第115話 広瀬一門

「いい調子だな。銀の邪竜戦でレベルも上がったし」


 久々にステータスとレベルを確認してみるが、もうあまり数値とか関係ないような気がする。



広瀬裕 (パラディン)

レベル:1025


HP:10980

霊力:36820

力:1628

素早さ:1269

体力:1987

知力:973

運:1356


その他:刀術、聖騎士



 邪神クラスの竜も倒したので、経験値が多くてレベル1000を越えたのであろう。

 他のみんなは……。



相川久美子 (巫女)

レベル:568


HP:5974

霊力:6421

力:558

素早さ:602

体力:598

知力:701

運:980


その他:上級治癒魔法、反魂の術、棒術



 俺と同じパーティ扱いで、銀の邪竜と大規模霊風を除霊した経験値が入ってレベルが大幅に上がった。

 治癒魔法が上級になっているので、死ななければ治せます状態だ。

 『反魂の術』は、条件さえそろえば死者を蘇らせることができる。

 向こうの世界でも、あの女王と……どういうわけか使えるんだよなぁ……他数名しか使えない秘儀なんだが、まさか久美子が覚えるとは。

 レベルアップって凄いんだな。

 圧倒的なアドバンテージだと思う。



清水涼子 (除霊師) 


レベル:560


HP:5764

霊力:6003

力:654

素早さ:600

体力:620

知力:611

運:558


その他:槍術、お札書き



 涼子のレベルアップも凄いが、戦闘では槍を用いた前衛特化で、なぜかお札が書けるという。

 向こうの世界の涼子さんもお札書きを覚えてくれていたら、俺は苦労しないで済んだのに……。

 ただし前衛なので、お札もバンバン使うけど。



葛山里奈 (神の歌い手、踊り手)

レベル:526


HP:5349

霊力:5870

力:489

素早さ:609

体力:587

知力:506

運:389


その他:神に捧げる歌、踊り



 里奈は……なぜか運が悪いという。

 常人よりは圧倒的に運がいいけど、俺たちと一緒にいると運が悪く感じられるかも。

 特技に変化はないが、『神に捧げる歌、踊り』は応用が利くので問題ない。

 戦闘では、味方のステータス強化、軽度の治療、霊力回復、悪霊の弱体化など。

 普段も、神様に歌と踊りを奉納して気に入られると願いを叶えてもらえることがある。

 上手い歌と踊りのお礼というわけだ。



望月千代子 (神速の忍)

レベル:452


HP:4780

霊力:3850

力:468

素早さ:603

体力:584

知力:507

運:385


その他:忍術、投擲術



 千代子は……これも強くなったな。

 後発組なので久美子たちよりも一段レベルが低いが、レベルは段々と上がりにくくなるので、その差は縮まってきた。

 すでに能力だけなら除霊師として超一流なわけだが、忍術も修めているので身体能力が飛びぬけていた。

 まるで創作物の忍者のように活躍できるであろう。




葛城桜 (狙撃手)

レベル:398


HP:4210

霊力:4009

力:501

素早さ:405

体力:420

知力:472

運:327


その他:弓術、★★★



 弓が上手い、能力は平均的で、弓は意外と力を使うので力が高めで涼子に似てなくもない。

 まだ隠れている特技がある。

 レベル400で発動するか、500なのかは不明。

 といった感じだ。



「実質、広瀬一門といった感じだな」


「ヤクザじゃないんだから」


 俺からみんなの能力を聞いた菅木の爺さんが、俺たちを一門呼ばわりするので困ってしまった。


「同じようなものだ。極論すれば、悪霊を力で押さえつけるわけだからな。悪霊になればほとんど話し合いも通じず、強引に除霊してあの世に送り、輪廻の輪に放り込むしかないのだから」


「それはそうなんだけど……」


「土御門家の没落は決定したようなものだ。すでに公職に残っている者は少ない」


 残れたのは、その組織でちゃんと除霊師としての任をまっとうしている少数の者たちだけだそうだ。

 彼らが抜けたあとは、土御門一族以外からちゃんと働く除霊師を補填したらしい。

 除霊師でもないのに、土御門家のコネで役所に入った連中はみんな追い出されたそうだ。

 土御門家と組んで派閥を形成していた役人連中も、その多くが冷や飯食いになるか、天下り先から追い出された。

 俺が自慢の豪邸や高級マンションに悪霊を設置してやったので、除霊費用で破産した奴も多く、公官庁における土御門家の影響力は壊滅してしまったそうだ。


「とはいえ、また新しい派閥闘争が始まる。人間が作る組織の業だな。そんなわけで、土御門家は大きく力を失ったわけだが、別に滅んだわけではない。人間、追い込まれるとおかしなことを企むもの。それを防ぐ意味での『広瀬一門』の創設じゃな」


