第17話ドラゴニジウム戦記

 ラー共和国軍はファムル神聖帝国軍を迎撃すべくロベール平原にて激突したが、共和国軍はすぐに敗走した。

 だが、その敗走は偽装であった。

 それはハウザーの指揮能力の妙といえた。 

 逃げるとみせかけて戦い、戦うとみせかけて逃げる。


 皇帝ヨーゼフ二世の周囲にいる若い貴族たちはそれが共和国軍の作戦であることを見抜けず、いわばまんまとパール次席参謀の策にはまったことになる。

 長らく戦争のなかった帝国において今回の戦いは貴族たちにとって久々にめぐってきた武功をあげるチャンスであった。

 血気さかんな貴族たちは皇帝の御料車両と共に共和国軍の嘘の敗走に気づかずに本隊と遠くはなれ、エミラ峡谷に誘い出された。


 ここで共和国軍は猛烈な反撃にでる。

 峡谷の左右に展開したカール戦士長の別動隊が猛烈にして苛烈なる突撃を繰り出した。

 兵数でおとっていた共和国軍であったが、帝国軍本隊とはぐれた皇帝直属の部隊だけを相手にするのは容易であった。

 皇帝直属の部隊と周囲の貴族たちはその攻撃に耐えきれず、次々と戦死していった。

 御料車両を破壊され、別の車両へと移動しようとする皇帝ヨーゼフ二世の姿を見つけたカールは自らの軍用サーベールをもって斬撃を与えることに成功した。

 軍用アーマーにより致命傷をあたえるまではいかなかったが、ヨーゼフ二世は重傷を負い、撤退を余儀なくされた。


 本隊を指揮するモーリアス将軍により救いだされた皇帝は全軍に撤退を命じ、このロベール平原の会戦は共和国軍の勝利に終わった。

 皇帝ヨーゼフ二世はこの時の傷がもとで皇帝の座を去り、妹のエリザベートが皇位を継ぎ、女帝となった。


 女帝エリザベートはラー共和国と講和条約を結び、ここにラー共和国は独立を果たす。

 初代大統領となったのはワルズメルであった。


 ここに歴史家のほとんどが否定する銀の乙女なる人物がこの会戦の直前に登場する。

 パールを主人公にした物語などではこの銀の乙女なる人物が一時帝国軍の捕虜となったパールを助けだし、あまつさえ帝国軍の詳しい進行ルートと御料車両の位置を教えたというのだ。

 実際はハウザーの部下がパールを救出し、その後、パールの鋭い観察力と推察力によって作戦を立案し、共和国軍を勝利に導いたというのがおおかたの歴史家の見方である。


 ただ、銀の乙女伝説を支持する人々にとっては港街ローランに残る逸話こそ、彼女が実在した証拠であるという。

 共和国軍と帝国軍がロベール平原で激戦を繰り広げているころ、美貌の銀の乙女は二人の従者をしたがえてこの街を訪れた。

 従者は赤いマントの派手な男と癖の強い黒髪の男であった。

 黒髪の男はある料理屋でパンに香辛料で味付けされた鶏肉と野菜を挟んだものを注文した。

 それとジルの実の飲み物も頼んだ。

 黒髪の男はその料理をサンドイッチと呼び、これ以降パンに野菜や肉を挟んだ料理は共和国ではサンドイッチと呼ばれるようになった。

 毎年港街ローランでは独立記念日に各家庭でサンドイッチを食べることが習わしになった。



 腹ごしらえを終えた俺たちはバジリスクに乗り込んだ。

「無事の帰還なりよりね。すでにダークマターエナジーの充填は完了しているわ。剣太郎、もとの世界に戻りましょう」

 ソフィアがどこかうれし気に言った。

 隣に座るレイラ姫はこくりと頷いた。


 すでに嘘つき伯爵エドーワードは何処かへと消えていた。おそらく元の物語世界に戻ったのだろう。


「よし、行くぞ‼️」

 俺はそう言い、アクセルを全開に踏み込んだ。

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