遭遇

魔獣の姿は消え、代わりにドローンが辺に確認できた。

シンとリンカが辿り着いたのは高度な科学技術によって建造された塔であった。

アンテナが刺すように天に伸び、まだ距離があるにもかかわらず大きさが想像できた。

長い間風雨にさらされていたのか、所々に補修の跡が微かに見てとれた。

「あの中に人がいるといいんだけど」

リンカが言った。

どこか諦めのような素振りでフワフワを撫でながら腰を下ろした。

シンはドローンの数と動きを把握しようと黙って観察を続けている。

最初の魔獣を倒した後、数回の戦闘を2人は経験していた。

相手は魔獣ではなくドローンだった。

子供ほどの大きさのドローンだが搭載されたセンサーに捕まると酷いのだ。

非殺傷武器による威嚇から始まり、内蔵された機関砲での追撃を行ってくるからだ。

また、一機破壊すれば虫のように群がって襲いかかる。

互いにデータを共有しているのではないかとリンカは推測した。

破壊しながら塔に向かうとしても、そこまで徹底する施設の中に入れてもらえるとは考え難かった。

足場の悪い道を進んできたことで、リンカの疲れは限界に近く、シンの纏った服も血とオイルで汚れている。

ここまでしてまで生きなければならないのかとリンカは悲しく俯いた。

やがて日が沈み始めた時、シンが口を開いた。

「あそこに人がいる」

リンカの肩を寄せて指差すシン。

人影が微かに見えるが間違いない。焚火をして野営している。

人数まではわからないが確かに人だ。有力な情報を得れるかもしれない、2人はそこへ向かうことを決めた。

沈む太陽を背に浴びて進む2人。

やがて人影が焚火に照らされてハッキリと背が見えた。

座っている姿は小さく小柄であることがわかった。

人数が1人だけで特に銃や武器などは見当たらない。

だが荷物さえないのがおかしい。それを察したリンカがシンの腕を掴んで。

シンは足を止めて辺りを警戒する。リンカは銃撃に備えてシンとの距離を置いて身を屈める。

やがて後方から足音が一つ、手には長いライフルがあり銃口は2人に向けられていた。

「悪いけどアレを制圧するのは私、邪魔をするなら撃つし仲間も募ってはいない」

細身の体から似合わない凄みを効かせたのは女性だった。

経験豊富なサバイバーといった説得力のある装備に身を包んでいる。

ライフルとナイフ、そして予備の弾倉がいくつかある。

奪われないように体に固定されたそれらから、余裕さえ感じさせる。

「待って!!私たちはここに争いに来たわけじゃないの」

リンカは毅然として説得を開始した。

長い対話の後に敵対することになるやもしれない。

シンはゆっくりと視界の外に出て、いつでも飛びかかる準備をしたかったが、女の銃口がそれをさせなかった。

対話の最中にも意識は2人に向けられて銃口には迷いがない。

「悪いけど私の相棒は文字通り血も涙もない屈強な戦士。この銃を使わずともあんた達を倒せる」

女の言葉を合図に立ち上がったのは先ほどまで微動だにしなかった相手である。

あえて体を晒して2人をおびき寄せたのは余程の自信だ。

フードから覗く顔には赤い光が滲んでいて、微かに駆動音が聞こえた。

「ドローン?」

シンが口にすると、女が強い口調でそれを否定した。

「初対面の相手に失礼なことを言わないでくれる?

彼は人間。ただあんたらより優れた体をしているだけでどこも私と変わらない」

どうやら怒らせてしまったようだとシンは口を閉ざすも、目の前の女と機械化で完全に強化されたそれとが同じには見えなかった。

さらに長い対話の末に、女が銃口を下げた。

そしていくらかの情報を得るに至ったが、かわりにシンとリンカは自身が向こう側から飛ばされてきたことを告げることになった。

女はフェイと名乗り相棒は相棒だと2人に説明した。

どうやらよくわからないが相棒はフェイが他の地で出会った仲間だというのだ。

会話するようなタイプではないようで無口である。

「噂や伝承でしか聞いたことはないけど、時折やってくる異なる人間がいるってことは知ってはいた。

本当にあんた達がそうだとして、なぜ子供を寄越すんだ?

尖兵とするなら魔獣だっているこの世界に適応できるのか?」

無口な相棒とシンは会話に入るつもりはなかった。

リンカの手にあるフワフワが退屈なのか動き出した。

フェイが驚くもフワフワはそれを気にもせず相棒の足元へと向かう。緩慢な歩みであるが珍しい生き物なのかフェイは立ち上がって距離をとった。

「こいつは有害な生き物なのか?」

シンがフェイに尋ねるが返事はない。

どうやらフェイも始めて目にするタイプの生物であるらしい。

相棒の足元に横たわるフワフワは自由に転がり始めた、猫や犬にような素振りである。

相棒は見えていないかのように動かない。どうやら有害な生き物ではないようだった。

長い夜が明ける頃には4人は運命共同体として塔、外縁監視塔攻略を決定した。

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第三次世界転生 karasu// @shutter_speed_zero

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