第35話

 俺はダンジョン内で起こった出来事を家で家族に話した。


 ばあちゃんの見解を聞きたいと思ったんだよね。俺なんかよりも、当然この世界のことには詳しいはずで、何か知ってるんじゃないかと思ったからだ。




「はぁー。そんなことがあったのかい。大変だったね……」




 ばあちゃんは話を聞くとすぐにため息をつきながら頭を抱えた。


 ただ、俺たちが考えた見解については何にも分からないとのことだった。




「召喚術の為に使った陣を残しておくことはあっても、そんなことになったって話は聞かないね。ただ、それは今回の事故の様な状況が簡単にやってこないってことだと思うね。今回のは、召喚陣を書いた術者の実力と、書かれてから丸一日人がダンジョン内のその階層に入らなかったっていう状況と、たまたま魔石がそこにあったっていう状況が絡まりあって起こったことみたいだからね……」




 ばあちゃんも悩んでいる。


 ただ、そうか。


 普通、ダンジョン内に丸一日誰も入らないってこと自体がそんなに起こることじゃないんだ。


 恐らく、人が入ったら魔法を使う。


 魔法を使ったら、あそこにある魔力の流れも別のものになっていて、ゴーレムは生み出されなかったのかもしれない。


 ということは、本当に様々な状況がうまく組み合わさることによって起こった事故ってことか……。




「ただ、まぁ今の話だったら人為的に状況を再現することも出来そうではあるし、ちゃんとした報告を上げれば研究も行われるんじゃないかね?今度アウグストの家に招かれたときに話してみるといいよ。あいつにも喜ばれるんじゃないかい?」




 そっか。アウグスト様に離せば色々研究してくれるかも知れないよな。


 というか、最近は話題も少なくなってきたし、丁度いいかも……ただ、俺だけの功績みたいにしちゃうのは悪いよな……。


 ミンクにも聞いてみようっと。




「しかし、ガーディアンも倒しちまうとはね。あれは破壊しづらい場所に魔石が組み込まれてるのに、よくやったね」




 ばあちゃんは当然ガーディアンの機構を知っているようだ。


 一時期開発者に共同開発しないかと誘われたこともあるって話だから、当然か。




「いや、最初は全然分からなかったよ。ほんとうに偶然見つけただけで……」




「それでもたいしたもんだよ。今度、あいつに会ったときの土産話ができたってもんだ」




 あいつっていうのは多分開発者のことだろう。ばあちゃんの知り合いがどれだけ多いのか、ピンとこないところあるよな。


 いや、そもそもばあちゃん自体が有名人だから、そんな人と普通に話している時点で結構な大事だろうけど。




 それから、この訓練の話をいくつかして、今日は早めの就寝ということになった。


 久しぶりの家のベッドは最高だったね。別に、ダンジョン内もそれほど悪い環境だったわけじゃないけど、やっぱし自宅には勝てない。


 当たり前か。






 次の日、正式に4年生になった俺たちは、受験に関する説明を受けることになっていた。


 どうやら、先生の話によると、5年生に上がる際に先生は誰をどの学校に推薦するかという書類を書くことになっているらしい。




「王都の学院への推薦枠は1名。領都の学院への推薦枠は3名となっています。当然、推薦を受けるのは希望者だけだから、別にその枠を使わなきゃいけないってことではありません。だから、4年生時点でやっぱり受けたくないってなっても問題ないからね」




 そう言って笑う。


 ただ、俺たちの中で受けたくないってなるやつはいなさそうだよな。




「推薦に関しては、希望者を募って枠よりも多い人数が希望するようだったら、事前にその希望者で競ってもらうことになります。その内容に関してはこちらに任されてるんだけど……私としては話し合いでなんとか絞ってほしいと思っています」




 ははぁ……。話し合い。




「今の時点では王都の学院への推薦枠の行使を希望するのはヴォルクス君とミンク君の2人。でも、2人とも成績に関しては推薦するのに十分。だから、どちらを推薦するのも私としては問題ないの。でも、ここまで仲良くやってきたんだから、ここでいきなり争うっていうのもね……。だから、2人には4年生の間にしっかりと話し合ってお互い納得する形でどちらが推薦を受けるかを決めてください。どうしても決められないというのであれば、こちらが決めるけどね……」




「いいですよ。先生。分かりました。4年生を使って話し合いで決めます」




「うん。僕もいいよ。ヴォルクス君に譲ってもいいって言われるように1年間頑張る」




 なんか、ただ戦って決めるとかよりも面白そうだ。お互い納得できる形になるだろうし、1年間使ってゆっくり決め方を考えていこうっと。




「試験では、筆記試験、実技試験、面接試験の3つが行われます。筆記試験は普通の学問に関しての問題が出題されます。これは、それほど難しくないからたぶん大丈夫。みんなの成績だったら……リック君はちょっと頑張って勉強しようか」




