第7話

 僕はひざまずいて、人形の首をだきかかえました。あとからあとから、なみだがぽろぽろ出てきます。気がついてみると、僕はぼろぼろになった馬にむかって、一生懸命に話しかけていました。

「ねえ、もう1回話しかけてよ。もう1回僕を乗せてよ。」

 僕はなみだをぬぐうと、そっと馬をかかえて、車に積んで帰りました。

 今、馬君はすっかりきれいになって家にいます。その背中には、あの頃の僕のように、僕の息子が乗っています。あの頃、あんなに大きくみえたのは、僕がまだ小さかったからだったのでしょう。息子も僕におねだりをしては、馬君の背中にのっけてもらっています。彼も、あの頃の僕のように、心の中で緑の野原をかけていることでしょう。その姿をじっとみつめていると、窓ガラス越しの夕日をあびて、馬君がほほえんだような気がしました。

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幻の馬 OZさん @odisan

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