第12話 仕事場よこんにちは その10

「ところでお前、名前は?」

「は?」

「名前だよ名前、俺はレンだ。聞こえてただろ?」

そう言えば自己紹介をしていなかった。順序がおかしいが、運命を共にする相手の名前くらいは知っておこう。上手くすれば長い付き合いになるのだし。

「テリア。」

彼女はそう名乗った。

「ふはは、マジかよ犬じゃん。」

思わず吹き出してしまった。

「なんでそうなるか分かんないけど、バカにされたのは分かるぞ!」

小突かれた。

痛いがその甲斐あって少し空気が和む。


「あ、金ならどうだ?お前いくらで買われたんだよ?」

「金貨100枚。」

うーん、本位貨幣の貨幣価値が分からん。

「それって高いのか?」

「牛なら20頭は買える。」

「すげぇな。んで、この小屋に金目の物は無かったのか?」

「床板に挟まってた銅貨1枚。」

そう言うと小さなコインを1枚こちらに投げてよこした。

「短時間でよくこんなもんまで。」

「匂いでだいたい何処に何があるか分かる。」

「ここは強い匂いの生薬も多かろうに。気持ち悪くなったりしないのか?」

「そりゃあ、匂いを寄り分けれられるように訓練したのさ。中に入った直後は辛いけど、すぐ慣れる。」

たいしたもんだ。と素直に感心する。

「他に特技は?」

「何も。耳と鼻が利く事と、ほんの少し身軽なこと以外はあんたらと一緒さ。こんな見た目だけど、あたいは化け物じゃない。」

俺にそういう意図はなかったが、テリアの顔が曇る。

「いや、そういう事じゃないんだ。」

「分かってるよ。ごめんね。」

分かってるやつの顔じゃないんだよなぁ。

「いや実際、偉い奴の慰みものになるなんて勿体ねえよ。」

「そうかい?村じゃ村長の爺さん以外には鼻つまみだったし、化け物扱いする奴か「どっかに売られる前に俺と」って寄ってくる物好きな変態しかいなかった。」

「テリアみたいな奴はテリアだけなのか?」

「あんたホントに何も知らないんだね。」


そう言うとテリアはマントから地図を出した。

先程の兄弟が持っていたのと同じ物だった。

まずこの辺りは「デュロックス領」と呼ばれる地域らしい。現在地は「クロナの森」

と呼ばれる広大な森林地帯で、そのど真ん中を貫く街道が「デュロックス街道」、東側にある街の名前も、治める領主も「デュロックス」、森を挟んだ西側は「トリメト山」という雲より高い山がある。

デュロックスから街道を真っすぐ進んで一番近くの農村まで丸1日。そこからもう1日馬で走るとトリメト山の入口に着き、更に半日登頂して山の中腹まで行ったところにテリアの居た「カンダ村」があるそうだ。


デュロックスからカンダ村までの丁度真ん中にこの小屋はあるのだという。

「山を挟んだ反対側には、アタイみたいな人種が住んでる国があるらしい。」

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