Ep24:「異次元の強さ」

エィプは物凄いスピードで突進してきた。マク―より幾分か早い気がする。


どうしても避けきれないと感じた瞬間、またしてもユーキはレンに担がれた。


エィプの突進を避けて体制を立て直した後にレンが一言。


「反応が遅いなぁユーキ。強化かけてやるから次からは自分で避けろよ!」


レンが何かを唱えるとマクーの時と同じように目が強化されるのが分かった。


また身体的にも強化されているようで、立ち上がろうとしたときに勢い余ってジャンプしてしまった。


「す、すまん。」


エィプの突進。正直避けれる気がしなかった。気づいた時にはすでに近くまで迫ってきていた。


-これが・・・上級モンスター・・・-


「集中しろ!」


ゼキが激を放った。


ユーキはハッとし、エンハンスされた目でしっかりとエィプを見た。


エィプが手を振りかぶっている。


「来るぞ!!」


ゼキが言い放つ。


しかし、何が来るというのだ。先程避けた際に、エィプはそのまま80M程度突き進み、一行から離れている。


しかしその場で、そのままエィプは腕を振り下ろした。


瞬間エンハンスされた目が何かを捉えた。空を”何か"が進んで来る。


ユーキの本能が告げていた。


"避けろ!"


考えるよりも先にユーキの体が避けていた。その"何か”はユーキやショウたちを逸れ、後ろに広がる木々を十数本なぎ倒した。


その威力は、生身であれば確実に死ぬと、容易に想像ができるものであった。


「あれだけ離れた位置からこれだけの威力。嫌んなるな。」


ゼキの頬にはしっかりと汗が流れていた。キャラ故か・・・余裕のない表情のゼキを見ると余計に不安になった。


「おそらくだけど・・・」


ショウが切り出す。


「アイツは並外れた腕力で、ただ手を振るうだけで"鎌鼬"を発生させたんだろう。」


その常軌を逸した腕力は、振り下ろすだけで空を切り、そして、遠く離れた対象に裂傷を与えるであろう鎌鼬を生み出したとショウは説明する。


「鎌鼬って。。。漫画やアニメの中だけに存在する技じゃねぇのかよ・・・」


卑怯だと思わさえるその技にユーキは悪態をついてしまう。


「奴は上級のSランクだ。少しでも集中を切ると死ぬぞ。近距離も、遠距離も何でもござれだ。」


そのうえ奴は楽しんでいる。遊んでいるのだ。本気を出せば殺されるのは必至・・・。


どうすればこの場を乗り切れるのか、誰一人命を落とさずやつをどうすれば撒けるのか。


つまり皆どうエィプから逃げ延びるか、それだけを考えていた。


一人を除いては。


「奴がやばいのはわかった!!でも・・・どうやって倒すんだ?俺たちで、俺達だけで倒せるのか・・・??」


ユーキは必死になって聞いたいた。次の攻撃がもうすぐくるかも・・・と考えると、ユーキの頭の中は混乱した。パニックになり始めていた。


しかし答えは帰ってこなかった。


「え・・・?無視すんなよ!・・・・おいったら---」


ユーキが振り返り皆を見ると・・・。


他の3人はユーキを見ていた。じっとユーキを見ている。一様に驚いている顔をしていた。


3人はすぐにユーキから視線を外すと改めてエィプの方に向き直った。


「なるほど。ありがとうユーキ。」


するとショウが突然お礼を言いだした。


「あぁ。確かに。そういうとこだぜユーキ。」


レンが続き。


「すまん。。俺は・・・。」


ゼキに至っては謝罪の言葉が続いた。


ユーキには何がなんだかわからず・・・


「なんだよ急に・・・。気持ち悪いな。集中しろって言ったのはゼキだし、ショウやレンに感謝されるようなことはしてないぞ。むしろ感謝したいくらいだ。・・・!!」


またしても鎌鼬が飛んでくる。強化された目と体のおかげか、ギリギリではあるものの避けることが出来た。


鎌鼬を避けるユーキたちを見てエィプはますます喜んだ。


楽しいのだろう。これほど攻撃しても動き続ける物体が。


「いや、そういうことじゃないよ。」


体制を立て直した後にショウが切り出した。


「俺たちは・・・逃げることを考えていた。如何に効率よく、死者を出さず。」


「あ・・・」


-なるほど。そういう考えをするのか・・・。-


ユーキは考えていた。おそらくショウたちの考え方がこの世界で生き残るためには必要な思考なんだろう。


「けどソレじゃぁ駄目だよな。この先やっていけないよな。」


ゼキが続いた。今更逃げ出そう!とは言える雰囲気でもなく。。。


「初めてのフォーマンセル。みんなで連携して倒すぞ。」


レンも続いた。


そこからは早かった。3人が素早く動き始めた。


-あぁ、これもうだめだ。戦う雰囲気だ。俺も・・・-