「張り子の虎くらいにはなるのか?」


「少数精鋭だが、中身も虎かそれ以上だろう」


 まあ、確かに。

 この世界で、俺たちほど能力値が高い除霊師はいないか。

 油断は禁物だけど。


「で、この部屋はなんだ?」


「トレーニングルーム」


 除霊師が、霊力を鍛える部屋である。

 自宅の余りに余っている部屋の一つに設置した。

 内側には沢山の種類のお札が貼ってあり、外から内部の様子を探ることはできない。

 そして最大の特徴が、この部屋に悪霊を放っても、決して外に逃げられないことであった。


「みんな、油断するなよ。一瞬で呪い殺されるぞ」


 俺は、先日の仕返しで集めた、大量の悪霊たちが入った霊管を順番に開放していく。

 富士の樹海を始め、全国各地で性質が悪く除霊が困難だった悪霊たちが姿を現した。


「霊管に保管していたのか」


「管師と一緒にしないでくれ。俺の場合、今除霊するか、あとで除霊するかだ」


 俺が全部除霊してもよかったんだが、この悪霊たちならいい訓練相手になると、久美子たちのために持ち帰ってきたのだ。

 霊管に入れた悪霊の運搬に慎重を期するので、元管師を雇い入れたという事情もあった。


「悪霊に悩まされていた人たちも喜んでたよ。格安で除霊したから」


「それを土御門家などに設置して、そちらから除霊代金として大金をふんだくったのか。悪党じゃな」


「そうかな? 元々悪霊に悩まされていた人たちは喜んでたぞ。一律十万円で除霊を引き受けたから。天下の土御門家が悪霊の除霊もできないなんて恥ずかしいだろうから、あちらは口止め料込みの除霊費用なんだから」


 世間に公にしないことを条件に、土御門家は数十億円を支払ったのだ。

 文句を言われる筋合いはないし、彼らは数十億円よりもプライドの方が大切だっただけのことなのだから。


「しかし、土御門家は随分と貯め込んでおったようだな。そして十万円……安すぎだな。裕の場合、それでも黒字なのが怖いが……」


 実質、交通費と食費と宿泊代くらいしかかからないからな。

 悪霊に悩まされていた人たちが、悪いと言って食事を出してくれたり、お弁当やお土産をくれたりしたし。


「土御門家と組んでいた腐れ役人たちよりも、よほど俺の方が国に貢献してるぜ」


 あいつらからふんだくった除霊代金のかなりの部分は、税金として国庫に戻るからな。


「さてと。始めるか」


 霊管から一体の悪霊を解放する。

 富士の樹海で自殺して悪霊化した中年男性であったが、久美子が習っていた棒術で叩きのめすと、すぐに除霊されて消えてしまう。

 随分と腕を上げたようだ。


「ただの棒ではないな?」


「いわゆる神木の枝が材料だ」


 向こうの世界の品だけど。


「霊管に捕らえた悪霊でトレーニングか。他の除霊師にはまずできないな」


 製造方法が失伝した霊管であったが、さすがに今のところ俺にも作れなかった。

 研究はしているけど。

 その代わり、すでに使用不可能になった霊管の修繕と改良はできるので、会長に集めさせて大量に所持していたのだ。

 それがあると、不利な場所で除霊をしなくて済む利点があった。

 とりあえず霊管に閉じ込め、他の場所に出して除霊することも可能なのだ。


 もっとも、戸髙備後守クラスの悪霊は閉じ込められなかったが。

 下手に閉じ込めようとすると、霊管が破裂して危険だからだ。

 上位の下までくらいしか使えなかったが、それでもかなり便利なアイテムであった。


「行くわよ!」


 続けて悪霊を放つと、涼子は髪穴で仕留め。


「いきます」


 里奈は悪霊を歌で弱らせてから、お札で除霊する。


「次は私ですね」


 千代子は、俺があげた霊器である短刀で悪霊を斬り裂いた。

 あそこまで悪霊に接近できるのは、それだけ彼女の身体能力が優れている結果だ。

 俺もできるけど。


「この距離ならば!」


 桜は、霊器である那須の与一弓で矢を放ち、一撃で悪霊を仕留めた。

 レベルアップの影響で、弓の精度がさらに上がったようだ。


「全部出すから除霊してくれ」


「全部使っちゃうの?」


「霊管に入れた悪霊は、長期保存が難しいんだよ」


「生鮮食品みたいだね」


「久美子が買い占める特売品と違って、長期保存しても腐らないけどな」


「お肉とかは冷凍すればいけるよ」


「悪霊は冷凍保存できないし……」


 今日の訓練で霊管に閉じ込めておいた悪霊たちは、久美子たちによってすべて除霊された。

 いい訓練になったであろう。

 広瀬一門の立ち上げと合わせて、ひと段階進んだという感じかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る