第3話 この日に戻れるなら私はきっと何でもするだろう

「えっ、準備室あっちだけど?」

「いいから」

 ハルトが私の手を握って、地学室に入る。

 私は初めて触れた手にドキッとして、硬直して一緒に地学室に入るが、恥ずかしさと、戸惑いで思わずその手を払ってしまう。


「なっ、なんなのよ」

「・・・ごめん」

 ハルトがショックな顔をして謝る。


「それで・・・こんなところに連れてきて・・・愛の告白とか・・・?」

 笑いながらハルトを茶化す。

「・・・」

「ちょっと、なんか言ってよ」


「文系の授業はどう?」

「えっ?」

 突拍子もない内容に私はびっくりする。

「まぁ・・・楽しい?点数取らないとって思うと、嫌だなって思うときあるけど。ハルトは?」

「うん。研究する上で必要な知識と思えば頑張れるって感じ」

「ふ~ん。やっぱり、ハルトは凄いね」

 目標がはっきりしてるハルト、どこかふわふわしている私。

 

 対照的だ。


「この前の学年テスト何位くらいだった?」

「う~ん。50番代だったかな」

「やっぱりすごいじゃん。私なんて、200番台だよ。平均よりも低かったし」

「まだ、受験まで時間あるし、ミサキなら大丈夫だよ」

 優しい言葉、優しい笑顔。

「ありがと」


「それで・・・さっ」

「うん」

 ようやく本題を話そうとするハルト。

「なんか、文系と理系に分かれてから、クラスってあってないようなもんじゃん?」

「そうだね」

「なんか、この頃。ミサキと理由がないと話すこともなくなって・・・さっ」

 ハルトが拳をぐっと強く握りしめる。

「俺、このままじゃ、嫌だなって」

 私の心臓は人生で最も鼓動が速くなるのを感じる。


「俺、お前のことが好きだ。付き合ってほしい」


 世界の全てが止まった気がした。


 そして私の速くなった鼓動も。


 私は目の間の事実が信じられなかった。

「えっ?」

 私は冗談でしょ?って顔でハルトの顔を見てしまう。


「本気?」

「あぁ・・・ずっと、好きだった」

「へぇ・・・」

 私は髪をいじりながら、目を逸らしてしまう。

(駄目だ、私には溢れる過ぎるこの気持ちを防ぎきれない)

 私は自分が平然を装う。普通の声が出ているのか。きっとハルトは私の顔をまっすぐ見ているのだろう。こんなことなら、トイレで鏡を見て、整えてくれば良かった。


「先生が呼んでるって言うのは嘘だったの」

「あぁ・・・」

「ふっ、嘘までついて」

(あっ、こんなことを言いたいんじゃないのに)

「ごめん」

「冗談きついって」

 緊張を緩和するかのように笑ってしまう。

(ゆっくりでいいから、この気持ちを消化しないと)

「急に言われるとか困惑するし。それに、こんな場所でとか・・・ないわ~、ないない」


 余裕を作りたいと思ってできるドラマのヒロインのようにからかおうとした。けれど、どこか嫌味っぽく言ってしまっている自分。

「でも・・・」

「もういい!!」

 私の言葉にかぶせるようにハルトが声を荒げる。

(あっ・・・)

 初めてのハルトの大声、ハルトの切なそうな顔。

「もういい。ミサキの気持ちは・・・わかった。ありがとう」

 悲しそうな笑顔をして、ハルトは走って行ってしまう。

 

 私は色々なことがありすぎて、色々な感情が溢れて、整理できずにその場から動くことができなかった。

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