第32話
ガーディアンを倒した俺たちは、そのまま宝箱の中身を手に入れる。
中に入っているのは、簡単な証明書。そこには、『ここに、3年生の過程を修了したことを証明します』と書かれている。
これが終われば、3年生も終わりということらしい。
「いやー、ガーディアンを倒して手に入れる証明書は嬉しさが半端ないな!」
リックが嬉しそうにそう言う。
実際、それはそうだな。
倒してなかったら、必死で逃げて手にしていたであろう証明書を俺たちは余裕を持って手にしている。その事実に、確かにテンションは上がる。
「だけど、本当にコアを見つけられてよかったよねー」
「ヴォルクスが無理やり転ばさなかったらあんなことにはなってなかっただろうから、ヴォルクスのおかげだね!」
アンリのストレートな褒め言葉は、いつも少し照れ臭い。
「でも、みんなが頑張ってくれたおかげだから」
「そうかな……僕はそんなに今回活躍できなかった気がする……」
「そんなことないって。ミンクが最初に強い光を浴びせてなかったら、音で感知してるってことにも気づきづらかっただろうし、ゴーレムには助けられたよ!」
実際、ミンクがいなかったら、全員が無事な状態だったかどうかはわからない。ミンクのサポートはいつもありがたいんだよな。本当に。
「……そうかな。僕、本当にこの証明書もらっていいのかな……」
「いいに決まってんだろ!俺たちは全員で頑張ったからここまで来れたんだよ!ミンクがいなかったら、最初のストームウルフでボロボロになって先生に泣きついてたかもしれないからな!」
リックがそう言って笑う。
そう。たとえ、ガーディアン戦での活躍が俺ほどにはなかったとしても、ここまで来られたのはみんなが協力した結果なのは間違いない。
この中の誰か1人でも欠けていたら、絶対にここまで来ることなんて出来なかった。だから、証明書はみんなのものだ。
「みんな……ありがとう。じゃあ、僕も間違いなくもらうね……」
ミンクはそう言って自分の証明書を手に取る。
よし!これで、とりあえず目的は達成!
後は、今日一晩ダンジョン内で過ごしてから、帰るだけだ!
それから、戻る道は、今までとほとんど変わらない形で進むことができた。
というか、全員元気に溢れてた。帰りの方が疲れてるから大変だろうと思ってたんだけど、そんなことなかったね。
みんな、ガーディアンと戦って勝ったっていう成功体験を得たのが大きいんだろうね。
やっぱし、何事も成功体験だよな……。
昨日失敗して今朝には落ち込んでいたのがウソみたいだ。
特に何の障害もなく、昨日と同じキャンプスペースに戻ってくる。
今日はこのままここでもう一晩寝て、明日地上に戻ってダンジョンを抜ければ、この訓練も終了!完全に3年生は修了ということになる。
「残り2年か……」
ミンクが突然そう呟いた。
アンリも見張りの時間のときに似たような感じだったけど、ミンクも感慨みたいなものがあるんだろうか。
あ、そうだ。昨日のアンリとの話。ここでみんなに聞いてみようかな。
「みんなはさ、中等学院はどうするつもり?」
「どうするつもりってどういうこと?」
俺の突然の問いかけにセルファが不思議そうな顔をする。
「ほら、俺は王都の学院を受験するつもりだけどさ、みんなはどうするつもりなのかなって思って」
「私は1番近い街のでいいかなぁ。別に高等学院まで進むつもりはないし、中等学院卒業したら、そのまま働くよ」
セルファはそうなのか。そこは、アンリと同じように領都の学院を目指すんじゃないかと思ってたけど……。
「俺は、領都の学院を目指してるんだよね……。ライナーに聞いたら、あいつは王都の学院を受けるらしいんだけどさ、俺だったら領都の学院ぐらいなら受かるんじゃないかって言ってくれてるんだ」
リックは少し恥ずかしそうにそう言う。
そっか。リックはよく領都言ってるからな。
そういう話もライナーとしてるんだ。ただ、そうなるとリックはそのままライナーと一緒にいた方が受験にはよさそうだよな。
俺は全員で訓練できればって思ってたけど、そういうわけでもなさそうな気がする。
「僕は……王都の学院を目指したい……」
ミンクはそんなことを言い出した。
「え……?だけど……」
そのミンクの言葉に俺は戸惑ってしまう。
「うん。うちの学院から王都の学院への推薦は1人しか受け付けてくれないって話でしょ。分かってるんだけどさ。別にヴォルクス君に挑戦してもいいでしょ?」
