2話 チーズケーキサンデー③

 秋の空気で冷える床は氷のようにひやりと冷たい。そんなところを素足で駆けると、さらに冷たく感じた。

 それなのに、足先はとっても冷たいのに、心は胸は頬は温かかった。熱かった。


 首を振って顔の熱を冷ましながら、廊下の隅で呑気に寝そべっていた鷹丸を捕まえる。

 彼のいたところは、窓から日の差し込むあたたかい場所だった。猫があたたかい場所を知っているのは本当なのかもしれない。

 膝に乗せると抵抗もせず、喉を鳴らしてじゃれてくる。本当に気まぐれなんだから。



「たーくん。私、おかしいよ……熱があるみたい」

「大丈夫か?」

「へっ! あ、大丈夫です!」



 耳元で鳴っていた胸の音が蘇る。

 壱くんの胸の音。

 あれは空耳? 勘違い?



「捕まったんだ」

「うんっ。捕まえた」



 ぐいと鷹丸を抱き上げ、壱くんに見せる。

 でっぷりとしたお腹がぼよんと跳ねた。それを撫でながら、壱くんはにっこりと笑う。

 思わず、その笑顔を見つめる。

 だって――魅力的な、綺麗な笑顔をしているから。抱きしめられた感触が残っているから。

 いつもはつり上がっている目が、笑うとふにゃりとやさしくなる。ギャップ、というやつだろうか。


 ふっと壱くんが視線を上げて私を見たから、慌てて時計を探しているふりをした。自分の家なのに時計を探すなんて、絶対変なんだけど。



「な、何時かな?」

「時間? えーと、あとちょっとで12時」

「お昼ご飯作らなきゃ。お父さんもうすぐ帰ってくるの」



 私が目を右往左往させていると、鷹丸がチャンスと思ったのかひと暴れして逃げていった。

 ――まだしおりを取り返していないのに。



「もおー!たーくんっ」



 ははっ、と壱くんの笑う声がしたから、反射的に振り向いた。

 どうして壱くんはそんなに綺麗な笑顔ができるのだろう。

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