第110話 除霊開始
「相川の嬢ちゃん、わかっただろう? この世においては、人間こそがもっとも怖い存在なのだと」
「そうですね」
「困った連中だ。素直に没落してくれればいいものを……」
霊風除霊の功績を横取りしようとし、それが叶わなければ私たちを妨害しようとする。
自分たち以外の在野の除霊師が霊風の除霊に成功したら、名門である自分たちが恥ずかしい。
自分たちの名誉が守られるのであれば、多数の犠牲者が出ても仕方がないと思えてしまう。
これでは、裕ちゃんにバカにされるわけだ。
「権力は腐る。されど、人は国なり統治機構がなければ安全に暮らすのが難しい。それにしても土御門家……下手を打ったな」
今回の件で大きく力を落とすことは、そういうことに詳しくない私にでもわかった。
「菅木議員、とりあえず全員留置所にでもぶち込んでおきますわ」
「目方警部、上に睨まれるぞ」
「そこは今さらなので。それに、いくらうちの上の連中が保身に汲々としていても、勝手に縄張りで暴れられたのです。警視庁にペナルティを支払わせようとするでしょう」
「除霊以外のことに無駄な労力をかけて。土御門家も終わりのようだな」
確かにちょっと本末転倒のような……。
滅びゆく名門とは、案外こんなものかもしれないけど。
「俺たちが守るから、存分に除霊してくれ」
「ありがとうございます」
トラブルが終わったら、ちょうど除霊するのにいいタイミングとなった。
霊風は台風でもあるので暴風雨がもの凄いけど、レベルアップの影響で行動が阻害されることはほとんどなかった。
「みんな、いくよ!」
「わかったわ」
「任せて」
「師匠、見ていてください」
「広瀬裕は戦っているのかしら?」
私たちに祭壇は必要ない。
特殊な祝詞を唱えながら、事前に用意していた大量のお札を霊風の中心部に送り出すだけだ。
お札の種類は二つ。
まず、涼子さんと葛城先輩が飛ばして送り出したお札は、『接触起爆型』だ。
霊風の中にいる悪霊に触れると、起爆して悪霊を除霊してしまう。
裕ちゃんによると、霊風の中には少なくとも数万体の悪霊が入っているそうで、これをまずはできるだけ減らすのが目的であった。
「目方警部、遠方から青白い光が『ピカッ』っと、ついたり消えたりしてますね」
「そうだな」
「お嬢ちゃんたちが送り出したお札に触れて、悪霊が除霊されている証拠だ」
光る頻度を確認すると、この霊風はかなりの大規模ということがわかる。
必ずや除霊しなければ。
「相川さん、最初のお札が尽きたわ」
「では、第二弾スタート」
次は、別のお札を霊風の中に送り込んでいく。
これは悪霊に触れても起爆せず、霊風の中全体に行き渡るように飛ばしていくのが大切であった。
私たちは、用意したすべてのお札をかなりの時間かけて送り出した。
「では、起爆いきます!」
このお札は、私たち五人で遠隔操作で霊力を送り込むと一斉に起爆するようになっている。
爆発と同時に治癒魔法を周囲に撒き散らし、霊風全体を一気に浄化、除霊してしまうのだ。
先のお札で除霊できなかった悪霊たちも、これですべて除霊されてしまうはず。
これに成功すれば、霊風化のため威力が増していた台風の力も大幅に落ちてしまう。
それほど被害を与えないはずだ。
「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
「「「「「ゼロ!」」」」」
お札を遠隔操作で起爆させた瞬間、霊風全体が数秒間青白く光り、同時にその規模と威力が大幅に減じた。
暴風雨も、除霊前に比べれば全然大したことない。
「成功だ!」
「やったわ」
「ふう、裕に負担かけられないからね」
「師匠も戦っていますから」
「大丈夫かしら?」
「きっと大丈夫だよ」
裕ちゃんは、これまでいくつもの困難を乗り越えてきた。
銀色の竜神になんて負けるはずがない。
だから私は、裕ちゃんがお腹を空かせて戻ってくるだろうから、ご馳走でも作って待っていようと思う。
裕ちゃんの好きなもの。いっぱい作ってあげよう。
だって、それこそが裕ちゃんの妻に相応しい行動だと思うから。
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