第2話 星と文字が繋がる日
「ねぇ、なんで私呼んだの?市川君とか仲いいじゃん」
「あいつは・・・部活あるし」
(なんだ、頼む相手がいなかったからか)
私達は理科研究室がある中央棟の3階へ向かう。3階は普通教室はなく、研究室と理科室などの特別教室しかないため、ほとんど人がいない。去年までは科学部があったがそれも潰れてしまった。
「まさか、天文学部の手伝いじゃないでしょうね?」
「・・・違うよ」
「あっ、今。間があった~。図星でしょ」
「・・・」
そう、私は帰宅部。ハルトは天文学部。私が彼に恋をしたのもそれが理由だ。
―――2年前
文化祭の準備で夜遅くまで学校に残って帰ろうとしていた時、望遠鏡を見ているハルトを見つけた。薄暗い中、私にはその横顔が眩しく見えた。
「な~にしてんの~ハルト君」
私は冗談を言いながら、ハルトに近づく。
「なんだ、ミサキか」
一瞬びっくりした顔をした顔が、私だとわかると穏やかな笑顔に変わる。
「のぞき?」
私はニヤニヤしながら、冷やかす。
「ミサキも見るか?」
私の冗談をスルーして、望遠鏡のレンズを見るように場所を開けてくれるハルト。
「えーーっ、すごい・・・」
綺麗に映る星にリング。教科書で見るよりも自分の目でレンズを通して見る星は今にも動き出しそうな生命力を感じた。
「すごいだろ?」
私の耳元で囁くハルト。
「これっ、何の星?」
「なんだと思う?」
「えーっ、わかんない。木星?」
「正解」
「やった!!」
嬉しくなって、ハルトの顔を見る。近くで、優しく見守る笑顔が間近にあった。私はドキドキしてしまう。ただのクラスメイトにこんなにはしゃぐところを見せてしまうなんて恥ずかしい。
「月とかも綺麗だけど、今日は新月だから・・・。今度はこれなんてどうかな」
望遠鏡を嬉しそうに調整するハルト。
(へぇ・・・こんな顔もするんだ。ハルト君)
「どうぞ」
「うん・・・」
ちょっと照れてしまった私ははしゃぎすぎないようにまたレンズを覗かせてもらう。
「うわぁ~~~。これもきれい」
「だろ?」
「ねぇ、ハルト君のおすすめの星って何?」
「う~ん、金星かな?」
「どこにあるの?」
「中学で習わなかった?明けの明星とか宵の明星とかさ」
「あ~、やった、やった。懐かしいね。そっか、今の時間は見れないんだ」
「そっ」
「やっぱり、金星も綺麗なの?」
「う~ん。美の星だからね」
私はレンズで星を見るのを止めて、ハルトの顔を見る。
「俺さ、星も好きなんだけど、神話とかも好きでさ。金星って美の女神ヴィーナスの星なんだ」
「あ~、書いてあったかも。教科書に」
「なんかさ、金星も一番輝く女の子も直視できないっていうかさ、その輝く横顔しか見れないって・・・なんか素敵だなって」
照れ臭そうに空を見て話すハルト。
「へぇ・・・意外とハルト君ってロマンチストなんだね」
「ごめん、ちょっと嬉しくなっちゃって」
はにかんで笑うハルトのこの顔を一生忘れることはないだろう。
「ハルト君は理系?」
「ん?ん~、悩んでるんだ。星も好きだから天文学も好きだし、でも、神話とかの文学も好きなんだよね・・・」
困ったように笑うハルト。
「数学は得意だけど、それで決めるのも違うと思ってる。どっちが好きか、ちゃんとそれで決めようかなって感じ」
「じゃ、私が文系行って神話とか教えてあげる。だから、またハルト君は星を私に教えて。それで、ウィンウィン」
「ミサキ・・・」
「ねっ?」
私は自分の妙案を自信満々に伝える。
「進路は真剣に考えた方が・・・いいと思うよ」
「あ~、急にリアリストになったぁ!」
私は思わずハルトの腕の袖を揺らす。
「ふふふっ。ごめんごめん」
満面の笑みで笑うハルト。
「私、本とか好きだし・・・」
「じゃあ、ミサキ。俺はいつでも星見せてあげるからさ。まぁ・・・素敵な話があったら、教えてくれるかい?」
ハルトはポケットからスマホを出す。
「・・・考えておく」
私もバックからスマホを出した。
この日から、ハルトは私にとって、特別な人になった―――
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