第74話 金運

「この金の含有量なら、現代の日本でも十分に採算が取れますね」


「長年封印されていた影響で、未発掘な鉱脈が多いのもいい」


「これは詳しく調査してからですが、未発見の新しい鉱脈にも期待できます」


「そうか。それはよかった」


「菅木先生、金富山の採掘は、是非我が社に!」


「いえ、我が社にお願いします」


「うちが一番い条件を出しましょう!」


「いえいえ、うちこそが!」




 無事、除霊が終わった金富山であったが、さすがは戦国時代後半から現代まで、誰も金を採掘できなかった鉱山だけはあった。

 菅木の爺さんのツテで数社合同の埋蔵量調査が入ったのだが、金の含有量率と推定埋蔵量の多さは、世界でもトップレベルだそうだ。

 昔はとても有名な金鉱山だったそうだが、三百年近く悪霊に占拠されていたせいで採掘できなかったから当然か。


 調査団に参加したすべての企業が、自分の会社に採掘を任せてほしいと、競うように菅木の爺さんに詰め寄っていた。


 紆余曲折というか、岩谷彦摩呂の特攻を阻止したおかげで金富山は竜神会の所有となっていたが、つい最近まで神社の管理しかしていない竜神会が金鉱山の採掘と金の精錬なんでできるわけがない。

 どこかの会社が金富山を借り、賃料を竜神会に支払うというのが一番面倒がなくていいはずだ。


 金富山の金を採掘・精錬できる権利を得られれば、その会社に莫大な利益をもたらす。

 そのため、是非自分の会社にと、みんな竜神会の代理人である菅木の爺さんにアピールタイムを始めたわけだ。


「金は人を魅了するよな」


 向こうの世界でも、金はとても価値があった。

 というか、普通に金貨が流通していたからな。

 死霊王デスリンガーによる侵攻のせいで多くの国が滅び、紙幣を発行していた国もあったそうだが、すべて『ケツを拭く紙にしかならねえ!』状態になってしまったそうだ。

 

 某アニメとは違って、ケツは拭けるようだったな。

 発行した国が滅んだ紙幣など信用されるわけがなく、死霊王デスリンガーのせいで物資不足に陥っていた人たちの中には、本当に滅んだ国の紙幣でお尻を拭いていた人がいたのだから。


 そんなわけで、やはり金は強いというわけだ。


「裕ちゃんは、ご褒美に金貨とかを貰ったって聞くけど」


「あるな、それなりの量が」


 それは、俺たちも命がけで世界の危機を救ったのだ。

 常識的に考えて褒美くらい貰った。

 持ち帰った武具、霊薬、除霊に使える道具、その素材、製造に使う工具などは俺が滅んだ国や町から集めたものが大半なので、ちゃんと女王陛下から金、宝石、その他諸々は貰っていたのだ。


