第16話迎撃作戦
エレノアと呼ばれた女性は俺たちの存在に気がつくと慌ててパールから離れて、赤い髪の頭を下げた。
「こちらの方々が僕を助けてくれたのだよ」
とパールは言った。
「そうなんですね。本当にありがとうございます」
乱れた髪をなおしながら、エレノアは俺たちに言った。
「エレノア、すまないが首脳部の皆を集めてくれないか。時間がない。すぐそこまで帝国軍がせまっているのだ。迎撃のための作戦を一刻も早く作成しなくてはいけない」
「わかったわ。本営の幕舎に皆をあつめるわ。ところでパール、本当はもうその作戦はできあがってるのでしょう」
エレノアはにこやかに微笑みながら答えた。
「申し遅れました。私は大統領府主席秘書官のエレノアと申します。パールを救出していただきなんとお礼をいっていいのやら……」
赤い髪の美人はそう言った。
彼女のパールをみつめる瞳はあつい熱を帯びている。どうやらかなりの思い入れがあるようだ。
それは恋の情熱とみてとれる。
さて、当のパールはというとまた地面にむかってぶつぶつといっている。
絵に描いたような朴念仁というわけだ。
「あなた方には申し訳ないがもう少しつきあってもらえませんか。そこの御仁ならば帝国軍の詳しい陣容を説明してもらえると思うのですが」
ひびの入った眼鏡の位置をなおしながら、パールは言った。彼なりに嘘つき伯爵の能力の一端を認識しているのだろう。朴念仁だがそれなりに推察力はあるのだろう。
俺はちらりと姫さんを見た。乗りかかった船だから仕方がないが、急がなくてはいけないのもまた事実だ。
「剣太郎さん、パールさんを助けてさしあげましょう。私たちも関わってしまった以上これでお別れするのは忍びないですわ」
流石、姫さんは心優しいな。
ここで車両だけもらってさよならしてもいいのだがそれでは心残りになろうというものだ。
困っている人は見捨てない、それが俺のポリシーだ。
それほど広くもない幕舎に俺たちは案内された。
そこにはパールやエレノアを含めて、数人の男女が集まっていた。
共和国軍最高司令官にして大統領のワルズメル。軍人というよりは学者のような風貌の男だった。
戦士長のカール。どうやらこの体格の良い男が実際の現場指揮官のようだ。
中間管理職のような男がホーメイ。彼は総参謀長と名乗った。軍師というよりは調整役のようなポジションだろう。
ハウザーという男はワルズメルの副官ということだった。日焼けした顔は歴戦の勇士といった風貌だ。
合計九名の男女が長いテーブルを囲んでいる。
嘘つき伯爵エドワードがテーブルの上に置かれた白い紙に猛スピードでなにやら描いている。
それはエドワードの嘘みたいな能力の一つだ。
見たものをそのまま描き出す。
テーブルの上にはあっという間に帝国軍の陣容が描かれた。
「これがあなたが見たものですね」
パールがきいた。
「うむ、そうだ。我輩がみたものを寸分たがわぬようにここに描いてみせたぞ」
自慢気にエドワードは言い、自慢の髭をなでた。
「僕、いや小官たちの目的はただ一つです。のこのこと戦場に出てきた皇帝ヨーゼフ二世を打ち倒すことです」
紙に描かれたひときわ目立つグリュフォンの紋章を指差し、共和国軍次席参謀パールは不敵に笑いながら言った。
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