第14話脱出プラン
するりとサーベルを抜刀すると嘘つき
破片を払いのけるとパールは手をぶらぶらとさせ、久しぶりに訪れた手首の解放感を楽しんでいた。
「いやあ、助かりましたよ」
にこやかにパールは言った。
「なに、かまわぬよ」
ふふっと自慢の髭をなでながら、エドワードは答えた。
「共和国軍だっけ、あんたどうしてこんなところで捕まっていたんだ」
と俺は訊いた。
戦争前に捕まるなんてとんだまぬけだが、次席参謀とやらはそう低い身分ではないだろう。
うまくいけばこの戦場から離脱するための助けになるかもしれない。
「お恥ずかしい話なんですが、皇帝親征の情報を入手した僕、いや、小官たちは皇帝の御料車両の位置を確かめるために偵察にでたのですが、偵察隊とはぐれてしまいまして…………」
ボサボサの茶色い頭をかきながらら、パールは言った。
「それで捕まったと」
と俺がつけ足した。
「いやあ、面目次第もない」
「それでですね。お二方の力量を見込んでお願いしたいのですが、小官を共和国の本営まで送り届けてくれませんかね。いや、なに、ただとはいいません。送り届けていただければ我が軍の戦闘車両を一台お貸しいたします」
ちらりとパールは俺の顔を見ながら言った。
まあ、確かに悪い話ではない。俺たちはこの戦場から一刻も早く離脱して三十キロ彼方の港町ローランにいかなければならない。
「わかったよ。あんたをその本営とやらに送り届けてやろう。それでいいよな、姫さん」
一応、姫さんの許可をとっとかないとな。
もともとの目的は姫さんを送り届けることだからな。
寄り道することになるが、まあこの際致し方ないだろう。
「ええ、かまいませんわ。他に手段がないことでしょうし。パールさんをお助けいたしましょう」
姫さんも心よく受けてくれたことだろうし、パールを共和国軍の本営に送り届けてやろう。
困っている人間は放っておかない。
それが俺のポリシーだ。
「ところで、君。帝国の皇帝が親征しているといっていたが、それはあの大きな車のことかね」
北東の地平線を眺めながら、エドワードは言った。
彼の目には何か見えているのだろう。
彼の視力は千里の彼方を見極めることができる。
嘘つき
「ま、まさか見えるのですか」
ひび割れた眼鏡をずらしながら、パールは訊いた。
「ああ、我輩の千里眼に見えぬものなどない。これより北東約五十キロの位置にかなりの大軍が見える。その先頭にひときわおおきな車がいるな。そう、グリュフォンの旗印が見えるな」
エドワードのその言葉をきき、パールは顔を真っ赤にして、喜んだ。
「それは間違いなく皇帝ヨーゼフ二世の御料車両ですね。グリュフォンの紋章は皇帝家しか使えないのです。やはり、皇帝親征は間違いないようですね。これは勝機があるかもしれません。一刻もはやく本営に戻らなければ……」
その後、パールはぶつぶつと地面にむかってなにか呟きはじめた。どうやら、自分の世界に入ってしまったようだ。
しかし、ここからどうやってその共和国軍の本営に向かう。歩いていくのはかなり骨がおれるだろう。しかも姫さんも一緒だ。男だけならなんとかなるが、女性にあまり長距離を歩かせるのは忍びない。
そう、女性に優しいのも俺のポリシーだ。
「心配ご無用‼️」
自慢げにそう言うとエドワードはわっかにした指を口にあてた。
ピーと甲高い指笛が鳴り響く。
その音につられて平原の彼方から二頭の馬があらわれた。
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