「ユーキ!君はマクーのときと同じで弱体をかけることに集中してくれ!奴はマク―と同じで素早さが厄介だ。後はあの腕力。頼んだ!」


(仕方なく)ユーキも期待に答えるように素早く動き始めた。


4人はひたすら動き続けた。横に、縦に。


案の定エィプはごちゃごちゃに動き回ることで、標的を見失っていた。


弱体魔法をかけようと、ユーキは隙を伺っていた。


「ウラぁ!!」


レンが飛び出し、エィプの後頭部に蹴りを加えた。


エィプは突っ伏すように頭から地面に突っ込み、悲鳴みたいな声を上げた。


しっかりレンの蹴りは効いたいたようで、画面にはいくつか擦り傷が出来ており、鼻血を出していた。手では蹴られた後頭部をさすっている。


不意に来た攻撃、遊び相手と思っていた者からの裏切り、色んな感情がエィプの頭に浮かんでは消えていった。


明らかに隙ができたエイプの動きをユーキは逃さない。


-恐怖しかない。でも・・・引き返せない!-


ユーキはこのような状況になった原因が自分にあることを理解しつつ、激しく後悔していた。


しかし勇気を振り絞るように、即座にエィプに近づき弱体魔法をかける。


-以前マクーにかけた時の感覚・・・-


まずは足を弱体させようと、足に魔法をかけた。


当のエィプがパニックになり、その場を動かないから弱体出来たのかはわからない。


しかし、いつ動き出すのかわからないためユーキは動き続ける。弱体出来たことを祈りながら次の行動を実行する。


-次は腕力。やつの両腕に向けて・・・!-


弱体をかけた。


「弱体、かけたぞぉ!」


ユーキは叫ぶ。


「分かった。後は私が防御を下限に・・・!」


ショウが同様に弱体魔法をかけ始める。


ユーキと違いショウは直接エィプに触れて魔法をかけていた。


ショウに触れられた瞬間、エィプの体の毛が逆だった。そして反射的にエィプの体が動いていた。


「ッッ!くっ・・・!」


しかし、ユーキの足への弱体が効いているようで、ショウは紙一重で掴まれずに済んだ。


「ッと。。。危ない・・・助かったユーキ!・・・ゼキ!!」


ショウが叫ぶ。


「任せろ」


するとすぐにゼキが反応した。


ユーキの横を物凄い速さで通り過ぎるゼキ。


ゼキはエィプの懐にスっと潜り込み、下から顎をカチあげた。


「グギッ!」


エィプはたまらず声を上げる。体が宙を舞う。


ゼキの小さい体だからこそできる芸当。見事にきれいに決まっていた。


「響くは雷鳴、落ちるは雷"イカヅチ"。」


ゼキは何かをつぶやきながらカチあげられたエィプに体の方向を向ける。


「神の騒音・・・!"トール・ディン"!!」


バチィッッ!!


ゼキの手から放たれた光は、エィプに命中下瞬間、えげつのない音を発した。


その後、エィプを突き抜けた雷は彼方へと飛んでいき、遠くの方でゴロゴロと雷の音を奏でた。


ボテッと音を立てて、黒焦げになったエィプが地面に落ちてきた。ぐったりしている。


-死んでいる・・・?-


ユーキは確認しようと近づこうとする。


「ハァハァ。。。」


ゼキは魔祖を使い果たしたのか、かなり息が上がっていた。


「やったぞ・・・!」


ユーキが確認に向かう。そしてレンとショウが、ゼキの介護に向かう。その瞬間・・・


ぐるん


奇妙なほどに、関節を無視した動きでエィプは起き上がった。


起き上がり、こちらを見るその顔は、先程までの"楽"の顔ではなかった。


人間とは明らかに違う顔立ち、なのにも関わらず、"怒"の表情であることがはっきりと分かった。


キィいいぃィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィいいイィイィイィイイイいいいいぃィィ!!!!!!


耳をつんざくような叫び声が森中に響いた。胸を手のひらで叩きドラミングをしている。


その叫び声で一時的に四人の耳は使い物にならなくなり、三半規管は狂った。


「うぅッ」


ユーキとゼキは立っていられないほどの目眩を感じ、その場で吐いてしまう。ショウとレンも気分が悪いようで、その場で立ち竦んでしまう。


次の瞬間、ユーキの目には様々なな情報が飛び込んできた。


エィプが消える。そしてゼキの目の前に現れる。全く見えない。


ゼキが蹴り上げられるのが見えた。


吐血をするゼキが見える。


レンが横殴りで吹き飛ばされるのが見えた。


何本か木を突き抜け。気絶するレンが見える。


ショウが首を絞められているのが見えた。


ショウの首があらぬ方向に曲がりそうなのが見える。




・・・そこからの記憶はなかった。

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