無能ならそれこそ手堅い職に就いておいた方がいいぞ?

白川津 中々

 書類選考を通過された方のみ一週間以内にご連絡をさせていただきます。


 そうかそうか。では待とう。


 八営業日が過ぎた。


 こねぇのよ! メールの着信が!


 つまりは拒絶。無常である。

 

 悲しいことだ。そろそろ正社員でも目指してみっかと闇雲に転職サイトへ登録し二,三応募してみるも返事すらなし。なんと薄情な奴ら。社会人とはそういう人種か。恨めしや。


 そもそも働くってだけでどうしてそんなに格式張る必要があるんだ。履歴書見せて『とりあえず明日からよろしく』でいいと思うんだけどね、合わなかったらさよならすればいいだけだし。あぁ面倒面倒。


 しかし難儀な時代に産まれたものだ。情報が多いから俺みたいな人間にも羨望みたいなものが芽生えてしまう。何も知らずに田舎の田んぼで米作ったり工場でよく分らん加工品を生産したりしてたほうが精神的には穏やかだったんじゃないかなと思う。


 ただ知ってしまった以上はやはり都に憧れてしまうわけで、豪華な家やお洒落で美味しい食事といった通俗的なものを求めてしまうのである。


 田舎を脱して適当に仕事して、いい生活をしよう。


 そう思い立ったのがつい四年前。まだ二十代だったし、ギリギリなんとかなるだろうと思ってトランク一つで浪漫飛行へIn The Sky(電車だけど)。部屋も借りられて職もなんとかなったが、そこまでだった。金が溜まらないのだ


 都会に出て痛感したのが金の必要性である。これがないと何もできない。トイレの紙ですら優良だし、下手したら公園にも入園料がかかる。ふざけろ拝金社会目めと怒りを覚えるも、まぁそのうち稼げるようになるだろうと楽観。そのまま四年が経った。得たものは遊ぶために拵えた借金と内臓脂肪。ファッキューぶち殺すぞ。


 遊ぶために借金とかお前正気かと後ろ指刺されるのはもうしかたがない。事実だし。

愚かなことだが俺は抗えなかった。煌めくネオンの艶やかさに。

 酒を飲み、ご飯を頂いていたらいつの間にか百万近くの負債。びっくりしたよ。お金ってこんな簡単に借りられるんだね。そら破産する人間も出ますわ。


 今はなんとか自制がついたし、時給が五十円くらい上がったから一応生活はできているけれど、なんとも惨めな気持ちにはなる。俗物根性丸出しの成金生活を未だ夢見ているのだ。

 そこそこ広い部屋に有名絵画のレプリカでも飾って、メンデルスゾーンを聴きながら有機野菜を食べるような、そんな生活への焦がれ。Barでボトラーズとシガーを置いて、ひっそりと時間の経過を楽しむような余裕への欲望。今では到底手の届かない環境。あぁ胸が苦しい。金が欲しい。


 そんなわけで転職活動をしているのだが駄目だ。話にならん。箸にも棒にも掛からない。

 やはり三十代でキャリアなし資格なし情熱なしの人間なんざどこもひろってくれないんだろうかね。世知辛い世の中だよ。


 人生どうしたものかと問うてみると、どうにもならないという回答が出てくる。あぁ生きるっていうのは大変なものだな。いざとなったら酒を死ぬまで飲んでくたばるかと益体のない妄想をすると少しだけ心が楽になる。情けない。


 あぁ、虚無い。職を探そう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無能ならそれこそ手堅い職に就いておいた方がいいぞ? 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る