Ep23:「守護獣-Ape"エィプ"-」
一行は森の中を進んでいた。
道が無いような場所を進むので、ユーキは不安になった。
しかし、それにしては進むスピードが尋常では無いので、しっかりとした経路なんだろう。
「・・・」
特に喋ることなく約15分程度あるき続けた。
ふと目の前を歩く仮面人達が止まった。
「ここだ。」
ルアは目の前の少しだけ開けた場所を見ていた。地面には転送陣が描かれていた。
「この転送陣を使えば、第二結界の外まで転送される。その後は地図を使用してソーン樹海まで行くといい。」
するとルアと仮面人たちがイソイソと動き始めた。
転送陣を囲むように仮面人、ルアが配置についた。
「始めるぞ。」
そう言うとルアは何かを唱え始めた。ロスト"転送魔法"の呪文だろう。
すると転送陣は淡く輝き始めた。
「さぁ。中にはいれ。一度入ると元に戻れない。やり残した事・・・などは無いと思うが。ソーン樹海という禁断の場所に行くんだ。"決意"くらいは言ったほう収まりがいいんじゃないか?」
ルアはにやけている。
「・・・俺は」
少しの沈黙の後、レンが急に喋りながら前に出た。
「俺は・・・、親父を探しに。親父の真実をこの目で見るために。ソーン樹海はその通過点!待ってろぉ世界!!!」
大声で叫びながらレンが転送陣の中に入っていく。
「私は。私は世界をより知るために。誰にも負けないくらいの知識を身につけるために!そして何より、村を守るために!」
ショウが続いた。転送陣に入っていく。
「おれぁ、まぁ世界のいろんな女の子と出会うために・・・ってところかな。」
そう言うとゼキも転送陣に入っていく。
「嘘をつけ。・・・期待しているよ。」
ルアは転送時に入っていくゼキをしっかりと見ながら言った。
「何でもお見通しだなあ・・・」
少しだけ淡い表情で答えたゼキはそのまま転送陣の中に消えて言った。
「さて。あとは・・・ユーキ。私の願いも抱える君だ。」
ルアの願い。レアさんを探し出すということ。
「なにか決意はあるかい。ソーン樹海へ進むに伴って。」
そう問われたユーキ。少し前から考えていた。
答えは一つだった。
「俺は!元の世界に戻るために!!」
そう言いながらユーキも転送陣に入っていく。
「また会おうね!!」
後ろからルアが叫んでいた。
光がユーキを包んでいく。ユーキの目の前は真っ白になった。
次に景色が見えたのは光りに包まれてからまもなくだった。
すでに他の3人は先に出ていて、ユーキを待っていた。
転送魔法によって転送させられた場所は、開けた場所だった。
少しだけ空気が澄んでいる気がした。
「この開けた場所はまだ結界の中みたいだね。ルアは天の邪鬼だ。」
ショウはすでに地図を広げていた。
「さて、決意表明も済んだところだし・・・早速行こうか。えぇ―っと・・・」
以前と同様に魔祖を地図上に表示させた。
「あっちの方だな。」
ショウはある方向を指差しながら言った。
「オッケェ。じゃぁ早速行こうぜ。」
ゼキは既に歩きだしていた。
「・・・。まぁあれくらい行動的な方が旅は早く進むか・・・。」
ショウも同様に歩き始め、ユーキとレンも続いた。
「んで、ここからこのペースでどれくらいなんだ?」
ゼキがショウに聞いた。
「そうだな。うーんユーキもいるし、歩くペースは上げても休憩は取りたい。」
心配するような表情のショウ。
「いや、俺のことは気にしなくていいよ。ゼキとの訓練で。。。少しは鍛えらえれたと思うから。」
そういうとショウは驚きの表情をしていた。
「そ、そうか。まさかユーキからそう言われるとは。うーん。逞しくなったな?」
「いや、聞かれても。客観的に見て逞しくなったと思われるならうれしいよ。」
「・・では。基本的に長時間の休憩はとらずに移動する。何かしらの用がある場合は適宜言ってくれ。フレキシブルに行こう。」
そのまま歩きながらショウは続ける。
「そうすると、概算ではあるが・・・そうだな。1日半ぐらいで着くんじゃないか?」
「ほー。オーケー。俺は一刻も早くこの島を出て大陸とやらに行きたいんでね。女の子女の子~♫」
スケベな顔つきでそう喋るのは年端も行かぬ子供なのだからたちが悪い。中身は大人とはいえ・・・
子供に対する偏見が出来てしまいそうだったので、ユーキは考えることをやめた。
一行は道を進む。道とは言えない道を。
ショウが持っていた地図を便りに、ソーン樹海までの最短の道のりを夜も関係なく進んでいた。
幸い出てくるモンスターに中級クラス以上はおらず、実践と称して更に経験を積めたユーキであったが。
「はぁ。はぁ・・・」
決して走っている訳では無い。しかし、道ではない道をゆっくりではない速度で進むに連れ、息が切れてきた。
「ぜぇ、ぜぇ・・・」
最初の方は少し疲れてもなんとも無いし、水分休憩や軽食を取る際に回復していた。
「く、くそ。スタミナには自身あったんだけどなぁ・・・」
小さな声でつぶやくように言ったのだが、ゼキには聞こえていたようで・・・
「おい、おい。レアさんもどき。こんなことでへばっているようじゃこの先やってけないぜぇ??」
小さな子供の姿で。しかも鼻に触るような顔つきで・・・ムカつく。
「どーでもいいけどさぁ、俺のことレアさんもどきっていうのやめてくれるか。ルアが俺のことお兄ちゃんっていうのよりもやもやするぞ」
ゼキはユーキの言うことに全く耳を傾けず続ける。
