街に開いた風穴
「あと一年くらいしか会ってられないのかな」
その帰り道、駅の脇からドラッグストアで買い物でもしようかと歩いていると、あのマンホールの現場に行きつき、夏の終わりを懐かしんだ。まだ昼下がりの冬空は、ここのマンホールが割れていたことなんて覚えていないのかもしれない。
ムギちゃんの帽子が飛んだり、ひったくり犯が消滅したり、変なことばかりが起こる場所だ。私としても、こんな街は引っ越してしかるべきなのかもしれない。いつぞや母親と言い合いをした件も、ある程度は的を射た意見であったと認めるべきか。
ひったくり犯というと、やはりハナさんのこともどうしたものかと悩みに浮上する。彼女が抱えている問題こそ複雑怪奇で、なにをどう解いていけばいいのかも分からない、ゴルディアスの結び目だ。母親をはじめとして家族との関係だって、彼女自身の負担になっていることはたしかだし……。
「私にできることがどれだけあるか」
つくづくなにひとつ救えない私という人間。もっと他人様の役立つことができればいいのだが、あいにく力もなければ知恵もない身だ。せめてとハナさんを家に置いたはいいが、次の一手はまるで思いつかない。これじゃあ「キャッチャー・イン・ザ・ライ」にすらなれやしない。
いつのまにやら補修を終えたらしいマンホールを通りすぎる。だれにお礼を言われたわけでもないのであろう工事のおかげで、ムギちゃんが通ったとして、その小ささを呑みこんだりはしないようだ。
この街に開いた風穴は、すでに塞がって久しいらしい。
「……子供たちも大変だね」
せめて彼女らの代わりに、ため息でも吐いてやらねばやるせない。花が名前の由来となった子たちも、今必死になって問題を解いているのであろう彼女らも、みんなが楽に生きていければいいのに。叶いっこないし、常識的に考えてそうでないと成長もないのだから、やはり本人らががんばるしかない、のかもしれない。
「……努力は買ってでも……ねぇ……」
ならば、こっちも自分のやれることはするしかない。まだ受験が終わったわけでもなく、大学の一般受験や高校受験だって残っているのだ。仕事はまだまだ山積みだ。
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