ゴミかよこいつ。バッカじゃないのか。
「……あんた、本当に誰なの? なにが望み?」
「あなたこそ、以前友達だった相手が通うの塾にまで来て、自転車のタイヤを借りたナイフで切るなんてさ、なにが望みなの?」
多摩川の河川敷で彼女は言った。隣のクラスが彩るべき旗を目の前に、最近疎遠になってしまっている子がいると。
また一歩、ポーチまでにじり寄った。
「返せよ。それはお前たちが持っていていい物じゃない」
まだ全員座っている。行くならここしかない。
足に力を込める。飛べ、そしたら走れ。
黄色めがけて猪突猛進。
机が座ったままの女子によって蹴飛ばされる。
音、すごい音。ポーチが消える。
黒い髪、身体の大きな男子が立ちふさがる。
「どけよ!」
がむしゃらに拳を突き出した。惨めな音が彼のわき腹を打つ。
「はいはい」
大男はそのまま私の右腕を掴んで動けなくさせ、もう片方の腕で胸を打った。
視界が転がり地に着いた。
「……いっで……」
頭を打っただろうか。いや、そこまで派手にやられちゃいない。むしろ尻もちをつく程度に加減されたという事実のほうが情けない。ふりだしに戻る、また入り口付近だ。男も女も全員立ち上がっている。あの茶髪はナイフまで持っていて、黒髪の大男には敵わなさそうで、それでいてまだひとり男子がいる。女子とタイマン張っても勝てるかどうかというところだし、喧嘩の経験も一〇代以降はからっきし。
「尻尾巻いて帰れば? こいつら結構強いと思うよ? 運動部だし」
窓のサッシに体重を預けている女子生徒は、自分の力でもない他人で勝ち誇る。ゴミかよこいつ。バッカじゃないのか。
「チカにはこう言っておいてよ。私といっしょ、不完全燃焼な文化祭になったねって」
床から拾ったポーチを腕にぶら下げている女は、チカさんが駆け抜けようとしている舞台すらあざけ嗤う。怒りが込みあがって、私はもう一度立ち上がる。こいつらが逆上でこんなことをするのなら、私は直情でお返ししてやらねばなるまい。勝てるかどうかなんて関係ない。奇跡くらい起してやる。私はジャンガリアンハムスターを四年近く生かした女だぞ。
「チカさんはあなたが犯人だって、間違いなく気がついていた」
酷烈、喉が震える。脚も。憎しみで歯を鳴らせ。
「でも誰にだってそのことを言わなかったんだ。彼女は自分の演劇が、文化祭がどうなろうとも、不完全燃焼になろうとも、あなたを悪者にしなかった」
四対一。勝てるわけない。
「お前なんかの言葉でチカさんを侮辱できると思うな! あの子は全部分かっていて、それでもこの道を選ぼうとしているんだ! その賢さは、私が一番知っている!」
喚く私に男子三人が前に出てくる。ひとりは絶対に持っていかないと、活路を開くにはまず頭数を減らす……!
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