Ep22:「いざ神域へ」
「おっはよぉ~~!ショウちゃん!!」
明朝。耳障りな大声が客間に響いた。
「おらおら。お前等も起きな!!特にユーキ!出発は明々後日明朝。ソレまでにある程度鍛えるぞ!!」
ユーキ達は無理やり起こされた。そのままゼキについてこいと言われ向かった先は食堂のようだった。
「やぁ。おはよう。」
すでにルアは起きていた。寝起きという感じはなく何なら配膳を手伝っていた。
「お、おはよう。ルア。早いね。今何時だ?」
ショウも少し驚いたようだ。
「今は6時だよ。色々考えて生活するうちに早起きが苦じゃなくなって生活の一部と化してしまったようだ。」
笑いながらルアは答えた。
「さて、出発は明々後日明朝と聞いたが?」
「あぁ、ゼキが先程そんなこと言っていたな。」
「おう、ホントは今日にでも出発したいんだが、やっぱりユーキの戦闘経験の無さは一抹の不安が残る。神域には下手したら上級ランクのモンスターも出るかもしれないのに、ソーン樹海までの道のりには結界の影響で基本的には下級ランクしかいないしな。」
「・・・つまり?」
ショウが聞いた。
「今日と明日で俺が特訓する。あぁ、レンやショウはゆっくりしていてくれ。マンツーマンで行う。」
ユーキには寝耳に水で何が何やら・・・。実際まだ半分寝ぼけているようで目は開いていなかった。
「なるほど。それは嬉しいな。せっかくだし頼む。」
「あぁ。任せろ。実践とは言えないが基本までは叩き込むつもりだ。あぁ、ついでに星の力の限定条件なんかも調べといてやるよ。」
ショウは笑いながらありがとうと答えた。
「では今日と明日は村のことを手伝ってもらおうか。少し案内なんかもしようか。」
配膳をしながらルアが言った。
ユーキは、ショウとレンがルアを手伝おうとする様子を見ながらゼキに聞いた。
「な、なぁ。特訓って・・・?」
するとゼキは大きく笑いながら答えた。
「まぁ、死なない程度にしごいてやるよ。」
その笑みに恐怖を抱かずにはいられないユーキだった。
その後ユーキはゼキとともに森の奥へといき、夜にはゼキに担がれて帰ってきた。
翌日も同様で、晩御飯の際には一言も発さず大量の飯を喰らい、風呂に浸かり、そして寝床についた。
2日目の夜。そのあまりの壮絶さを物語るユーキの様子を見てレンがゼキに聞いた。
「な、なぁ。どんな訓練したんだよ?」
するとゼキは笑いながら答えた。
「ん?あぁ。内緒だよ。」
相も変わらず、夜はショウにじゃれつくゼキを他所に、ユーキは部屋の隅で一人小さく鼾を掻いて寝ていた。
その夜ユーキは不思議な夢を見ていた。
ユーキは荒れ狂う海に放り出され溺れかけていた。
「ぶはっ。くっ。くそ。だればっ、ブッ。だれか!!!」
高波がユーキを襲う。ひっきりなしに口から海水が入り込んでくる。その海水を必死に吐き出しながら助けを求めた。
しかし、暗闇の中。大荒れの海に自分の声が反響するものはなく・・・。
苦しい
頭の中は如何に肺に酸素を取り込むかのみを考えていた。
しかし、海は容赦ない。必死に吸い込もうとした空気と一緒に海水が入り込み、咽る。
海水を吐き出そうとする体の仕組みを憎んだ。
海水と共に肺の中の空気までもが吐き出されていく。そして空気を吸い込もうとも入ってくるのは海水のみ。
ユーキは溺れた。その苦しさはまるで本当のようで。
肺の痛み、水の感触、海水の味、鼻に抜ける磯の匂い。
すべてがリアルだった。
ユーキは荒れた海に沈んでいった。
暗く先の見えない海の中で、ユーキは意識がなくなる寸前まで一つのことを考えていた。
"ごめんなさい"
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
不思議にも、荒れ狂っていた海の中は驚くほど静かだった。
「・・キッ!ユーキッ!!起きろ!!」
ユーキ大きな声で目が冷めた。
先程まで見た夢のせいか、体中に汗を掻いていた。