「スタミナは鍛えてないもんなぁ。俺との特訓でさ。」
レンが後に続ける。
「そろそろ休憩しようか?なぁ、ショウ。あとソーン樹海までどれくらいだ?」
「んーそうだな。このまま進めば正午過ぎには着くんじゃないだろうか。もうソーン樹海エリアはすぐそこだ。」
「ソーン樹海"エリア"?」
聞き慣れない言葉を聞いてユーキは聞き返してしまった。
「あぁ、そうか。言っていなかったね。神域にはエリアという、んー範囲?みたいなものが存在していてね。神域を中心にきれいに円を書くようにエリアは存在するんだ。」
そのままショウは続ける。
「そのエリア内には中級モンスターがわんさかいる。という噂だ。」
噂かよ・・・とは思いつつ、マク―レベルのモンスターがワンサカ・・・。恐ろしいな。
「まぁ。ホントにいるかはわからないけどね。そんな話ディズさんとは話さなかったし。まぁほんとにしろ噂にしろ、ここらへんで休憩してからエリアに入るほうがいいかな。」
そのままショウは歩みを止めた。それに従い一行は皆立ち止まり休憩に入る。
「あ、ゼキ、ユーキ。そういえばだが、"イメージの力"は結局どうだったんだ?どういう条件で発動するか分かったのか?」
ショウは思い出したかのように聞いた。
「あぁそれなら・・・」
ゼキが説明しようとした時だった。
近くでモンスターのうめき声が聞こえた。
そのうめき声はこの世のものとは思えない恐ろしいものだった。
「!!!!。・・・・この声は・・・!!」
ゼキが青ざめたような顔で呟いた。
「何だ・・?どうしたゼキ。確かに恐ろしいうめき声ではあったが。ゼキがそこまで怯えるとは・・・」
ユーキは全身に鳥肌が立った。分かったのだ。近くまで来ていることが。
「みんな上だ!!」
ユーキの声に、皆一斉に上を向いた。
太陽を遮るようにして上からなにかが降りてくる。
ものすごい轟音だった。
地面は抉れ、木々は砕け、空が裂けた。
ゼキ、ショウは気づいた瞬間に遠くに避けた。
レンはユーキを担ぎ避けた。おかげでユーキに怪我はなかった。
ユーキは音の中心を見た。
そこには先程空から降りていた何かが居た。
「え、エィプ・・・!!」
ショウが呟いた。
「地砕き・・・!!」
同じようにゼキが呟いた。
「な、何だよ。こいつがなんだってんだ?」
レンが焦るように聞いた。
「地砕き。俺たちはそう呼んでいる。基本的にはソーン樹海内にいると言われている。」
息を呑むようにゼキが説明する。
「けど、何年かに一回、思い出したかのようにエリア外まで出張って、全てを壊していく。以前に出たのは俺が生まれてすぐだ。小さくても・・・あの声だけは忘れない。」
ゼキが怯えている。小さい頃のトラウマだろうか。しかし奴の恐ろしさはユーキも他の2人も感じていた。
更にゼキは続ける。
「当時はリアさんも母さんも居た。ディズも手伝ったと聞く。そんでやっとこさ追い返したって聞いた・・・。」
「地砕き・・・だっけか。親父やゼキの母さん、ルアの親父さんが総出でやっと追い返した魔物・・・。」
奴は明らかにユーキたち一行を意識していた。感知能力の低いユーキやショウでさえソレがヒシヒシと伝わってきた。
ゆっくり砂埃が晴れ、その正体が顕になった。
大きさはそれほどない。成人男性と同じか少し小さいくらい。そいつの見た目は、"猿"だった。
「さる・・・?」
しかしこちらを向いた顔は恐ろしく、可愛さのかけらもなかった。
大きくニカッと笑うと、奇妙な声でウキャキャと笑い始めた。その場で回るようにして踊っている。
-踊ってる・・・?-
ショウが続ける。
「奴の名前はエィプ。ゼキの言う通り、ソーン樹海内に存在するモンスター。神域を守る、"守護獣"だ。」
「守護獣?」
ユーキが聞いた。
「神域には必ず守護獣という魔物が1体存在すると言われていいる。本の知識ではあるが・・・。ソーン樹海における守護獣が"エィプ"だ。数年に一度エリア外に出るとは初耳だが。」
イヤミを言うようにショウは言った。
「いや、考えてみろ!前回はもう20年以上前だ。数年ってのはあくまでこれまでの平均であってだな。ソレがまさか今年の今日だとは誰も思わねえだろ。・・・いや20年も来てなかったら・・・って考えもあるけど!」
ショウは後に続ける。
「・・・。守護獣"エィプ"。ランクは上級のSランク。意識化の一歩手前。本能を超えた生き物。」
「じ、上級のSランク~!!???」
ユーキは思わず叫んでしまった。
「幸い・・・奴は怒ってはいないようだ。遊ぼうとしているのか・・・。そうだよな。こんなところに来る人間はそういないし。母さんやリアさんを思い出してんのか・・・?」
感知能力で感じたのだろうか。ゼキが言った。
「この場合、逃げると言う選択肢は・・無いよな?」
レンはしっかりエィプから視線を離さなかった。
「無いな。遊んでいるだけとはいえ、明らかに俺たちを意識している。オレたちと文字通り"遊び"たいんだろうな・・・。」
皆生唾を飲み込む。
するとエィプがこちらに向き直りこれまでに無い程の大きな叫び声を上げた。
ゼキが身を構えた。頬には大きな汗が垂れていた。
「さぁ。来るぞ。お山の大将が。ササっと遊んで、寝かしつけてやらないとな。」
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