第19話あの橋の向こう
地平線にうっすらと太陽の光が見える。
もうまもなく日が昇ろうとしてるのだ。
俺は眩しさに目を細めながらバジリスクを走らせた。
すでにF市に入り、目的地である聖ジョージ教会にはもうまもなく到着できる。
カーナビの地図にはかなり大きな川が見える。
その川には全長二キロメートルほどの橋がかかっている。
その橋を越えれば教会は目と鼻の先であった。
「姫さん、後、もう少しだぜ」
俺は言った。
「ええ、そうですね。剣太郎さん……」
もうすぐ到着だというのに、姫さんの言葉はどこか寂し気であった。それに不安気でもあった。
教会につけば、明子からの依頼は終了だ。
美貌の姫君とお別れになるのは正直寂しくもあるが、これも仕方あるまい。
仕事が終われば、それまでなのである。
友好条約というのがうまくいき、二つの世界が平和と繁栄を迎えられれば、何よりではないか。
などど俺が珍しく物思いにふけっていると突如、レイラ姫が頭を押さえ、震えだした。
「く、苦しい……」
レイラ姫が額に汗を浮かべながら言った。
顔面蒼白とはこのことだろう。
真っ青な顔で唇をわなわなと震えさせていた。
美しい表情が苦悶にゆがむ。
「おい、どうしたんだ」
俺は慌てて、声をかけた。
いったい全体どうしちまったんだ。
かなり俺は狼狽していた。
なんせ、姫さんが原因不明の頭痛に苦しんでいる。
「剣太郎、前方に生命反応よ。かなりの人数が橋の前に待機しているわ。数は十……二十……全員で三十六人ね。彼らから特殊な周波数が発せられているわ。恐らくはその特殊な音波がレイラ姫を苦しめているようよ。どうやらレイラ姫たちフェアリージェルの人間だけが反応するみたいね」
ソフィアが言った。
たしかにソフィアの言った通り、前方に数十人の人影が見えてきた。
彼らは横一列になり、橋の入り口を塞いでいた。
ちっ、やはりことはそう容易く終わらないか。
終わってくれれば楽でよかったのだがな。
俺は舌打ちしながら、ゆっくりとブレーキを踏み込む。
明らかに目の前の人間たちは俺たちの進行を防ごうとしている。
またあのロイとかいう小僧の妨害だろうか。
俺が心中で思案していると車内にある音楽が流れ出した。
それは中森聖子の「赤いスローモーション」であった。
彼女のハイトーンボイスが車内に響き渡ると不思議と姫さんの顔色がよくなっていった。
「どう、落ち着いたかしら」
ソフィアがきいた。
「ええ、ありがとうございます」
小さく息を吐き、レイラ姫は言った。
「いったいどうなってるんだ?」
俺はソフィアに状況説明を求めた。
「ボクたちは聖者教団の聖歌による攻撃を受けているの。聖者教団に所属する聖歌隊の発する音波にはある特定の人物を行動不能に陥れることができるみたいね。でもね、実は中森聖子の歌声はそれらを中和させることができるのよ」
「凄いな中森聖子は」
俺は心の中から感心した。
「だから中森聖子は芸能界を追われたという説もあるわ」
ソフィアがそう補足した。
どうやら姫さんの顔色を見る限り苦痛からは解放されたようだが、事態がまだ悪いことにはかわらない。
フロントガラス越しにある人物が近づいてくるのが見えた。
良いだろ、出迎えてやろうじゃないか。
俺はバジリスクを降り、その人物を見た。
黒い修道服を着た燃えるような赤い髪をした女であった。
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