「それってつまり、ミンクがヴォルクスのライバルになるってこと?」
アンリが驚いたようにそう言っている。
まぁ、そういうことになるよな。
「一枠をかけた争いってやつか!楽しそうだな!」
リックは自分のことのように楽しそう。
うーん。なるほど。そういう話になるとは思ってもみなかったな。
王都の学院の受験は、王国民は基本的に初等学院から推薦を受けたものが集められる。
ただ、その推薦を受けることの出来る枠というのが各学院の規模ごとに設定されているんだよね。
例えば領都の学院だったら5人ぐらいは受け入れてもらえるはず。
でも、うちの学院の規模だと1人が限界だ。
他国の学生や、何らかの原因で初等学院に通っていない生徒を受け入れるための一般入試っていうのもあるにはあるけれど、そちらの方が当然狭き門。全世界から優秀な人材が集まってくるんだから、普通王国の人はそれを受けはしない。
当然、俺はうちの学院からの推薦枠を使って王都の学院を受けるつもりでいた。
だけど、もう1人志望者がいるとなると話は別だ。
まず4年生の段階で、推薦入試の志望者は志望届を出すことになってる。
その際、1人しかいなかったらその人に決定。
0人って年もうちの学院だと多いみたい。
「そうなると、4年の最後には俺とミンクで学内選考を戦わなきゃいけないよな……」
志望者が2人以上いた場合は話が変わってくる。
どちらを推薦するかを決めなければならないけれど、その際、今までの成績みたいなものは全く考慮されない。
その場での一発勝負。
普通の学問のテストに戦闘のテスト。
様々なテストを受け、その際の成績優秀者が推薦を受けることになる。
実際、ミンクも相当実力を伸ばしているし、その場で争ってみないと結果的にどっちの勝ちになるのか分からないような気がする。
なかなか厳しい勝負になりそう。
「そうだね。僕はヴォルクス君に勝って自信をつけたいっていう気持ちもあってさ。ヴォルクス君に勝てるだけの力があればきっと王都の学院にも合格できるだろうし……」
推薦入試とは言っても、王国中から集まってくるから、全員が全員合格出来るわけじゃない。
実際倍率は20倍ぐらいだって聞いたことがある。
となると、単純計算で俺が王都の学院になれる可能性は四十分の一……。
「それでさ、今日の夜の見張りに関して提案があるんだけど……」
「提案?」
「うん。昨日は2人で見張りの時間を決めてやったけど、今日は1人ずつにしない?僕は、今から1人で戦うっていう意識を持ちたいなって」
へぇ。ミンクがいきなりやる気を出してる。突然どんな心境の変化なんだろう。
「さっき、3年生の修了書をもらったじゃない。僕は自分がもらってもいいのかって本気で思ってたんだけど、もらう資格があるってみんなに言ってもらえた。でも、今でも僕は不安なんだ。本当に大丈夫なのかって。だから、ここで1人で見張りをして、少しは自信をつけたいなって思って。そもそも、ヴォルクス君は1人でやったのに、僕が出来なかったら絶対に勝つことなんて出来ないだろうって思うからさ……」
なるほどね。それはそうか。
俺が出来ることだったらミンクも出来るようにしておかないと、俺と争って勝つことなんて出来ないだろう。だから、昨日俺がやったことぐらい1人でやってみせると。
面白いじゃん。
「いいよ。そうしよう。みんなもそれでいい?」
みんなに顔を向けると、みんなうなずいている。
「俺も領都の学院を受けるわけだし、1人でできるようになるのは必要だよな!」
「私も、領都の学院受けたいからね。私も大丈夫」
「ここで、私はそんなつもりないから反対!なんて言えるわけないでしょ……。ミンクも頑張ってね!」
みんなが同意してくれるなら、もちろん俺からは文句はない。
「危ないことがあったらすぐにみんなを起こすこと。絶対に1人で戦おうとしてはいけない。それをルールにすればたぶん大丈夫だと思う。ただ、1人で見張りは退屈かもしれないけど……」
みんなが俺の言葉に笑う。
退屈ぐらい特に問題はないって。
時間の潰し方なんて人それぞれだしな。
よし!じゃあ、今夜は1人ずつで見張りをすることにしよう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます