第10話 変わった治癒魔法
「戻ったぞ、勇樹」
「お早い帰りでしたね、父さん」
「すぐに確認できたのでな。剛の孫は、剛以上の才能と、現時点で軽く剛を凌駕する実力を持つ除霊師であった。それで十分だ」
「父さんがそこまで褒めるなんて珍しい」
「ワシはC級除霊師にもなれなかった男だが、どういうわけか除霊師を見る目だけはあるからな」
「人を見る目では? だから政治家としても大成している」
「勇樹、それは総理大臣になれた政治家だけが言っていいセリフだな」
「まだわからないではないですか」
「今の世で、七十を超えたジジイが総理大臣にはなれんよ。そういうことになっておる」
除霊師になれなかったので政治家になったワシだが、戸高山を中心とした聖域が復活したことには気がついた。
除霊師としての才能はないが、ワシには見えるのでな。
除霊の才能がない代わりに、神様がくれたボーナスなのかもしれない。
どういうわけか、日本除霊師協会の連中は気がつけていないようだが、どうやら竜神様たちが上手く隠しているようだな。
例の戸高ハイムの除霊が終わるまで、竜神様たちは世間に知られないように力を使っているものと思われる。
どうやらその間に、剛の孫を使って聖域の強化を行うようだ。
それにしても、聖域の復活はありがたい。
戸高山を中心とした戸高市は、これで数百年は安泰であろう。
今の世の中は科学全盛で、神仏や霊の存在を否定する者も多い。
除霊師の仕事は一応公的には認められているが、その存在感は非常に薄いといっても過言ではない。
悪霊に殺された人たちも、事故や自殺、病死で片づけられてしまうからな。
空き家や、空き地、ここには入らない方がいいと言われている場所の大半には悪霊が関わっているのだが、最近の人口減と少子高齢化によって放置された空き地や空き家の増加と混同されるケースが目立つ。
それに、例えば銀座の一等地が悪霊に占拠されたとしよう。
数千万~数億の除霊費用を出しても割に合うため、目立つ場所に禁忌とされる空き地や空き家は少なかった。
たまに繁華街の一等地に不自然な空き地や空き家もあるにはあるが、大半の人間は相続問題で放置されていると思っているからな。
実際に、そっちのケースもよくあることなのだが。
無料で除霊する除霊師などいないし、どうせ除霊できても、相続で揉めているので開発もできない。
放置するしかないのだ。
そんなわけで、実は霊の存在を明確に信じているのは、古くからの日本の名家、支配者層に属する者が多い。
古来より、権力者は悪霊のコントロールができなければこの国を支配できなかったからだ。
日本は戦後の国家神道否定により、政府側にも悪霊に無理解な者が一定数存在しているが、仏教系や、戦後に力を増したキリスト教系に属する除霊師たちにより、一応の安定を達成している。
お上が駄目で、民間でどうにかするのは日本の伝統なので仕方がない。
もっとも、宮内庁などを中心に除霊師に関わっているお役所、政治家、政党、古くからの名家、企業などもあるので、外国人から見たら日本政府は除霊師をどこまでコントロールしているのかわからないといった現実もあるのだ。
そんな中で、ワシはこの見える力で政界を渡り歩いてきた。
二度ほど大臣も経験しているし、政治家としては成功してきた方であろう。
あとは、この目の前にいる息子勇樹に跡を継ぐ資格があるかどうかだが、それはワシにもまだわからない。
そういうものは、悪霊を見られる目でもわからないのでな。
その才能があることを祈っているよ。
「霊的なもので、都市の発展と安泰が約束されるのですか?」
「されるさ。今の時代に多い、自分の目で見えるもの、自分の耳で聞こえるもの、データの数字しか見ない輩は気がつかないがな」
勿論、霊的に安定した土地でも、人間が努力しなければ発展などするはずがない。
あまりよくない土地でも、人間の努力で発展している場所もある。
ただ、同じ条件の土地でも、霊的に安定していた方が同じレベルで発展させるのに必要な労力が大きく違ってくるのだ。
「今の戸高市は、一の労力で五~十の効果が得られる土地になった。聖域が復活したからだ。あそこは市の中心部にも近いので、市役所の土木課あたりが『竜神会』に高額の固定資産税をかけ、裏森辺りを切り売りさせようとしている。冗談ではない! そんなことをしたら、葛山刑部の悪霊以上の祟りとデメリットが戸高市を襲うであろう」
