第4話 贖罪
「ふむ・・・精神的には問題が無いみたいだな」
伏見は美鈴に課した試験の結果を見て、満足気に呟く。
「私は・・・まだ、人ですか?」
美鈴はベッドの上で伏見に尋ねる。
「あぁ、立派な人だよ。お前さんは人を守ったし、魔女も殺した」
「・・・殺した」
「なんだ・・・殺人に興奮したか?」
「いえ・・・別に」
「まぁ・・・お前さんの精神状態に問題は無い。今のところ、お前さんをどうにかする事はない」
「そうですか」
「何か不満そうだな」
伏見は暗い顔をする美鈴を見る。
「いえ・・・」
「そうやって、何でも内に抱え込むのは止めた方が良い。それがお前を魔女にしたんだ。魔女になった奴の調査をしてきたが、大抵、お前さんみたいな奴だよ。感情をまともに露わに出来ず、人間関係もまともに築けず、虐げられ、ただ、悩みに圧し潰され、憎しみと怒りだけを内に抱え込む。そいつぁ、魔女の鍋みたいなもんさ。全ての負の感情をギトギトに煮立たせているだけさ」
「魔女の鍋ですか」
美鈴は何かを想ったように胸に手を当てる。
「私は人間に戻れるのでしょうか?」
美鈴の問い掛けに伏見は苦笑いを浮かべる。
「さぁな・・・一度、堕ちた奴が再び人になったなんてのは未確認だからな。ただ、私は思うんだよ」
伏見の思わせぶりな態度に美鈴は訝し気に伺う。
「人なんて、誰もが魔女になれるんじゃないかとね」
「誰もがですか?」
「あぁ、誰もが魔女になる可能性を抱いている。別に魔女になった奴を責める権利なんて誰にも無いのさ」
「そうですか・・・それでも魔女は忌み嫌われます」
「だろうな。一人の魔女が殺した平均は63人。名だたる殺人鬼でも一人で殺せる数じゃない。それも圧倒的な力。最初に現れた魔女を殺すのに警察の特殊部隊が100人も投じられて、計265人の人が殺された。これで魔女を恐れない奴なんていないよ」
伏見に言われて、美鈴の表情は強張る。
「まぁ・・・あなたは魔女殺す魔女・・・人からすれば、敵であり・・・味方よ。事実、あなたが任務に就いてから、魔女による被害は大幅に減少した。少しは自分を褒めても良いのよ。皆、口程にあなたを忌み嫌ってはいないわ。まぁ、恐れてはいるだろうけど」
「私が・・・いつ魔女として、人を殺すかもしれないから?」
「そうよ。飼い慣らしたとは言え、猛獣は猛獣。私達はいつあなたに食い殺されてもおかしくないの。だけど、あなたが従順であってくれれば、私達は魔女に怯えなくて済む。だから、私達はあなたを信じる。それだけよ」
伏見に言われて、美鈴はフッと笑う。
「少しは気分が楽になったようね?」
伏見はその様子を見て、笑う。
「えぇ、いつまでもクヨクヨしていたのがバカみたいでした」
「そうよ。もっと楽に考えなさい。今更、遅いんだから」
美鈴はそれを聞き終えると、立ち上がり、伏見の研究室を後にした。
「新しい魔女よ」
美鈴は刀を掴んだ。
隊員達にも緊張感が走る。
「ちっ・・・今度はどこだ?」
隊長は嫌そうに美鈴に尋ねる。
「かなり強い気配・・・多分・・・強いわ」
美鈴はニヤリと笑いながら、隊員達を見た。誰もが緊張している。
「私が守るから・・・安心しなさい」
美鈴は笑って、そう告げた。
魔女狩り 三八式物書機 @Mpochi
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