第13話 仕事場よこんにちは その11
デュロックス領とトリメト山より西方の地域との国交はないそうだが、双方の取り決めで「山頂への登頂は禁止」となっているらしい。
「それでもたまに流れてくるアタイみたいな人種を、デュロックスでは金で売買するんだ。」
集められた人々の末路は噂に聞く限りでは、悲惨なものだという。テリアのような種族は「コボルト」と呼ばれ、特に待遇が悪いらしい。
そんな中、カンダ村の村長が幼いテリアを拾ったのはトリメト山上腹の登頂禁止区域手前で、曰く「空から降ってきた」との事。
カンダ村は街から比較的遠く、また村長の一枚岩だったため、最近までその存在を秘匿して、村で自分の子として育てていたのだそうだ。
「ただ、その爺さんが病で臥せっちゃってね。止めてくれる人が居なくなった途端、村長の薬代にって売られちゃった。」
ちなみに金貨1枚は銀貨16枚分、銀貨1枚は銅貨16枚分だそうだ。
金で解決するには最低でも、手の中にあるコインの25600倍の金が必要になるという事らしい。
金での解決も無理、人種問題として情にも訴えられない。
「なぁ、やっぱり無理じゃないか?今から適当に森に隠れてやり過ごす方が生き残れる気がする。仮にあたいが獣に食われて死んでも、あいつらも任務失敗、今度は自分たちがデュロックスに追われることになる。ざまあみろだ。」
なるほど、いくら珍しいとは言え、用途が剥製でないのなら「死体だけでも持っていく」という発想にはならないのか。
「あ、適当なところに野営の跡と、血とかばら撒いといたら死んだと思って諦めてくれないかな?」
「さっきも言ったけどあいつらはプロだ、その程度の偽装じゃ騙せない。」
お、でもこれ良いアイデアじゃないか?
「じゃあ、もし本物の死体が目の前にあったらどうだ?」
後はもう一度、テリアの鼻に賭けてみよう。
「何言ってんだこいつ」って顔のテリアを尻目に、俺は薬棚を漁り始めた。
流石に数が多い、目的のものをパッと見つけるのは難しいか。
「なぁテリア、お前は毒も嗅ぎ分けられるか?」
「は?あたいに毒を飲めってか?」
「正直、一晩凌いでここに戻ってくれるなら、俺もテリアを森へ送り出すけどな。そうして捕まるか獣に食われるよりは、その方が多分生存率が高い。」
さて、問題はこれをどう理解してもらうかだ。
「パラケルスス・ヴァン・ホーエンハイムに曰く、毒と薬の境界線は使用量だそうだ。」
「誰それ。」
至極まっとうなリアクションである。
「まぁ、それはともかく、俺を信じろ、と言う奴を素直に信じろとは言わんが、さっき庇って稼いだ分の信頼で、俺に命を預けてみないか?」
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