「私には霊感がないのでわかりません」
「お前も、あと数十年もすればわかるさ。もう戸高市には大きな地震は数百年は来ない」
竜神様たちが、小さい地震にして散らしてしまうからな。
そのくらい強大なアドバンテージを戸高市は得たのだが、気がつかない輩も多いので困ってしまう。
しかも、そんな奴が政治家をやっているのが今の世の中なのだから。
「台風も直撃はしないであろう」
これまでの戸高市は、度々台風の直撃を受けて大きな被害を受けてきた。
聖域に竜神様たちがいれば、それもなくなる。
台風の方が、竜神様たちを避けるからな。
「勇樹、ワシに似ず霊感がないお前が信じないのは自由だ。だが……」
もしワシの引退後、竜神様たちの存在を信じず、聖域の維持に手を抜くつもりならば……お前はワシの跡を継げない。
最初は大丈夫かもしれないが、じきに選挙に当選しなくなるからだ。
どうしてかと聞かれても、そうなのだから仕方がない。
そう思えないということは、勇樹にはワシの跡を継ぐ才能がないというわけだ。
「言いきりますね」
「若い政治家であるお前が、新しい政策を実行し、時代に必要な法律を作るのは構わない。むしろそれが政治家の仕事なのでな」
だが、聖域の維持を怠った時点で、お前は没落する。
ワシは警告したからな。
それを無視してお前が滅んでも、ワシはその頃には死んでいる。
手を貸すことは不可能なのだから。
「世の中、正しいもののすべてが新しいことではない。守らなければいけない古いこともある。そういうことですか?」
「そうだ」
「私とて、この世の中には科学では説明がつかないこともあるのだと理解しています。父さんがその科学では説明つかないことで政治家として大成したのを見てきましたので、その辺にも十分に配慮しますよ。第一、私もあの安倍清明に会っているのですから」
そうであったな。
昨日、律儀にも彼はうちに挨拶に来たのであった。
一人の除霊師ではなく、安倍家という古くからの名家の当主なので、地元有力者への配慮も忘れないというわけだ。
その辺は如才ない男であるな。
「奴は、それなりの除霊師だったな」
「それなりですか? 私に霊感はないですけど、なんと言いますか、威厳やオーラみたいなものはありましたよ」
「彼が一廉の人物であることは認めよう。安倍家は名家で、奴は当主に指名された分家の人間であるが、ちゃんと教育も受けている」
生まれと教育のよさと、一人しか安倍姓を名乗れない安倍家の当主として、多くの除霊師や人を使っているトップとしての責任からくる威厳などは、その辺の政治家では歯が立たないであろうからな。
まだ若造である勇樹が、彼を評価するのはわかるのだ。
「しかしながら、除霊師は悪霊を成仏させるのが仕事なのだ」
除霊師は、ただ悪霊よりも強ければいい。
高位の除霊師特有の威圧感は、大人物のオーラなどと間違われるケースが多いのでな。
いくら器が大きく人を統べるのに優れた人物でも、除霊師としての力量に劣っていれば意味はない。
「私は、安倍清明が日本一、世界でも有数の除霊師と聞いています。他にも、安倍一族には優秀な除霊師も多く、戸高備後守の悪霊の除霊は成功するのでは?」
「……」
正直、なんとも言えぬな。
戸高備後守の悪霊が予想以上に厄介だと知って、除霊を行う日を延ばした安倍一族の情報収集能力には感心した。
だが、本物の優れた除霊師ならば、決めた日を延ばすなどしない。
淡々とそこに出かけ、悪霊を除霊してしまう。
それこそが、優れた除霊師というものなのだ。
少なくとも、剛はそうだった。
あいつはB級だったが、ワシにはわかる。
あの安倍清明よりも、除霊師としての実力は圧倒的に上だったと。
そして剛の孫の裕は、剛ですら霞むほどの除霊師なのだ。
もどかしい!
彼はまだ新人扱いで、日本除霊師協会による杓子定規なランク制度のせいで、彼を戸高備後守の悪霊の除霊に参加させられないとは。
「父さんは心配しすぎなんだと思う。安倍一族の力を信じることも大切だと思いますよ」
「それはそうなんだが……」
ワシだけなのであろうか?
