第34話
とりあえず、最初に仕掛けるのは奇襲だ。
基本的に身体が土でできているゴーレムは風魔法や水魔法には弱いはず。
ただ、相手がミンクのゴーレムということになると、水魔法は自身の身体を泥に変えてしまうから危険。
まずは風魔法からだ。
俺は、空間魔法との融合魔法陣精製を、ゴーレムの真上で行い、すぐに風魔法を浴びせることにする。
相手に気づかれないうちに使用するスピードが重要。
俺は集中力を高めて、全ての魔法を一気に展開することにする。
「いくぞ?」
全員に対してそう話しかける。全員、俺が魔法を使うと同時に襲いかかる予定だ。
「魔法陣精製!」
一気に全ての魔法を行うため、複合魔法で行うことにする。魔力は一気に使うけれど、それこそ出し惜しみしていられない。
ゴーレムの真上に出来上がる魔法陣とそれによって発生するつむじ風。
巻き込まれて、ゴーレムが苦しんでいるのが見える。
よし。成功だ!
その瞬間に、アンリが矢を一気に放つ。
今回のために準備した矢はここで使い切るつもりでいくつもりだ。
一発目、二発目はしっかりとゴーレムの身体を貫く。
が、三発目は止められてしまった。
俺の魔法が切れたんだ。
「くっ……。あれだけの魔石粉じゃあこのぐらいの時間が限界か……」
魔石粉の量によって魔法の出力の時間も威力も調整可能なのが魔法陣の魅力だけど、それは同時に短所でもある。
魔法が止まった様子を見て、リックとセルファが駆け出す。
ミンクのゴーレムと一番戦っている2人だ。同じゴーレムなら強くなっていたとしてもある程度戦い方は分かるだろう。
リックは素早く剣を抜き去り、その剣を投げた!
「アンリ!今だ!!」
リックの剣を追い抜くように二本の矢がゴーレムに迫る。
その二本の矢を受け止めるゴーレム。だが、そのせいで剣を捕らえられない。
しっかりとリックが投げた剣はゴーレムの片方の眼に突き刺さる。
「よし!うまくいった!」
あのゴーレムは、普通に眼で敵を観測するはず。それは、ミンクの予想だった。
召喚術を使用する際にミンクはそういうゴーレを想定しながら作っている。
更に、それほど知能もあるわけではない。自分に来る矢をさばくのに必死になると、後から来たものはおろそかになるのは当然と言えた。
その隙をついて、セルファが攻撃を仕掛ける。素早くゴーレムの背後に回っていたセルファはそのままゴーレムの身体を伝って上へと登りもう片方の眼を……
「危ない!」
セルファの攻撃に対して、手で払おうとしているゴーレムの姿が見える。
瞬間、セルファの姿がその場から消える。
え?どういうこと?
「大丈夫だよ。ヴォルクス君!」
声に振り向くと、ミンクの隣にセルファがいる。
「『他者転移』を夜のうちに使えるようにしておいたんだ」
ミンクはそう言うと誇らしげ。
『他者転移』はその名の通り他者をその場から移動する魔法だ。
今のミンクだと少し難しいはずだし、そもそも魔力の消費も大きいだろうに……。
ただ、その瞬間にできた隙はありがたい。
風魔法が効くことは分かった。
そのまま一気に持ってきた魔石粉を全て使った最大出力の魔法陣を作り出す。
これだけの量だと、俺が普通に魔法を使うよりも十分強い魔法を放つことが出来る。
魔石粉をケチってなんかいられない!
「魔法陣精製!」
俺はもう一度、魔法を唱えると、一気にゴーレムの身体を切り刻んでいく。
その間に、アンリも矢を浴びせるし、ミンクも追加で風魔法を使ってくれている。
「よし!このままこのまま……」
その状態でいた数十秒がとてつもなく長く感じられた、が。やがて、ゴーレムの動きは止まった。
「倒した……かな?」
不安だからまだ魔法は止めない。ただ、明らかに動かなくなっている。
俺は魔法を止めると、魔力を感知する。
ゴーレムの魔力は……感じられない……。
「やったー!」
とりあえず倒したらしい。
誰にも怪我がなくて本当によかった。
めちゃくちゃな魔法の使い方をしたから、俺がちょっと疲れてる……ぐら……。
「……クス!ヴォルクス!ヴォルクス!」
アンリの叫んでいる声が聞こえる。
「どうした……?」
俺が目を開けると、アンリが泣き顔で叫んでいた。他のみんなも心配そうに俺を見ている。
どうやら、魔力を使いすぎて倒れてしまったらしい。
「大丈夫なの?大丈夫なの?」
アンリが俺を抱きしめながらそう何度も尋ねる。
「う、うん……」
大丈夫だから、ちょっと離れてくれないかな……恥ずかしい……。
しばらくしてアンリが落ち着いてくれたから、俺はその場で立ち上がることができた。
うん。とりあえず問題なし。本当に魔力を使い過ぎただけだ。
「大丈夫だから!」
すぐにダンジョンを抜けるために歩き出そうとする俺をアンリは止めようとする。だけど、そろそろ行かないと、時間切れになっちゃうんじゃないの?
