれた男子を妻と共に殺し、その存在をなかったものとした。
その殺された子が、幻の嫡男安倍晴広というわけか。
そして無念の死を遂げた安倍晴広は悪霊となってしまい、それは安倍晴明でも除霊できず、 ここから南にある戸高蹄鉄山に封印されたそうだ。
実の父親である安倍晴明によって。
「よくそんな秘匿情報を知っているわね、菅木議員」
「清水の嬢ちゃん、安倍一族がどんなに努力して隠しても、時間が流れれば、安倍一族の人間が増えれば、いつかは世間に知られるものだ。あの戸高高志でもすでに知っておるぞ。だからあいつは、国有地化された戸高蹄鉄山の周囲の土地をすべて買い取ったのだから」
「菅木議員、土地を買ったのは戸高高臣、父親の方じゃないの?」
「同じことだろう?」
「それはそうだけど……で、戸高蹄鉄山が最後の五芒星の一角だったわけね。でも、手が出せない」
「裕なら、戸高蹄鉄山に封印された安倍晴広の悪霊を除霊できると思ったのだが、まさかあんな手に出るとはなぁ……」
「あんな手?」
「ああ、戸高蹄鉄山に至る土地がすべて買収されてしまった。あんな土地、買収する奴がいるわけがないと思っていたワシの不覚だ。戸高蹄鉄山へと至る道はすべて私道で、 現在では戸高不動産が関係者以外立ち入り禁止にしている」
つまり、戸高家の関係者以外、誰も戸高蹄鉄山へと行けなくなってしまったのか。
侵入しようと思えば簡単にできるのだが、この世界だと色々と問題があるんだろうな。
「その厄介な悪霊である安倍晴広の怨体が、どうして沙羅さんの胸に埋まっていた鏃に封印され、呪いのトリガーとなっていたか」
「菅木議員、この鏃は骨、それも人骨でできているな」
いつの間にか、俺が沙羅さんの心臓付近から取り除いた鏃を安城先生が洗って調べていた。
「鏃が人骨でできているってことは、その人骨は安倍晴広のものかもしれない」
安倍晴広の骨なら、そこに安倍晴広の怨体を封印することも可能だからだ。
「裕君、今の時代にそんな器用な真似ができる人はいないわよ」
「そんなこともできないのか?」
この世界の呪術師はレベルが低いな。
こそこそ隠れて、対象を呪い殺すしかできないなんて。
「この人骨が安倍晴明の息子の骨だとすると、千年以上昔の人骨なのに、まるで死んだ直後のように新しい。科学では理解できない代物だな」
安城先生は、祖父さんが生きていた頃からこの手の事象を多く経験しているようで、沙羅さんや、安倍晴広の怨体、そして真新しい人骨でできた鏃を見ても特に驚いた様子を見せなかった。
「安城先生、この人骨が安倍晴広のものという決定的な証拠はないが、ほぼそうだと見て間違いないだろう。ちょっと調べてもらえないかね?」
「ああ、DNA鑑定だな。広瀬君と清水君の」
「爺さん?」
「あれを悪霊の戯言というのは簡単だが……まあ念のためにな」
封印されていた怨体が浄化されたため、ただの人骨の鏃となったそれは安城先生に預けられ、ついでとばかりに、俺と涼子さんは髪の毛と血液を採取されてしまった。
なんでも、俺が本当に安倍晴明の血を引いているのか調べてくれるのだそうだ。
「俺はどっちでもいい……むしろ、安倍晴明の血を引いていないことを祈るね」
あんな面倒くさい一族と親戚だなんて、嫌じゃないか。
「裕ちゃん、沙羅さんの治療完了だよ」
「おおっ! お見事!」
沙羅さんの心臓付近から鏃を取り出すため、俺は結構深く切ったんだが、久美子の治癒魔法で傷一つない肌に戻っていた。
「同じ女性として、お肌には傷がない方がいいよ」
「そういえば、久美子の肌って傷一つなくてとても綺麗だけど、もしかして治癒魔法を用いているの?」
「訓練の一環でだよ。自分の体で試せば、誰にも迷惑かからないから」
治癒魔法使いの肌が傷一つなくとても綺麗なのは、練習の過程で、どんな些細な傷やシミも消えてしまうからだ。
久美子から事情を聞いた里奈が、とても羨ましそうだ。
「久美子! 私の肌もプリーズ!」
「あっ、自分もお願いします!」
「相川さん、私たちって結構長いつき合いよね?」
「久美子さん、お願い!」
里奈、千代子、涼子、桜に一斉に懇願されてタジタジとなる久美子。
女性とは、美を求める生き物なんだな。
「沙羅さんは、これで健康になると思います」
「何度も経験したことだが、これは現代医学の完敗だよなぁ。ところで、まだ患者が寝ているから彼女たちを静かにさせてくれないかな?」
「はい……」
みんな、そこまで美肌を求めるものなのか……。
でも、ここは病室だから静かにしような!
「なあ、裕」
「まだなにかあるのか? 爺さん」
「木原の嬢ちゃんが呆然としているぞ」
「あっ、忘れてた!」
すぐに木原さんを見ると、これまでの人生でまったく無縁であったであろう心霊的な現象を短時間でいくつも経験してしまい、脳の処理が追いつかないようで、その場にぼーーーっと立ち尽していた。
まあ、気持ちはわからなくもない。
「木原さん?」
「広瀬君! 神社にあんなおっかない鬼みたいな悪霊が出るの? だったら、巫女さんのアルバイトは辞めようかなって……」
「神社にはそういうものは出ないから安心して」
それにしても涼子や桜と同じで、結局木原さんも心霊的な事象に関わることに。
世界は違えど、遺伝子とは怖いものだな。
そして、俺が安倍晴明の子孫……。
安倍一族にバレないといいな。
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