第4話 仕事場よこんにちは その2

「ポーションってのはあれか?いわゆる回復アイテムってやつか?」

この質問で俺自身も観念する、俺の知っているポーションってのはそれだけだ。

俺が10代の頃には何かのTVゲームのタイアップで青い瓶に入った少量の炭酸飲料がその名前で売られていたが、恐らくそんなものを探しに来たわけではないだろう。


「そうだ、飲めばたちどころにその者の傷を癒し、体力を回復する薬の事だ。ポーションと呼ばれるものが他にあるか?」

やはり、ここはつまり、そういう世界なのだろう。

ヒーラーに、ポーションね。はいはい。


「ふっふふ、なんだそれ、どういう原理だよ。」

思わず笑い出してしまう。

「なんだ、何が可笑しい?」

女は怪訝な様子で聞いてくる。

そしてナイフを再び構えた、マズイ。


「いや、申し訳ない。なぁ、あんたはそのポーションってやつがどうして出来上がっていて、何故そんな効果があるのか、考えたことがあるか?」

「は?」

急な質問に、女は戸惑ったようだった。正直に思ったことを言っただけだが、上手く煙に巻けたらしい。

「何のデメリットもなく、急に傷が治って疲れが取れるなんて、おかしいと思わないか?」

「おかしいも何も、ポーションとはそんなもんじゃないのか?あたいも自分で飲んだ事はないから、詳しくは知らないけど。」

「で、そんなもんが何で必要なんだ?」

女は答えなかったが、恐らく反射的なものだろう、ちらりと自分の左足を見た。

「怪我してるのか?」

表情は良く見えないが、舌打ちが聞こえた。肯定と取って構わないだろう。

「傷は深いのか?」

「いや。」

だったらなんでポーションを欲しているのか。

問い詰めようとしたとき、俺が入ってきた方の扉が、乱暴に開けられる音がした。

「おい!誰かいるか!」

声を聞いた女はビクリと身を縮めた。そして抱く様にナイフを構える。

怯えているらしい。

「はぁい!ただいま〜!」

咄嗟に返事をする。女は俺の大声に再び驚いて身を縮めたが、出ていこうとする俺の袖を弱々しく引いた。

「大丈夫だ。」

俺は微笑んで自分の口に指を当てた。静かにしていろという合図のつもりだったが、良く考えたらこのジェスチャーは万国共通なのだろうか?


「早く行かないと怪しまれる、離してくれ。」

こういう判断は早いほど良い。

女は一瞬だけ迷ったが、手を離した。

俺は女に目もくれず、そのまま急いで調剤室を出る。

大柄な男が一人既に入ってきていた、手には太い棍棒、腰には獣の皮か何かで出来た水筒と大振りのナイフを差して、背中には弓を背負っている。

遠中近距離全対応の完全武装だ。

開け放たれた扉の先には、彼が乗って来たであろう荷馬車と、御者席にもう1人男が座っているのが見える。こちらはすぐに入ってくる様子はない。

さて、どうしたものか。



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