第47話:スタンピード⑫

 スタンピードが終息し、アルカンダリアの被害が徐々に見えてきた。

 大輪の花に大きな被害はなくとも、他のギルドはそうではない。

 軽傷ならば自然と治癒されるだろうが、腕や足を失った重傷者はそうはいかない。

 治癒のスキルを持つ者が夜通し働き、何とか命をつなぎ止めた者も少なくはなかった。

 トップギルドの三つが同時にアルカンダリアを離れていたことも痛手となり、今後は役所がギルドの移動を制限することも検討されることになった。


「まあ、それに神の剣や大陸の盾が従うとは思えないけどねー」

「自由奔放に至っては、戻ってくるかも怪しいからね」

「えぇー! それって、私たちがずっと面倒くさい仕事をするってことー?」

「エリリス、面倒くさいとか言わないの」

「強い魔獣と戦えるなら、俺は問題ありませんよ!」


 現在、大輪の花ではフェリシアの部屋に幹部四名が集まり、今後の活動について話し合いを行っている。

 スタンピード被害が落ち着くまで、大輪の花はアルカンダリアを離れることができない。

 魔獣の脅威はスタンピードとは関係なく、毎日のようにあるのだ。


「とりあえず、私たちはスタンピード被害が落ち着くか、もしくは他のトップギルドが戻ってくるまでは、アルカンダリアに留まることが決まっているわ。ヤマタノオロチみたいな魔獣がすぐに現れることはないと思うけど、気を引き締めて魔獣狩りを行いましょう」


 簡潔に話をまとめたフェリシアは、ここで本題に入ることにした。


「……それじゃあ、次にみんなのレベルを確認したいと思います!」


 今回のスタンピードでは、大輪の花が大活躍を果たしている。

 ヴィッジはアルカンダリア防衛戦で討伐ランクAを含む大量の魔獣を討伐しており、ルカとアンジェリカとエリリスは討伐ランクSSのヤマタノオロチを討伐している。

 特にレベル49だったアンジェリカがレベル50の大台に到達できるか、そこが今回の焦点になっていた。


「まずはヴィッジだけど……レベル46に上がってました!」

「おぉっ! 一気に3も上がったんですね!」


 ちなみに、レベルの確認は魔法具を使う必要があり、貴重なものであることからギルド本部で管理をしている。

 幹部の中では一番レベルが低かったとはいえ、レベル40台のヴィッジが一気に3もレベルが上がったとなれば、残る三名も自然と期待に胸を躍らせていた。


「次にエリリス! ……レベル48!」

「んあー! 上がったけど、1だけかー!」

「いやいや、レベル40台になるだけでも相当時間が掛かるんだから、その若さでレベル48は十分すぎるからね?」


 机に突っ伏してしまったエリリスにフェリシアが苦笑しながらフォローしている。


「次はアンジェリカ! ……と言いたいところだけど、ルカからね!」

「そうね。アンジェリカは今日のメインなんだから」


 笑いながらそう口にしたフェリシアとルカを見て、アンジェリカは珍しく緊張している。

 その前にルカのレベルが発表されるので、表情には出していないがルカも緊張していた。


「ルカは……レベル…………58!」

「……凄い、上がったのですね、ルカ殿!」

「おめでとう! ルカちゃん!」

「さすがはルカ様です! おめでとうございます!」


 レベル57から足踏みをしていたルカのレベルアップは、本人だけではなくフェリシアたちもとても喜んだ。


「……上がったのね、よかった」


 ホッと胸を撫で下ろしたルカだったが、他のトップギルドにはさらに上が存在している。

 自分はまだまだだと心で言い聞かせているが、その表情は珍しく緩んでいた。


「そして、そしてー! アンジェリカのレベルを発表しますよー!」


 スタンピードに挑む前のアンジェリカのレベルは49。

 レベル50に残り1まで迫っていたので、上がるとアルカンダリアでは十人目のレベル50台となる。


「ダラララダララララアアアアアアアア……ダンッ! レベル――50です!」


 フェリシアの下手なドラムロールの後に発表されたアンジェリカのレベルは、レベル50。

 ルカと同じように足踏みが続いていたアンジェリカのレベルが、ついに大台に到達したのだ。


「おめでとう、アンジェリカ!」

「……あ、ありがとうございます、マスター」

「どうしたの、アンジェリカ?」


 フェリシアが笑顔で祝福の言葉を述べたのだが、当の本人は固まっている。

 その様子にルカが気づいて声を掛けたのだが、それでもアンジェリカの様子に変わりはない。


「……その、嬉しいのですが、実感があまりなくて」

「まあ、実際にはレベルが一つ上がっただけだからね」

「もう、ルカ! そんな当たり前なこと言わないでよ! レベル50は凄いんだからね!」

「そうだよ、ルカちゃん! アンちゃん、本当におめでとう!」

「おめでとうございます、アンジェリカ様! 今度、俺に稽古を――」

「ヴィッジ以外のみんな、ありがとう」

「ひ、酷くありませんか、アンジェリカ様!?」


 最後にはヴィッジの言葉に被せるようにしてお礼を口にしたアンジェリカ。

 フェリシアの部屋には賑やかな笑い声が絶えない。

 しばらくは忙しくなるだろうが、大輪の花ならば乗り越えられるだろうと、この場にいる誰もが信じているのだった。

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