嫌な予感がする。
もし安倍一族が戸高備後守の悪霊に敗れたら、これも予め先に動いておいた方が……そうか!
竜神様もそれに気がついているから!
心配性の老人の先走りと言われても構わない。
先に動いておくか。
「おはよう、ユウ。腹が減ったな」
「ユウ、すまんが飯をくれないか?」
「……赤竜神様? 青竜神様?」
翌朝、目を覚ましたら目の前にディフォルメされた赤い竜と青い竜がいた。
竜なのに気安く声をかけてきたので、先日復活した二体の竜神様だと思われる。
「どうして体が小さくて、空に浮かんでいるのですか?」
「実は、二千年以上も地底湖にいたので暇でな」
「干からびていた四百年以上より、さらに千六百年ほど前から我らはあの地底湖にいたのだ」
赤竜神様と青竜神様がご神体となっている戸高赤竜神社と戸高山青竜神社の大元は、戸高山の地底湖に住む二体の竜神様を祭る自然信仰的なものであり、そこから神道へと移行したらしい。
実は由来不明とされている両神社は、千年以上も昔から存在していたそうだ。
ただ、戸高備後守の悪霊による四百年以上もの神職不在により、亡くなった祖父さんが再建するまでは廃墟だったそうだ。
その前にも戦乱やら自然災害が原因で壊れ、何度か社は建て直されているらしい。
「そんなに古い神社だとは思いませんでした」
「我らがその気になれば、この地方一の……いや! 日本一の神社となることも可能なのだ」
「その方が都合がいいというのもある」
青竜神様によると、ここ数日で一気に増えた参拝客たちによるお参りのおかげで、竜神様たちの力も増しているそうだ。
「我らは崇拝され、お参りされることで力を増すのでな」
「よって、こうやって分身体を外の世界に出すこともできるようになったというわけだ」
あの巨大な本体は地底湖から出ないが、このように分身体を出して外の世界を堪能することはできるそうだ。
堪能って……ただ楽しむために外に出てくる竜神様ってのも凄いと思う。
「言うても、我ら竜神のみならず、神は意外と気まぐれなのでな」
「これから、お主の家に世話になるからな」
「はあ……」
正直なところ断るのも難しいわけで、なし崩し的に二体の竜神がうちに居候することになるのであった。
「どうぞ、竜神様たち」
「いただきます、ご母堂」
「すみませんな」
「いえ、竜神様のお情けで、うちも賑わってきましたからね」
起床して両親に竜神様たちのことを話したのだが、父はえらく動揺していたが、母はそうでもなかった。
神社の経営が調子いいので、ご機嫌で竜神様たちに朝食を出していた。
こういう時、女性の方があまり動揺しないものだと俺は思う。
女は度胸というやつで、向こうの世界でもそうだったな。
ご飯、豆腐とワカメの味噌汁、タクワン、納豆、味付け海苔、アジの開きというどこにでもある朝食だが、竜神様たちは美味しそうに食べていた。
竜神様たちには手があるので、器用に箸を使って食べている。
「お昼は、オムライスになります」
「『おむらいす』とな? ご母堂」
「外国の料理ですよ」
「それはいいですな」
「我らは四百年以上も干からびていたので、外国の料理など食べたことがないのです。楽しみですな」
まあ、竜神様たちも神社の外に出れば色々と面倒なことになるくらいは理解しており、母が三食の食事とオヤツを出せば問題ないはず……一応念のため、釘を刺しておくか。
「あの、おわかりとは思いますけど、外に出ると大騒ぎになるかなと」
「今の時代の人間は、竜神に慣れておらぬらしいな」
慣れるもなにも、空想上の生き物で実際にいないと思っている人が大半だからな。
「嘆かわしい……昔はみな、この聖域にひと目でも我らの姿を見ようと人々が詰めかけたというのに……」
赤竜神様の言う昔って、一体いつの時代のことなのであろうか?
「お主の言い分は理解した」
「どうせ我らは、聖域から出られぬのでな。今のところは」
ということは、もっと力を蓄えれば外に出られるというわけか。
それは困るな。
「聖域の外には出ぬよ」
「姿も消せるので、外部の人間に知られることもあるまい。我らが姿を見せなくても、順調に力は増えているのでな」
お参りされると力が増えるのか。
神様ってのも、人気商売で案外大変だな。
「竜神は格好いいので、人気はあるからな」
自分で格好いいとか言うか?
