第108話 銀の邪竜

『ニュースです。現在日本列島に接近中である超大型の台風七号ですが、中心の気圧は915ヘクトパスカル、中心部の最大風速は八十五メートルを超えており、各地に甚大な被害をもたらすと思われます。命の危険もありますので、慎重な行動を心がけてください。台風七号の進路ですが……』


「爺さん、このままだと戸高市に上陸するな」


「ううむ……竜神様たちはなんと?」


「まだなにも聞いていない……「「裕! 事情が大きく変わったぞ!」」」


 菅木の爺さんが聞いたからではないと思うが、突然竜神様たちが部屋に飛び込んできた。


「荒ぶる『銀の邪竜』が霊風の中心部にいる!」


「奴は、我らを敵視しているので、霊風は戸高市に進路を変えたのだ」


「げっ! どうしてそんな急に?」


「昨日、どこかの島で火山が爆発したニュースはなかったか?」


「これかな? 南太平洋のアボストニア火山が噴火。死火山と思われていた火山の噴火で、現地は大きく混乱」


 俺は、スマホで検索したニュースを現地の地図と共に竜神様たちに見せた。


「おおっ! この島の火山なら覚えてるぞ。のう、青竜神よ」


「三万年ほど前だ。この火山を縄張りとしていた銀の邪竜を我らが封じ込めたのだ」


「奴は、反転して邪神になってしまったのでな」


 天使が悪魔に堕天することがあると聞くので、竜神が邪竜になることもあるのであろう。

 それにしても三万年前って……。


「当時、我らは二人で銀の邪竜を封印することに成功した」


「一対一だと互角なのでな」


「大丈夫か? 裕よ」


「大丈夫かな?」


 おおよそ推定では、死霊王デスリンガーとほぼ同じくらいの強さのはず。

 俺も大分レベルが上がったし、いけるだろう。


「裕ちゃん、私も一緒に戦う」


「それは駄目」


「えーーーっ! どうして?」


「理由は二つあって……」


 まずは、久美子の強さでは足手纏いだからだ。

 これは他の四人も同じだ。

 次がもっと重要で、俺が銀の邪竜を倒している間に、久美子たちが霊風を除霊しなければ間に合わないからだ。


「私たちだけで、霊風の除霊を?」


「頼む。教えた通りにやれば、ちゃんと除霊できるから」


 久美子たちのレベルなら、まず失敗しないはずだ。

 今の五人なら、日本にいる除霊師数千人が相手でも歯が立たないはずなのだから。


「任せて、裕ちゃん」


「いいの? 相川さん」


「だって、裕ちゃんは私たちを信じて別の仕事を頼んだんだから、これに応えないと」


「久美子は健気ねぇ。私も頑張るわ」


「師匠、お任せください」


「頑張るわ。でも一人で大丈夫?」


「大丈夫だよ。銀狐がいるから」


 桜の疑問に答えるかのように、突然空中から出現した銀狐が俺の背中に抱き着いてきた。

 彼女に触れた途端、温かで膨大な霊力を感じる。

 さすがは、見習いとはいえお稲荷様が拾ってきた子なだけはある。

 銀狐はかなりの強さを秘めているはずだ。


「私がずっとおぶさっていてあげる」


 なるほど。

 それなら全力を出しても、そう簡単に霊力は尽きないはずだ。


「でも、神殺しかぁ……」


「それは今さらであろう。それに、銀の邪竜は死なぬぞ」


「左様、また生まれ変わり、数万年の時を経て成長するのみなのだから」


「ならいいか」


 こうして俺たちは、霊風の除霊と、その中心部にいる銀の邪竜退治と、二手に別れて行動を開始するのであった。





「銀狐、いくぞ」


「任せて、お兄ちゃん」



 霊風の上陸地点は、先日来た海原の海水浴場付近であると判明した。

 当然三組は予想を大きく外しており、慌ててこちらに向かっているようだ。

 ただ、祭壇を組むのに最低でも一日はかかるので、この時点で戦力にならないことが確定した。

 別に最初からあてにしていないけど……。


 霊風の除霊は久美子たちに任せ、俺と銀狐は飛行しながら霊風の中心部を目指していた。

 普通の除霊師は飛べないが、これも銀狐のおかげというやつである。

 俺一人でもやればできなくもないんだけど、霊力と特別な道具の消耗が激しいので、今回は銀狐にサポートを頼んでいる。


「凄い風だね」


「大型台風だからな」


「悪霊も一杯」


 霊風の中に入ると、多くの悪霊たちが飛び回っていた。

 これらが上陸地点の人々を襲って呪い殺し、各地に居座って地縛霊となってしまうのだ。

 物理的にも、霊的にもその地域を壊滅させてしまう。


 少なくとも、霊風の方は除霊しなければ。

 俺と銀狐は、風速百メートル近い暴風の中を進んでいく。

 俺たちに襲いかかってくる悪霊たちは、ヤクモで斬り捨てていった。


「銀の竜、いないね。気配はビンビン」


「この霊風は大きいから、もっと内部に入らないといないよ」


「……あっち!」


 銀狐の指示した方向に飛んで行くと、ついに銀の邪竜の姿が見えてきた。

 これが、赤竜神様と青竜神様と同位の存在。

 どうやら俺たちを待ち構えていたようで、いきなり俺たちに襲いかかってはこなかった。


「チイサキモノヨ。ヨクキタナ」


「銀狐もいるよ!」


 俺の背中に負ぶさっている銀狐が、自分も忘れるなと身を乗り出して銀の邪竜に抗議した。


「チイサキモノヨ、ハジメルカ?」


「お兄ちゃん、私無視された!」


「ミジュクナモノニヨウハナイ。ベツノセカイデカミヲコロシタオトコ。オマエヲマッテイタ。ワレヲフウインシタ、アカリュウジン、アオリュウジンノマエニ、チマツリニアゲテヤル」


「それは残念だったな」


「ザンネン?」


「お前は、ここで俺に倒されるんだからな」


「オモシロイジョウダンダ」


「好きにそう思っておけ」


 俺はヤクモを抜き、そのまま一気に銀の邪竜へと斬りかかるのであった。

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