第48話:エピローグ

 その後、話し合われた通りに大輪の花の面々は、周囲の森に入って魔獣狩りを行い、アルカンダリアがいつもの日常を取り戻すまで馬車馬のように働いた。

 特に裏方に回っていたグレイズが借金を返すためにと奮起し、一緒に行動していたライナーとシェリアを驚かせるほどの働きを見せてくれたのは意外だった。


「今からでも経費で落とすことはできますよ?」

「いいや、ダメだ! 男の約束、違えるわけにはいかねえんだよ!」


 聖剣が模倣聖剣だったことを知っていたハウザーが改めて提案したのだが、グレイズは頑なに拒み、必死になって借金をした小金貨4枚分を稼ごうとしている。

 その様子を見て苦笑していたハウザーは、こっそりと自分の給料の一部をグレイズの借金返済に充てていたのは秘密である。


 アニマは相も変わらず獣魔の世話をしているのだが、そろそろ調教中だった二匹の獣魔の調教が終わるとあって、いつライナーとシェリアに引き合わせようかと考えていた。


「あの二人なら、あんたたちを大事にしてくれるはずだよ。しっかりと助けてやりな」


 優しく声を掛けながらのブラッシングに身を任せていた二匹の獣魔は、とろけるような表情を浮かべていた。


 エリリスとヴィッジも森に足を運んで魔獣狩りをしているのだが、スタンピードで死闘を経験したことからわずかに緊張の糸が緩んでいた。

 そこを引き締めたのはルカであり、アンジェリカだった。


「やる気がないなら、都市内の依頼でもやってもらおうかしら?」

「もちろん、失敗は許されないわよ?」

「「す、すみませんでしたああああっ!!」」


 戦闘は得意でも、細かな作業は苦手な二人は、すぐに謝り必死になって魔獣狩りを続けていた。


 レベル50に到達したアンジェリカは、副ギルドマスターであるルカの下についてギルド内での仕事を覚えていた。

 だが、元々が幹部のまとめ役として似たような仕事をこなしていたこともあり、すぐに覚えてエリリスやヴィッジと同じように魔獣狩りにも足を運んでいる。


「それにしても、どうしてルカ殿は私に仕事を教えたのでしょうか?」


 ちょっとした疑問はあったものの、これも自分のためになると考えて、特に質問をすることはなかった。


 そして、ルカとフェリシアはと言うと――


「えっ? でも、大輪の花はどうするの?」


 ルカからの突然の提案に、フェリシアは嬉しさと驚きが交ざったような反応を見せていた。


「大丈夫よ。ギルドの仕事はアンジェリカに教えてあるから」

「まあ、アンジェリカもレベル50になったし、エリリスとヴィッジが中心に魔獣狩りを行えば問題ないのかな?」

「この前のスタンピードで、ライナーとシェリアのレベルも上がりましたから、グレイズさんと一緒であれば問題はないはずよ」


 ライナーのレベルは13から19に、シェリアのレベルは10から17に上がっている。

 そこにレベル43に上がったグレイズが加われば、アルカンダリア周辺の森であれば問題なく活動できるとルカは考えていた。

 ギルドメンバーは少ない大輪の花だが、他のギルドにはあまり見られない消臭精鋭と言えるだろう。


「……ルカがいいなら、私は問題ないよ」

「むしろ、私も目的はずっとそれだったもの」

「……うん、そうだったね」


 フェリシアは少しだけ恥ずかしそうにしながら、ルカに微笑み頷いた。


「それじゃあ、まずはアンジェリカに話を通さなきゃね!」

「……内緒で行くわけにはいかないかしら?」

「ダ、ダメでしょ、それは!」

「絶対にごねるわよ?」

「仕事を教えたって言ったのはどこの誰よ」

「それとこれとは話が別だもの」


 冷静沈着であるはずのルカから内緒で、という言葉が出てくるとは思わずに驚いたフェリシアだったが、本来の性格はこうだったかとも思い直していた。

 村を飛び出した時も、ルカは真っ先に行動していたのだが、意外と考えなしなところが多い。

 今回も思いついたことをすぐに行動に移した、ということなのだろう。


「……まあ、内緒で行くのも楽しそうかも?」

「……いいの?」

「いや、提案したのはルーちゃんでしょうが!」


 ルーちゃん、という呼び方をしたところで二人は顔を見合わせ、そして声を出して笑ってしまう。


「……あはは! せめて、置き手紙くらいはしておこうかな」

「……ふふふ! そうね、その方が探されなくて済むものね」


 そして、二人は行動に移した。

 アンジェリカの部屋に置き手紙を残し、荷物をまとめると、アニマにバレないようシルバーを連れ出す。

 頭をすっぽりと覆い隠すことができるコートを身に纏い、アルカンダリアの外に出た。


「フェリシア。あなたに、もっと多くの外の世界を見せてあげるわ」

「私を連れて行ってね、ルーちゃん」


 子供の頃は戻るところなどなかった。

 しかし、今は大輪の花という、二人の帰る場所が残されている。


 フェリシアとルカは、アルカンダリアを飛び出して、もっと広い世界を見に行く旅に出かけたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ギルドマスターレベル1 ~経験値倍々スキルで強くなったギルメンに助けてもらってます~ 渡琉兎 @toguken

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