第33話
1人での見張り。
これは思った以上の成果を上げた。
まず、一人一人の睡眠時間が長くなるし、一人一人の見張りの時間が短くて済む。そうすることで、集中力が上がったように思う。
それと、疲れもしっかりと取ることができた。まぁ、後は帰るだけだし、ここまで来た道を戻るだけだと思えばさほど心配があるわけではない。だけど、しっかりと疲れが取れるのはいいことだとは思う。
元気な状態で戻って、しかもガーディアンを倒したという実績を残していれば、かなり評価が高まると思う。
こういうところでの評価は当然受験に生きてくる。俺が受けることになったとしても、ミンクが受けることになったとしても、加点項目が多いのはいいことだからね。
しかし、ミンクがあんなことを言って来るなんて本当に驚いた。
気は弱いけど積極的な面も多いんだよな。ミンクは。
俺としてはライバルが誕生したってことでうかうかしてはいられない。
見張りの時間を使って、空中魔法陣の生成のスピードを速められるように色々挑戦してみた。まだ上手くいったわけではないけれど、そのうち相当素早く作り出せるようになるんじゃないかと思う。
今後は朝練のやり方なんかも考えないとな。
どういう形式で一つの推薦枠を争うことになるかは分からないけど、直接対決することになるかもしれないからね。
手の内を明かさないように気をつけながらやることになりそう。
そんなことを考えながら迎えた最終日の朝。
俺たちは軽い朝食を済ませるとすぐに出発した。
正直、ここでやることを終わらせてしまってから、もうとっとと出たくなってしまったからだ。
「普通に太陽の光を浴びたいよね……」
昨日は丸一日ダンジョンの中にいたわけだ。
昨日はガーディアン討伐っていう目標があったからよかったけど、現状はこの暗い環境から外に出たい気持ちでいっぱいだった。
だから、俺たちは素早く地下一階を駆け抜けて地上階にたどり着いていた。
「長いようで短かったけど、もう少しだな!」
「意外と余裕だったよねー」
「死ぬような危険のあるところじゃなかったしね」
「このぐらいなら別にいつでも挑戦できるかもね……!」
それぞれが思い思いに感想を口にする。
なんか、みんなもう終わったみたいな空気感じゃない?
いや、俺ももう終わった気になってるけどさ。ほら、大抵こういうときに限って……。
そんなことを思った俺だったけれど、この後、俺の悪い予想は的中することになる……。
俺たちが、地上階に入って少し行ったとき、セルファが違和感を口にした。
「なんか、異様に魔物の数が少ないように思うんだけど……」
セルファの言う通りだった。
ここまで地上階に来てから一度も魔物に出会っていない。
ここまで魔物と遭遇しないのはこの3日間で初めてのことだった。
何かがおかしい……。
「ちょっと待って。感知してみる」
俺はそう言ってみんなに止まってもらうと、感知を使用する。
「……え?」
とんでもない魔力の塊が前方にあるのがわかる。
ガーディアンは機械人形みたいなものだったから、直接的な魔力量では判断できないけれど、もしかしたら、ガーディアンよりも強いかもしれない。
「どうしたのヴォルクス?」
アンリの問いかけにもすぐには反応できない。
ここまでの魔力を持った魔物を相手にするとなると……。大丈夫か?
「う……うん。みんな、ちょっと動かないで。先を見てくる」
俺はそう言ってみんなをその場に留まらせると、魔力を感じた方向に向かうことにする。
ここまで強大な魔力だ。いったん様子を見てからじゃないと戦うのは無理だと思った。
「……なっ……ゴーレム……?」
魔力を感じた場所に行くとその場にいるのは明らかにゴーレムだった。
姿はミンクが普段召喚しているものに近い。
ただ、その巨大さ、魔力の多さは桁違いの大きさだ。
「これは一体……」
野生のゴーレムについては、基本的に存在しないことになっているはず。
存在する場合も術者が死んだものと推定されているという話だったはずだ。
間違いなく一昨日はこんなゴーレムいなかった。それに、この2日間は俺たちの訓練に使っているからこのダンジョンは立ち入り禁止になっているはず。
他の人が来て死にようがない。
どういうことだ……?