赤竜神様。
第一、今はデフォルメ化しているから、むしろ見た目は可愛いなんだが……。
「このままもっと参拝客が増えてくれれば言うことなしかの。ところで、ご母堂。夜に息子さんを借りて構わないかな?」
「はい。好きなだけどうぞ」
好きなだけって……。
母さん、参拝客が増えたからって欲が出てきたな。
「学校とやらが終わってからのことだ。問題あるまいて」
「お主ならできる、お主にしかできぬ仕事だからな。どうせ勉強などしないであろう?」
「……」
確かにしないけど、そこはあえて指摘しないでほしかった。
それに向こうの世界では、必要なことだけは真面目に学んでいたのだから。
学校の勉強は……まあ留年しなければいいんだよ。
「とにかく夜は頼むぞ、ユウ」
「裕、竜神様たちのことをよく聞くのよ」
「(母さん、神社の実入りがよくなったからって……)」
母からの強い命令もあり、俺は竜神様たちの依頼で夜にひと仕事する羽目になるのであった。
「本当に竜神様たちがいる。しかもちょっと可愛い」
「青竜神、この格好は女子にもすこぶる評判がいいな」
「『でぃふぉるめ』すると可愛くなるというのは本当だな」
「我ら竜神とて、若い女子に好かれるのは悪くないのでな」
「左様、竜神も完全に平等というわけではないのだ」
「それを口に出さないでください」
学校が終わり、両神社の参拝客たちも帰った夜。
俺と久美子は、竜神様たちと一緒に両神社の前に立っていた。
彼らの依頼は神社に関することのようだ。
「神社が古くて汚いと思わぬか?」
「左様、ちょっと『てんしょん』が落ちるというやつだな」
「そんな無茶な……」
神社を建て直せなんて、そう簡単にできる話ではない。
それに、これは古くて汚いのではない。
古びて味が出てきたのだ……きっと。
「いや、そんなものは人間の価値観であろう」
「我らは、新しい神社の方がいいのだ」
赤も青も、竜神様は無茶を言ってくれるな。
両神社を建て直すのに、一体いくらかかると思っているのだ。
時間だってかかるというのに……。
「竜神様、神社の建て替えにはかなりの時間と費用がかかるのですよ」
久美子が、優しく竜神様たちに神社を建て直せない理由を説明し始めた。
どうも竜神様たちは、若干女性優遇の気があるからな。
「建て直さずとも、お主の能力ならば神社を綺麗にできよう」
「向こうの世界で得た力だ」
「向こうの世界で? ああっ! 治癒魔法ね!」
「えっ? 治癒魔法で?」
治癒魔法で神社を綺麗にすると言ったら、久美子が不思議そうな顔をしていた。
本来なら、人間や生物の怪我や病気を治す魔法だからだ。
「それって、私も治癒魔法を習得すればできるのかしら?」
「それはわからない。習得できるかもしれないし、できないかもしれない」
「それって、才能の問題なの?」
「それもあるし、努力の要素もなくもないから。とにかくわからん」
今のところ、この治癒魔法は俺にしか使えなかった。
同じパラディンであった涼子さんたちも使えなかったからな。
勿論、通常の治癒魔法はちゃんと使えたけど。
それにはちゃんとした理由があるのだ。
「治癒魔法を覚えるのは、ちょっと面倒なんだ」
俺たちのようにステータスが表示される召喚者パラディンの場合、その他の部分に『治癒魔法』と出ても、実はかなり練習しないと使えないのだ。
つまり、才能はあるけど使えるようになるにはちゃんと訓練してね、という意味だ。
久美子も『治癒魔法』の才能が具現化したが、使えるようになるには最低でも一か月はかかるかな?
人によってはもっとかかるし、稀にだけど、才能があっても一生使えなかった人も過去にはいるらしい。
逆に、表示なしで使えるようになった人というはゼロだそうだが。
ステータス欄に表示されるのが、治癒魔法を使えるようになる最低条件ってことだな。
なお、向こうの普通の人たちはステータスなど表示されないので、様々な特技や魔法ができるようになるのかわからないまま、希望と勘で訓練に挑んでいた。
適性がわからないまま訓練をするので、非効率であったのは言うまでもない。
だから俺たちが召喚されたという事情があるのだが。
「ちなみに裕ちゃんは、どのくらいで治癒魔法を使えるようになったの?」
「一週間」
「早いじゃん!」
それは俺がパラディンだったから……他の理由もあるかもしれないけど、よくわからん。
やっぱり異世界人だったというのも大きいのかね?