 そう言って先生が苦笑する。


 リックは恥ずかしそうにしている。




「いや、俺も頑張るから!……みんな、色々教えてくれ……」




 リックの言葉に全員で笑う。まぁ、人に教えるっていうのは自分の勉強にもなるしね。損にはならないだろうから。




「実技試験に関しては、あの……領都の学院でやったような感じかな。それぞれの科目ごとに課題があるから、それを達成することになります。それは、本当に上から順に評価が決まっていくから、それが本当の勝負ね。多少学力の面で問題があっても実技試験で一定以上の評価が残せたら合格するとも言われています」




 まぁ、強い人がいい学院に進まないっていうのは国の損失みたいなもんだからな。つまり、実技試験で優秀な成績を残せるかどうかが本当の勝負ってことだな。




「じゃあ、心配しなくても大丈夫じゃん!先生。驚かさないでよ!」




 リックはそんなことを言っている。




「けど、実技試験はその年にどれだけの人が集まるかどうかによっても合格ラインが変わるからね。その点、学力に関しては基準が変わらないし。そっちの対策をしておいてしっかり点数を取るのは大切よ」




 なんだかんだで総合点で合格は決まるわけで、その実技の特別枠に入らない限りは普通に上から取られるってことらしい。


 まぁ、そういう理由じゃなくてもリックには勉強させるけどね。


 あまりにも成績が悪いのに受かっちゃったら同じ学院に行くアンリの迷惑になるかもしれないし。




「面接試験は、人物試験みたいなものね。学院に通うのに必要なマナーや常識や対人能力が身についているかを確認するための試験。まぁ、これに関してはみんななら大丈夫かな」




 ということらしい。


 となると、俺たちの中での課題は、学力で最低レベルの点数を取れるようにしておきつつ、実技試験で最高レベルまでの成績を残せるようにするって感じかな。


 まぁ、基本的には今までと同じように生活しながら、朝練に勉強の時間も入れるか?


 それと、俺とミンクでの話し合いか。


 実際、どういう風に決めていくかも大事だし……あっ。もう一つ聞いておきたいことがあったんだ。




「先生!推薦じゃなくて一般入試っていうのもあると思うんですけど、それはどうなんですか?」




 俺の言葉に先生は一瞬固まる。


 一般入試に関して質問されるとは思っていなかったみたい。


 そんなに珍しい受験形式なのかな……。




「えーっと、一般入試に関してはほとんど受けた例がないのよ……。それは、今までの身分がない人とか、他国からの移民なんかが受けるために用意されているものなんだけど、そういう人で領都だったり王都だったりの試験を受ける人ってそんなにいないから……」




 まぁ、それはそうか。普通にちゃんと教育を受けてこなかった人がいきなり王都の学院になんてことにはならないよな。




「えーっと、試験科目は同じだったかな。ただ、合格基準が相当高く設定されているはずよ。詳しいことは少し調べてみないと……。何回その試験が実施されたのかも含めて……。だけど、どうして?」




「いや、ミンクが推薦を受けるってことになったら俺が一般試験を受けるっていうのも考えた方がいいかもなって思って」




 そう。それは昨日寝る前に少し考えたんだ。


 ミンクと俺が争ってどちらかが受けるよりも、2人受ける道があるならそれを使った方がいいんじゃないかって。


 一般入試の難易度が分かれば対策だってできる。俺は学力に関しても実技に関しても自信はあるから、そう簡単に不合格になるつもりはないしね。




「……ヴォルクス君。そういうので譲ったって感じになるの、僕は嫌だよ」




 ミンクが俺の言葉に強い感じで言い返してきた。




「え……?」




「僕は、譲られるにしてもしっかり実力を認めてもらってからの方がいい。だから、一般入試について考えるのもいいけど、真剣に僕の実力を見てほしいな」




 ミンクは強い目で俺を見ている。


 こんな強い目で見られたのは初めてだ。


 真剣に言っているのが伝わってくる。




「分かった。その辺のことも含めて、1年間2人でよく話し合って決めた方がよさそうだな」




「うん。お願い」




「分かりました。じゃあ、私も一般入試について詳しく調べてみるし、担当者に確認もしてみます。だけど、そのことを決める前に2人でゆっくり話し合って、結論を出してね」




「「はい!」」




 俺たちは声をそろえてうなずいた。


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