俺は慌てて来た道を戻ると、みんなに今見てきたことを伝えた。
「ゴーレムがどうして……?」
「いや、分かんない。ただ、あれを避けて行くことは出来ない……」
完全に、俺たちの行く手を遮るように存在しているゴーレムだった。
あいつを倒さなければ出口にたどり着くことすらできない。
「大丈夫だろ!俺たちはガーディアンだって倒せたんだからさ!」
リックは調子のいいことを言うけれど、そんな話ではない。
ガーディアンは弱点がどこかは分からないにしてもあるということだけは確実に分かっていた。
けれど、あのゴーレムはそうじゃない。
結局、俺たちはガーディアンに関しても魔石を壊したから倒せただけ。
あのまま魔石を壊さない方法では倒せなかったかもしれない。
でも、今回は完全に倒して消滅させなければいけない。
全力で臨まなければ不可能だと思う。
「僕のゴーレムに似てるっていうのは本当?」
ミンクがそう尋ねてくる。
そうか!ミンクならあのゴーレムの弱点が分かるかもしれない。
「ああ。間違いない。何度も見てるからな。ただ、ミンクのやつよりも相当巨大だったけど……」
「そう……。うーん……。僕のゴーレムだとすると、スピードをは速いけど耐久性はそれほどでもないし攻撃力も強くない。だけど、それも強化されてるとなると、果たして弱点があるのかどうか……」
マジか。ミンクが作ったゴーレムに似ていても弱点が分からないってことか。
「ただ、どちらにしても戦わなきゃいけないんでしょ?それだったら、全力でやらないと……」
アンリの言う通りだ。
俺の魔石粉もまだ余ってるし、戦う力は全然ある。
昨夜ゆっくり休めたし、ここまでみんなほとんど戦ってないことから体力は有り余っている。
全力で挑めば倒せない相手ではない……はずだ。
「魔物が少ないっていうのもそいつの仕業なんだよね……。そいつが殺しているのかな?」
セルファが何となくと言った感じでそう尋ねるが、誰にも答えはわからない。
そもそも、ゴーレムの存在があること自体が謎なわけで、そこで起こっている現象の答えなんて導き出しようがない。
「あー、ごめん。どうせ倒すしかないんだもんね。その辺のことはどうでもいいよね」
どうでもいいってわけじゃないけど、今気にすることではないのは確かだ。
生き残れたら、色々調べる必要があるのは間違いないけどね……。
「とりあえず、あいつの近くへみんなで行ってみよう。それから万全の準備を整えて戦うことにしよう」
俺はそう言ってみんなの顔を見回す。
緊張しているように見えるけど、ここまでの成功体験が効いているのか、みんなビビっているわけではなさそうだ。
悪くない。
「あ……。確かに僕のゴーレムに似てるね……。というより、あれは僕のゴーレムだよ……」
みんなでゴーレムの見える位置にまで行くと、ミンクがそう呟く。
やっぱりそうなのか……。
どうして、ミンクのゴーレムの強化版が野生のゴーレムに……?
「ミンクのゴーレムなんだったらミンクが操れるんじゃねぇの?」
リックがそう聞いてくるけど、ミンクは首を振る。
「僕の魔力との繋がりはないから無理だよ。
あったとしてもあんなに強そうなのは扱えないで倒れちゃう」
そりゃそうだ。あれだけのもの、操ろうとしただけで魔力不足になってしまうだろう。
となると、やっぱり戦わなければいけないんだよな……。
「あそこって確か1日目にストームウルフと戦ったところの近くじゃない?」
アンリが何かに気づいたようにそう言う。
確かに、この辺だった気がする。
「それが……?」
「いや、あのときミンクのゴーレム召喚してたじゃない。それが何かの原因なのかなって思って」
なるほど……。
それはそうかもしれないけれど、その辺も後で考えよう。
「とりあえず、今は全力であいつを倒すことだけを考えよう。みんな。最初から出し惜しみしないで全力で行くよ!」
全員が俺の言葉にうなずく。
よし。戦闘開始だ…。
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