「話を戻すが、治癒魔法を覚えるに際し、個人個人で治癒魔法に関する理論を構築する必要があるんだ」
これは、治癒魔法に不変の真理があるというわけではない。
要は、自分が納得できる理論に従い、治癒魔法を使えという意味だ。
「自分なりの理論?」
「そう、自分が納得できる理論だ。納得できていないと、いくら優れた理論でも治癒魔法は発動しない」
治癒魔法の習得は、自分が納得できる理論の発見にかかっているといってもいい。
それが見つかれば、九十九パーセント習得できたも同然だ。
「それで、裕ちゃんはどういう理論で?」
「治癒魔法とは、時間を巻き戻す魔法である」
治癒魔法は、時間魔法でもある。
これが俺の理論であった。
「怪我を治す時、怪我をする前に時間を巻き戻すという理論なんだ」
病気でも、病気になる前の健康体に時間を巻き戻す。
俺はこの理論を考えついて、治癒魔法の習得に成功した。
「勿論、他の治癒魔法使いにはそれぞれに理論がある。俺が他人の理論を用いても治癒魔法は使えないし、逆もまた同じだ」
「時間を巻き戻すが、一番しっくりきたわけだ」
「そういうこと」
そして、その副作用というか追加要素で、人間や生物以外にも治癒魔法がかけられるようになったというわけだ。
そこが、俺の治癒魔法が他人とは違うところだな。
「よく気がつきましたね。俺の治癒魔法の特性に」
「我らは神なのでな」
「力が増えているのもある」
竜神様は神様なので、すべてお見通しというわけか。
「人間や生物以外ってことは、物でも直るの?」
「そういうこと。実際に見てくれ」
俺は、お守りからリンゴを一個取り出して一口だけ齧った。
齧ったあと、リンゴに治癒魔法をかけると、なんとリンゴは齧る前の状態に……というショーを久美子の前で実演した。
タネも仕掛けもなく、リンゴを治癒魔法で治療してひと口齧る前の状態に戻しただけだけど。
「凄い! リンゴを齧る前の状態に戻したんだね」
「というわけで、神社も治癒魔法をかければ、祖父さんが再建した直後の綺麗な状態に戻せるというわけさ。後学のために見学しておいてくれ」
久美子にそう言うと、俺は戸高神社の敷地すべてを対象に、高威力の治癒魔法をかけた。
一瞬だけ青白い光が発生した直後、本殿や以前の狛犬に代わって設置された竜神様の石像、社務所などがすべて、亡くなった祖父さんが再建したばかりの頃の綺麗な神社に戻っていた。
「これぞ、赤竜神に相応しい神社よ。新しく綺麗な神社は力が漲るのぉ」
「こちらも頼むぞ」
「わかりました」
続けて、まだ霊力に余裕があったので、久美子の家の青竜神戸高山神社の方にも高威力の治癒魔法をかけて建物や設備を新品同様に回復させた。
「赤竜神の言うとおりだな。新しい神社は力が漲るわ」
「逆じゃないんですか?」
「古びた方がいいとか、そういう考えは人間の考え方。我ら祭られる方は、新しい神社や寺の方がいいな。人間も新築の家の方が嬉しいであろう?」
「そう言われるとそうですね」
新築の家は人気があるからな。
同じ大金を出すなら、ということなのであろうが。
「あとはついでに」
両神社の境内の隣に、我が広瀬家と久美子の相川家の一軒家が建っているのだが、正直なところそろそろ建て替えを検討しなければならないほどボロかった。
そこで、両方の家にも高威力の治癒魔法をかけて新築同然にしておく。
家が新しいっていいよな。
「これでいいですか?」
「大満足だ」
「しかしながら、まだお主にはやってもらいたいことがある」
「明日の放課後も頼むぞ」
「はい……」
せっかく異世界で得た力だが、その利用方法が若干セコイような……。
とはいえ、悪霊退治ばかりもどうかと思うし、今はこれでいいような気もする俺であった。
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