 今は『お守り』に入れてあり、完全に死蔵状態だけど。


「売ってお金にしないの? お小遣いの足しになるじゃない」


「それが、菅木の爺さんにやるなと言われたんだ」


 未成年者が見たこともない金貨を売りに行けば、それだけで怪しまれると。

 もしやるなら、成人後にやれと言われてしまったのだ。

 俺はその辺の事情を涼子に説明した。


「金山も解放され、金貨もあるのに、裕君は金欠。不思議な話ね」


 本当、不思議な話だ。


「金山利権の生臭いお話は、菅木の爺さんに任せるとしてだ。こっちの方が重要だな」


 俺たちは、金よりも金富山と同時に解放された『金富神社』の方が大切だ。

 ここを適切に管理し、五方陣の四番目として機能させる方が先である。


 とはいえ、すでに俺と久美子の『治癒魔法』により金富神社は、完成直後の美しさを取り戻していた。


「綺麗な神社はいいよね。あっ、俺は金富神社のご神体です」


 突然俺たちは、金色の上下のスーツ、Yシャツ、シルクハット、蝶ネクタイ、靴下、靴、杖とすべて金色で、さらに金髪の三十代と思われる男性に声をかけられた。

 あまり直視できないくらいに眩しい。


「神社の修繕、感謝します。車田犬龍斎の奴、自分が建立した神社をろくに手入れしないんだから」


 金富神社は、車田犬龍斎が建立したものだ。

 彼の悪霊化により、金富神社にも人が入れなくなり、そうなれば手入れをする者もおらず、神社は朽ちるに任せていた。

 それを修繕した俺と久美子に、ご神体はお礼を言いに来たのであろう。


「金富神社のご神体は……どちらの神様でしょうか?」


「金富神社は、金富山自体をご神体にしたちょっと変わった神社でね。俺は、金富山でもあるんだ」


「神道にはシャーマニズム的な面もあるから、巨岩や大木をご神体にしている神社もあるわ」


「そうなんだ」


 さすがは涼子。

 そういうのに詳しいな。


「裕君は、神社の跡取りよね?」


「一応?」


「そのクエスチョンマークはどうかと思うわ」


 これまで除霊師業がメインで、神社は掃除の手伝いくらいしかしていなかったからだと思う。

 要するに、神社の中にはご神体が不明とか、古い木や、特殊な大岩、山、河川などを祀っているところもあり、金富神社も金富山をご神体としているわけだ。


「元は車田犬龍斎が、『金が沢山採れますように』って建立した神社だからね。奴の悪霊化のせいで人が誰も来なくなる前は、『お参りすると金持ちになれる』って参拝客が詰めかけたものだったのさ。実際金が沢山採れるから、ご利益があると思われたんだろうね」


 だから、三百年近くも放置されていた神社の割には、ご神体の格が高く見えるわけか。


「ようやく管理する人たちも来たし、あとは参拝客が沢山来れば力がさらに増すんだけどね」


 神社はお参りに来る人がいなくなると、ご神体が力を落としてしまう。

 金ピカのご神体としては、一日でも早く参拝客に来てほしいのであろう。


「竜神様が言うには、もう心配ないって」


「そういえば、竜神様たちも活動を再開したみたいだね。なら安心か。祀られているご神体でも見ていく?」


「俺と久美子は見たけどね」


 金富神社のご神体は金富山なのだが、神社の本社の中にも巨大な岩が祀られていた。

 なんでも、金の含有量が多い岩なのだそうだ。

 ご利益があると考えられたのだと思う。


「うちは、金運が上昇するご利益が……あるかもしれない」


「ご神体にしては、どこか自信なさげだなぁ……」


「参拝に来た全員を金持ちにするなんて、竜神様でも不可能じゃないか」


「確かにそうだな」


 神社に祈るだけで金持ちになるのなら、誰も働かなくなるだろうしな。

 ちょっと金運がつくくらいと見た方がいいのか?


「でも、そのちょっとの金運も参拝客の数次第なんだよね。自分でも『まいなー』な神様だと自覚はしているので、沢山の人に祈られて力を増したいところだね。長年神社に誰も来なかったからさ」


 金富神社の管理も竜神会がすることになったし、金山を採掘する企業もお参りは定期的にするだろうから、以前よりは力が増すはずだ。

 参拝客もゼロってことはないだろう。


「早く沢山の参拝客が来ないかなぁ」


 などとのん気そうに呟く金富神社のご神体であったが、後日、金富山に有望な金の新鉱脈が複数発見され、いくつかの企業が採掘を開始したと報道されると、多くの参拝客が『金運にご利益がある』と金富神社に殺到するようになった。

 多くの参拝客のおかげで力を増したご神体であったが、果たしてどの程度金運上昇に効果があるのか。

 俺にはちょっとわかりにくかったのが残念であった。

 と思ったら……。


「来月から、お小遣いが月に三万円に! 来たぁーーー!」


 小遣いが増えたので、金富神社は本当にご利益があるのだと、俺は確信するに至ったのであった。

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