勢いよく起き上がり、声の主の額に激突してしまった。
ここに、早朝におでこを痛がる男二人の図が誕生した。
「ってぇーな!なんだよ!!?」
寝起きは気分が悪い。加えて大声で起こされ、起きたら額に激痛。怒らないわけがない。思わず叫んでしまった。
「ってー。お前なぁ!」
額を痛がるレンは振り向きざまに、ユーキに対抗すべく叫んだ。
しかしショウがそれを手で制した。
「大丈夫?ごめん。朝早く気分が悪くなるような起こし方してしまって。」
いつもと違うトーンで来られたからか、ユーキは一瞬で冷静になった。
「物凄い魘されていたんだ。汗もびっしょりで。だから急いで起こしたんだけど。」
今までにないくらいの心配のされようだ。マクーにやられてたときはあんなに冷静だったのに・・・
「お前が訓練と称してえげつないことしてたんじゃないのか?ほら。やけに疲れてたし。」
レンがゼキに向けて言った。
「まぁ、たしかにキツイことはしたけど、あくまで訓練の範囲内だぜ?なぁ。」
ユーキは急に聞かれて戸惑った。
「あ、あぁ。死ぬほど疲れただけでうなされる原因には。。。ならないと思うけど?」
「いや聞かれてもなぁ。」
突っ込まれた。
「まぁ俺の訓練が原因ならいいんじゃないか?病気とかじゃないんだし。」
ゼキは興味がなくなったのか部屋から出ていった。
「さぁ、そろそろ準備しろよ。出発するぞ。」
扉の外からゼキが大声で言うのが聞こえた。
「たしかにな。俺も準備するかぁ。」
大きな欠伸を噛み締め、レンも部屋から出ていった。
「・・・」
-こんな事初めてだ。あんまり夢も見ない体質なのに、こんな悪夢に魘されるなんて・・・。悪夢・・・?-
「ほんとに大丈夫?しきりになにか言っていたようだけど・・・?」
「なにか言っていた?なに・・・を?」
「ごめん、なさい・・・みたいな。どんな夢見てたんだ?」
ユーキはどうしても思い出せなかった。どんな夢を見ていたのか。それが悪夢なのかすら。
そのままユーキ達は準備を済ませ、村の入り口に集まっていた。
入り口にはザキ達やルア、一部の村人たちが集まっていた。
「ショウちゃん!レンちゃん!また遊びにおいで!」
そう言ったのは、恰幅のいい女性だった。村人だろうか。
「また手伝いに来てくれ・・・の間違いだろうが。」
レンが大きくため息を付きながら小さく呟くのが聞こえた。ショウは愛想よく答えていた。
どうやらユーキ達が訓練をしている間に何かを手伝わされていたようだ。
「フン、もう少し礼儀を覚えてから来るんだな。」
ザキが吐き捨てるように言った。
「そりゃこっちのセリフだ。」
今度はしっかり聞こえる声で言うレン。
「相も変わらず・・・。まぁ良い。」
するとザキはゼキの方に向き直った。
「ザキ!"ディズ殿の息子"や"村長"どのに迷惑をかけぬよう!我ら一族の誇りを持ち・・・」
ザキは強調するように言った。
「あーはいはい。親父は硬いんだよな。もっと柔らかく行こうぜ。ったく。」
ザキの言葉を遮るようにゼキが言った。その後、ザキは何かを言いかけたが結局言わなかった。
「では、結界の外まで転送しよう。そこから普通に進めば2,3日でソーン樹海にたどり着くだろう。行く方向なんかはは大丈夫か?」
「あぁ、問題ない。地図があるし魔祖に答えてもらえる。」
ショウは地図を取り出しながら言った。
「ならば心配は不要か。では行くぞ。」
数人の仮面人たちとルアが先頭を歩くように進んだ。ユーキたちも続いた。
ふと後ろから小さな声でが何かが聞こえた。
「・・・生きて帰ってきなさい。」
ザキが振り絞り、言ったようだ。ゼキに向けて。
「・・おおう。」
ゼキは振り返リもせずに、これまた小さな声で答えた。
そんなゼキは赤面していた。レンは微笑んでいた。つられてユーキとショウも微笑んだ。
そんな4人を見て、ルアは声を上げて笑った。
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