第20話修道騎士イリシア

 バジリスクを降りた俺は、数メートル先に立つ修道女を見た。

 その女はシスターと呼ぶにはかなり禍々しい空気をまとっていた。

 修道女特有の頭巾はかぶっておらず、燃えるような赤い髪が風になびいていた。


 徐々に昇る太陽にその女は照らされ、その赤い髪がさらに際立って見えた。


 バジリスクに残る姫さんに俺は声をかけた。

「ちょっくら、邪魔者を片付けてくるよ。そこでまっていてくれよ」

「剣太郎さん、お気をつけてください。あの者たちはおそらく聖者教団のものたちです。二千年もの間我らと敵対していたものたちです。何をするかわかりません……」

「わかった。気をつけるよ。そして、レイラ姫、必ずあんたを教会に送りとどけてやるよ」

「剣太郎さん……。ご武運を……」

 レイラ姫が祈るように言った。

 俺はバジリスクのドアを閉めた。

 車内は中森聖子の歌声が鳴り響いていた。


 俺は中森聖子の歌を鼻声で歌いながら、修道女に近づいた。

 両手をズボンのポケットに手を入れ、俺はその修道女の前に立つ。

 よく見るとその修道女は右目にカリブの海賊のような眼帯をつけていた。右手には凶悪そうな棘つきの革鞭を持っていた。


 ほう、これはシスターじゃなく女王さまかい。

 とつまらないことを考えているとその修道女はボリュームたっぶりの胸の前で腕を組ながら、残る左目で俺を睨んできた。


「よう、あんたら悪いがそこを通してくれないかな」

 わざとへらへら笑いながら、俺は言った。

 こいつは様子見の挑発だ。

「貴様がクレイジータクシーか」

 修道女は聞いた。

「あんまりその呼び名は好きじゃないが、まあ、そういうことだ」

 俺は言った。

「私は聖者教団の修道騎士テンプルナイトイリシアだ。そこのボロ車に乗るレイラとかいう魔族の首領を渡してもらおうか。素直にいうことを聞けば同じ人間の貴様は見逃そう。聞かなければこうだ‼️」

 修道騎士イリシアはそう言うと、なにかサッカーボール大のものを投げて寄越した。


 放物線を描き飛んでくるその物体を俺は受け止めた。


 俺はその投げられた物を見た。


 おいおい、なんだこりゃ。


 やつらやりやがったな。


 さすがにこれはやり過ぎた。


 俺は怒りが全身を駆け巡るのを感じた。

 それに奴は俺の愛車バジリスクをボロ車とかいいやがった。

 こいつだけでも、許せんのに。

 おまけにこんなことまでしやがって。


 俺の手のなかにいるのは首だけになったあのミリアとかいう女だった。

 かわいそうにあのグラマーな体はどこいっちまったんだい。

 俺はミリアに尋ねたが、無論答えはかえってこない。

 そこにあるのは沈黙だけだった。

 かわいそうに、こんな姿になっちまって。


 俺がその銀色のあわれな首をみていると目の前の空間がぐにゃぐにゃと歪んだ。

 そこから現れたのはボロボロに裂けたブルゾンを着た傷だらけの魔少年ロイであった。


「やあ、お兄さん……。僕たちやられちゃったよ」

 額からだらだらと血を流しながら、ロイは言った。

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