「時間切れは気にしなくて大丈夫。ここまで順調に来れてたし、そんなに長い時間ヴォルクス君が倒れてたってわけでもないから。アンリちゃんが心配し過ぎてるだけだよ……」
ミンクが、そう言うならそうなんだろう。
「それより……ゴーレムなんだけどさ……」
ミンクが言いづらそうにそう言ってくる。
ん?どうしたんだ?
「あのゴーレムが生まれた原因はもしかしたら僕の召喚陣かもしれない」
ん?どういうことだ……?
「1日目にストームウルフと戦うときにゴーレムを召喚したのを思い出して、そのときに書いた召喚陣のところに行ってみたんだ。そうしたら……」
ミンクの話によると、召喚してのところに行ってみたところ、そこに魔石が置かれていたらしい。
誰が設置したのかは分からない。どこかの魔物がやったのかもしれないし、自然に転がってきたのかもしれない。
ただ、間違いなくその魔石は魔法陣の真ん中に置かれていた。
その魔石と自然の魔力の流れによって、召喚陣が発動。
ダンジョンは魔物が誕生する場所、外よりも、魔力の流れは濃い。その魔力の流れを2日かけてゆっくりゆっくり吸収していってあんなゴーレムを形成したのではないか?
ミンクの見解はそういうものだった。
「なるほど……あるのかもしれないな……」
実際、その辺は上の学校でそういうことを研究している人に確かめないと分からない。だけど、現象としてはあり得ることのように感じた。
魔法陣は、魔石と少しの魔力を込めれば発動する。
召喚陣も魔法陣であることに変わりはない。
そうなると、そういう自然に魔物が召喚されてしまう現象も起こるのかもしれない。
「もしかしたら、ここにいる魔物たちっていうのはそういう風にして生まれたのかもしれないよな……」
ダンジョンからは魔石を採掘することもできる。強い魔物のいるダンジョンほど、その魔石の採掘量は多いと聞いたことがある。
自然の地形というのは様々だ。知らないうちに模様が描かれているということもあるだろう。
そうやって自然にできた魔法陣のところに自然にできた魔石が集まって……。
考えすぎというわけではないように思える。
実際に、目の前に誰も召喚していないゴーレムが現れたことで、むしろ説得力が増したんじゃないかと思える。
「……なんか、面白いな!」
危険ではあったけれど、俺はそう感じた。
解明されていない、世界の神秘に触れたって感じがする。
実際、その辺がどうなのか、もう少し色々と確かめてみたい気がする。
時間と魔石があれば、今の環境を再現することも出来るよな……。
「危ないことはやめてね!」
アンリが俺に釘を刺してくる。
さすが、俺が何を考えているかはお見通しらしい。
「ま、まぁ……じゃあ帰ろうか?」
俺が余計なことを考えられるぐらいに元気になった様子を見て、アンリは安心したのか、動くことを認めてくれた。
それから、俺たちはそのまま外に出た。
外に出るまで魔物の発生もなし。
あれだけのゴーレムを作り出すのにダンジョン内の魔力が大量に使われたということなのかも知れない。
ミンクの見解が正しいならばそういう可能性は大いにある気がした。
外に出ると、先生が待っていた。
心配している様子はない。
「どうでしたか?修了召喚は持ち帰りましたか?」
そう尋ねてくる先生に俺たちは修了書を広げて見せる。
「おお!おめでとう!これで、5人とも3年生は修了となります。ところでガーディアンは……」
「もちろん、倒したぜ!」
リックが誇らしげだ。
「そう……やっぱり……」
先生はそれほど驚いていない。
俺たちがガーディアンを倒したいって言ってたのも先生は把握しているからね。
「じゃあ、私はこれからガーディアンの回収について学校へ相談に行かなければいけないので、みんなはここで解散です!家に帰るまでが訓練ですよ!」
なんか、前世で聞いたことのあるようなセリフだ。
どこでも先生の言うことっていうのはおんなじなんだな……。
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