四十話「World's Observer」
『K1君!もう着いた?』
『もう着いてるよ』
チャットを打ち込みながら店の前で待つ。
今日は現実世界に戻れた祝いとしてみんなが集まる日だ。
『それじゃお店先入ってて、私もすぐ行く!』
俺はレトロな雰囲気を醸し出す喫茶店の前にある電柱にもたれかかっていた。
『分かった。店間違えるなよ』
返信して、携帯をズボンのポケットに入れ、店へ入る。
カランカラン
鈴の音が店内に響く。
「いらっしゃいませ、一名様で?」
女性のウェイターが店の入り口まで歩いてくる。
「いや、後何人か来て……」
一瞬、座席の方を見る。そこには見覚えのある面子が座っていた。
「あ!来たっすよ!英雄が!」
ミストさん。
ゲーム内よりも少し大柄な体だが顔や口調からしてそうだろう。
「ウェイターさん、その人こっちの連れっす!」
……なんだが小っ恥ずかしい。
「ふふっ、今隣の席にご案内しますね」
「うるさいのがすいません……」
ウェイターさんは笑顔を返す。
「ミストさん、声でかいですよ」
「いや、嬉しかったんでつい……」
隣の二人用の席に座ると、ドアが開く音がする。
「みんな!ごめん!」
ユイが息を切らしながら謝る。
「お、来たっすよ。彼女さんが」
「やめろよ、俺なんかユイとは釣り合わないさ……」
俺はテーブルに肘をつき、そっぽを向く。
ユイが顔を覗き込む。
「ああ。それと圭一でいいよ。ここはゲームの世界じゃないしな」
「……え!K1君って圭一君って言うの!初めて知ったよ!」
……え?
「てっきり知ってるものかと」
こんな分かりやすい名前もないだろう。
「もしかして……本当に知らなかったのか?」
「え、むしろみんな知ってたの!」
ミストさんや他のメンバーが頷く。その時にウェイターさんが俺とユイのテーブルにオレンジジュースを、ミストさんの席にはカクテルを置く。
「へー、圭一って言うんだ……それじゃ圭一!」
ユイはオレンジジュースを持つ。
「GMW事件の救世主を記念して……乾杯‼︎」
「……ありがとう!」
俺もオレンジジュースを持ち、グラスをコツンと当てる。
〜〜〜〜〜
時は過ぎ、2時間以上駄弁りながらゲームの思い出を語り合い、俺達は喫茶店を出た。
「それじゃ‼︎」
少しフラフラなミストさんは他の仲間達を連れて行き街中へと溶け込んでいった。俺とユイは同じ駅まで歩く。
「ねぇ、圭一くん」
「ん?」
「今度さ……」
ユイには珍しく言い淀む。
「今度……何だ?」
ユイはゴクンと喉を震わせ、口を開く。
「今度、一緒に遊園地に行かない?」
絞り出した言葉は遊びのお誘い。だが特別な感情がそこにはあった。
「ああ、俺も……ユイと行きたい」
「え⁉︎」
「あ、いや……遊園地にな!」
「あ、遊園地に……うん遊園地にね!」
ぎこちない会話の中で俺はアウターのポケットに突っ込んだ手を外に出す。
そして、俺はユイの手を握る。
「え」
「ラッシュで人がいっぱい降りるんだ、この駅。はぐれない……ようにさ」
俺の顔、今めっちゃ赤いんだろうな。
吐いた息が白くなりながら、俺とユイはゆっくりと駅に向かった。
ワールズオブザーバー〜配信者、ゲーム世界の英雄となる〜 宿町とまる @shinsho_novels
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