第75話 不純異性交遊? そうでもないけどな!
「校長! これは由々しき事態ですぞ! 校長から広瀬裕に注意をし、場合によっては厳正な処分を下すべきです!」
「しかしだなぁ……彼には特別な事情があるのだよ。菅木議員や、日本除霊師協会からも、この件で我が校が介入しないように頼まれている。他にも、色々とあってだね……。君もそこのところを……」
「そんなバカな話がありますか! 生徒は全員が平等なのです! 広瀬裕だけ特別扱いは許されませんぞ!」
我が校の一年生に、広瀬裕という男子生徒がいた。
運動神経はそこそこで、学業は辛うじて赤点を取らないレベル。
取り立てて顔がいいわけではないが、背は高い方か。
なにより、彼は除霊師であると入学時に聞いていた。
実家が戸高市内にある神社で、彼と幼馴染である女子生徒相川久美子も同様に除霊師だそうだ。
他にも、途中から清水涼子、葛山里奈、葛城桜、望月千代子と。
四名の除霊師をしている女子生徒たちが我が校に転入してきていた。
それはいいのだ。
私は霊は見えないが、そういう仕事があるというのを、教師生活三十五年の中で十分に理解していた。
以前には、在学中にも関わらず除霊中の事故で亡くなった生徒も複数いて、教師である私は嘆き悲しんだものだ。
彼らは除霊師の仕事を誇りを持っておこなっており、それは私の教師業と同じであった。
だから、除霊の仕事は危険なのでやめろとは言わない。
できる限り彼らが普通の学生生活を送れるよう、私は配慮するのみであった。
ところがだ。
広瀬裕は、これまで私が見てきた高校生除霊師たちとはまるで違った。
なんと、高校生の分際で五名の女子生徒たちと同棲しているのだという。
それも、戸高市で一番の高級高層マンション戸高ハイムの最上階、エグゼクティブルームにだ。
「高校生が、しかも五名もの女子生徒と同棲とは! 不純異性交遊ではないですか!」
「あくまでも同居ですから。それに部屋は別だそうで……」
「部屋が違っても、同じ場所に男女が一緒に住むのはよくないですぞ。そこから異性不純交遊が始まるケースが、私は散々見てきたのです!」
「それはそうなのだけど……古川先生、ここは穏便に……」
「校長! あなたは生徒を依怙贔屓するのですか?」
この学校で私の生徒になった以上、どの生徒に対しても平等に接する。
これが、私の教師としてのポリシー、生き様なのだから。
そのせいで教頭や校長になれなくても結構!
私は出世に興味などなく、定年退職するまで一教師として生徒たちと接していきたいのだから。
「ほら、菅木議員が持ってきたのですよ。ちゃんとそれぞれ鍵のかかる個室で生活していますからって」
そう言って校長は、私に広瀬裕たちが住む戸高ハイム最上階の間取り図を見せてきた。
確かに、表向きはそれぞれ個室を持って生活しているようであったが、広いキッチン、広いバスルーム、広いリビングなどの共有部分があるのも事実。
つまり、広瀬裕たちが不純異性交遊に浸る環境があるということだ。
これは由々しき事態だと、私は思うのだ。
教師生活三十五年の私の勘が、彼らは危ういと判断していた。
ここは、なにがなんでも同棲を中止させなければ!
「そうですとも! 古川先生の仰るとおりですとも!」
突然、校長室にもう一人教師が入ってきて私の意見に同調してくれた。
くれたのだが……よりにもよって中村先生とは……。
彼は若いながらも、熱心にやっているとは思うのだが、いささか結婚願望が強すぎるのが問題というか……。
別にそれは構わないのだが、『未婚の教職員同士による婚活パーティー』を主宰しようとしたり、広瀬裕の実家が運営している門前町にある喫茶店の若い女性店主に懸想したり、週末、神社の若い巫女さんたちに声をかけたりと。
本人は、アルバイトをしている生徒たちの様子を見に行っているだけと言っているのだが……。
「校長! 広瀬に注意すべきです! いえね、私はあくまでも広瀬たちが健全な高校生活を送れるよう、心を鬼にして言っているのですよ」
「「……」」
いや、それはさすがに私もないと思う。
きっと中村先生は、周りに美少女しかいない広瀬裕に嫉妬しているだとしか思えないのだ。
できれば庇ってあげたいところだが、なにしろ私は教師生活三十五年以上のベテラン。
同僚教師の考えていることなどすべてお見通し……なわけがないが、私は中村先生がこの学校に在学していた頃の担任だった。
彼は高校生の頃からよく女性生徒、若い女性教師に告白しては撃沈していたのを知っていた。
そういえば、当時よく女子生徒たちにモテていた野球部のエースを『民主主義の敵だ!』と糾弾していたのをよく覚えている。
当然、そんな彼の主張など誰も聞く耳持たなかったのだが……。
「広瀬裕たちは共に除霊という仕事を行う仲。古川先生、中村先生、彼らを信じようではありませんか」
結局、中村先生のせいで私の訴えは曖昧になってしまったような……。
しかし私は諦めない。
広瀬裕たちに、一日でも早く健全な生活を送らせるために。
それが教師としての私の務めなのだから。
「涼子、それはなに?」
「よくぞ聞いてくれました! この前、テレビでやっていたのよ。『オカラパウダー』が健康とダイエットにいいって」
「そうなんだ……」
「それ、うちの婆さんも買ってたぞ。清水の嬢ちゃんは、やっぱり加齢が止まった安倍一族の最終兵器……」
「なわけないでしょうが! 菅木議員は度々ここに朝食を食べに来ますけど、家庭内での居場所がないんですか?」
「人を寂しい年寄り扱いしないでほしいな」
そう言われてみると確かに、菅木の爺さんはよくうちで朝食を食べて行くな。
政治家としては成功していても、家庭内では孤立……ちょっと怖いので、俺は真相を聞くのをやめようと決意するのであった。
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